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ばるぼら

「ばるぼら、バルボラ、Barbara、Barbarella、バーバレラ…」
「ばるぼら」のタイトルは、1968年公開のSFカルト映画「バーバレラ」に由来するのかな? などと、ぼんやり考えていると劇場は暗転。
 
 それにしても「バーバレラ」。あの“エロカッコイイ”ポスターのデザインを思い浮かべるだけで、頬が緩む。全盛時のジェーン・フォンダの魅力が詰め込まれたような映画で、コケティッシュな立ち居振る舞いで危機を乗り越えていくさまにドキドキした(なにせ古い映画で細部までは思い出せない…)。
 吹き替え版の声優には小原乃梨子が起用され、おバカっぽい天然の可愛らしさは3割増し。先代の野比のび太、マージョ~ドロンジョときた日にゃもう、最高のキャスティングと言わざるを得ない。ほんと、声って大事。
 以上のことを踏まえると、主役のバルボラに二階堂ふみというのも、妙に納得。
 
 で、肝心の「ばるぼら」。手塚治虫の原作で、1973年に発表。手塚が手がける大人向けマンガの代表作のひとつらしい。この作品の監督は、映像作家で息子でもある手塚真。原作は未読なので、父親の素材を息子がどう料理するのかへの興味一点で観に行った次第。作品自体は、73年当時の世相を無理やり現代に当てはめたようで、そこかしこに無理が見え隠れする。ちょっとずつ出演者の衣装や生活様式が“今”とそぐわない。バルボラは、根城を持たない路上生活者らしいのだが、スクリーンから沸き立ってくるような“臭い”が感じられない。このあたり、撮影はクリストファー・ドイルなのに、一体どうしたことか? 避暑地の別荘のようなところで執り行われるパーティーにしても、大物政治家の邸宅にしても、すべてが前時代的。最後まで違和感だったのは、主人公・美倉洋介のサングラス。今時、顔の上半分を覆うような真っ黒なサングラスを、昼夜問わずにかけて外出するかね? 超人気の小説家とはいえ、「静かなるドン」じゃないんだから。

 異常性欲者・美倉洋介ということだが、バルボラとの行為は、いたって正常。その対比として、バルボラ以外の女性たちとの性交渉が凄いことになるのかというと、それほど際立った描写が表現されるでもなく、なんとも肩透かし。原作を忠実に再現することに重きを置きすぎたがために、自身の作家性をすみっこに追いやってしまった結果の惨劇…と言ったら言い過ぎだろうか。
 
 80年代~90年代半ばまで、メディアによく登場していた手塚真。当時最先端の映像技術をテレビで解説してくれていたことと、本人のいかにも“アートやってます”然としたビジュアルが思い浮かぶ。最近で言えば、落合陽一がこのポジションにしれ~と収まっているような、いないような… そういえば、2人とも有名作家のご子息。裕福に暮らした子どもが、豊富な財源を元手にオタクとなり、ただでさえ金のかかる映像の世界に向かうのは、エンタメ業界の自然の摂理かもしれない。岡田斗司夫もばっちり当てはまってるし。

作品の枝葉末節をつらつらと考えてしまうのは、映画の内容自体が今一つだったからこそ。ビジュアル・アーティスト・手塚真ならば、もっと大胆にアレンジできたはず。芸術の女神・ミューズ=バルボラを巡るクリエーターやアーティストたちによる、SFサバイバルアクションくらいに振り切ってほしかった。これでは、二階堂ふみの“脱ぎ損”ではないか!

  あぁ~、最後まで「バーバレラ」が、頭の中を支配する……

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