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【映画所感】 あまろっく ※ネタバレなし

ベタすぎるがゆえの滂沱

笑福亭鶴瓶を中心にストーリーが進み、関西出身の役者やタレント、松竹芸人らが多数出演している。

想像以上にこってこての人情喜劇は、一周まわって感動の展開へと昇華される。

ほんの10年ほど前までは、毎週のように仕事で通っていた、阪神尼崎駅界隈。

この関西屈指のディープな街が舞台ということで、懐かしさ半分、なんの気なしに劇場に赴いたのだが、結果、うれしい誤算でおつりがくる

中盤からは、こころの拠り所であったかすがいを失い、物理的にも距離を縮めざるを得なくなった江口のりこと中条あやみの暴走が止まらない。

生粋の喜劇俳優も顔負けの澱みない関西弁の応酬は、じつに耳に心地よい。

脂ののった中堅の即興漫才、シチュエーションコントを見ているようで楽しい。

ちょこちょこ挿入される過去エピソードも、珠玉の時間。

中村ゆりの美しさ、達者な子役、松尾諭の安定感。三位一体のドラマだけでも十分満足できる。

ただ、国民に数パーセントは確実に存在している、大阪弁、関西弁アレルギーの人たち。

とりわけ、近畿圏の文化は生理的に無理といった人種には、関西人特有の丁々発止のやり取りが尋常ではないので、この場を借りて注意喚起しておきたい。

もちろん、耐性を備えた者にとっては、福音であり、この上ない多幸感をもたらせてくれる

物語終盤、自分が、1995年の災禍を未だに引きずっていることに、あらためて思いいたる。

「アカン、この回想はアカンやつや。涙腺を根こそぎもっていかれるっ!」

スクリーン上の松尾諭の行動に涙しながら、意識は震災直後の『鶴瓶・上岡 パペポTV』(1987〜1997)に飛ぶ。

通称「怒りのパペポ」と呼ばれるこの放送回は、じかに震災を経験した被災者及び、その周辺の人々の“偽らざる想い”を代弁したものだった。

本作のタイトルでもある、“あまろっく”の意味と役割が、主要人物のメタファーとなり、きれいに収束されていく。

しかし、ラストの一大イベントは、どう贔屓目に見てもやりすぎだろう。ただ、冷静に俯瞰することができれば、これこそ“ベタの本懐”ともいえる。

笑いに飢えた関西人の懐のうちでは、まだまだキャパシティの範囲内なのだ。


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