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「新世紀エヴァンゲリオン劇場版DEATH(TRUE)2 / Air / まごころを、君に」

3作品を3時間弱にして、年始に大放出! タイトルを書くだけで大変だ。

「新世紀エヴァンゲリオン」テレビシリーズ1話~24話までを再構成した総集編“DEATH(TRUE)2”と、テレビでは描き切れなかった25話と最終26話“Air / まごころを、君に”のカップリング作品と言ったほうが、わかりやすいかもしれない。

“DEATH(TRUE)2”

いきなりのフィルムのざらつき感に衝撃。97年公開ということは、ほぼ四半世紀経っているということ。思えば、地デジ化のはるか昔。でも嫌いじゃないよ、このチープさ加減。その証拠に、話の本筋に入るとすぐに、投影方式なんてどうでもよくなる。

やっぱりエヴァは、受け手のほうが身構えてしまう。己の覚悟を試される稀有な作品に他ならない。

もうすぐ公開の最新作にして完結編「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の復習がてらに、軽い気持ちで赴いたのだが、予想に反して相当手強い。

テレビシリーズの総集編とは名ばかりで、時系列はぐちゃぐちゃだったり、途中に主要キャラ4人で弦楽四重奏を始めちゃったり、エヴァンゲリオン所見の人には絶対についていけない構成。

97年の公開当初に観た以来だから、すっかり忘れていた。

テレビ放映当時、その斬新な演出とメカデザイン、細かなディティールの数々に魂を奪われた者としては、一気に気持ちは世紀末にタイムスリップ。

あのシーンにこのセリフ、どれをとっても懐かしい、と同時に今でも十分鑑賞に堪えうる普遍的なSFであると再認識させられる。

演出の妙と言えば、その後いろいろな広告媒体やバラエティー番組に影響を与えることとなる、画面いっぱいの極太明朝&ゴシック体による情報提供。フラッシュカードのように一瞬で切り替わるその手法は、漢字文化の国に生まれて良かったとつくづく思い知らされる。

共通認識として、漢字一文字で意味が成立するということは、説明なしに一瞬目に飛び込んできただけで、脳内に心象風景や情景を植え付けることができる。サブリミナル効果としても、日本人にとってこれほど有効な手段はない。

次に、それまでのアニメーションではないがしろにされてきた感がある、電柱や電線、信号機や道路標識に執拗なまでにスポットを当てるところも新しかった。リアルにこだわるがあまり、内容そっちのけ外連味たっぷりとは決してならないところに映像作家の本懐を見た。

セリフに頼らず、それらの背景描写のみで、主人公の心の移ろいまでも表現するのだから、畏敬の念が自然とあふれ出す。

使徒のデザインに至っては言わずもがな。毎回あんなに奇妙で奇天烈な造形物が、ところ狭しと暴れ回るのだ。知的探求の興奮は冷めやらない。そして時には、アニメーションなのに敢えて実写も挿入してくる掟破り。

これら実験的手法ともいえる庵野演出は、のちの「彼氏彼女の事情」(原作:津田雅美、98年にアニメ化)につつがなく受け継がれ昇華してゆく。あ~、ここにきて「カレカノ」がとてつもなく観たくなってきた……

“Air / まごころを、君に”

とにかくオープニングからぶちかましてくれる。観客置き去りはやむなしとばかりの、怒涛の畳みかけ。シンジの自慰行為など、誰が想像し得ただろうか? 

見たくないものを、目をこじ開けさせられ、無理やり見させられた心境だ。日常を忘れ、エヴァの世界に現実逃避しにやってきたオタクどもに突き付けられた、鋭利な刃。いやいや、まさしくリアル・ロンギヌスの槍。

何とかストーリーに喰らいつき、置いてきぼりにならぬように踏ん張る。自分とシンジを重ね合わせていたことを恥じる暇もなく、NERV本部が急襲される。ここからは、白眉なアクションのオンパレード。

中でも、アスカが駆る弐号機と9体のエヴァ量産機による最終決戦は、まさしく総合格闘技。立ち技、寝技、締め技何でもござれのオールラウンダー、エヴァンゲリオン弐号機に勝機が見えたのも束の間、あそこまでグロい結末が用意されているなんて……アスカファンは失禁覚悟で見届けよと言いたい。

生死をかけたギリギリの状況においても、シンジはシンジのまま。流石筋金入りの厨二病。しかし、極限状態でのミサトの行動に、オタクたちは固唾を呑む。

「大人のキスよ……」

「大人のキスよ……」

「大人のキスよ……」

「大人のキスよ……」

ぐるぐるぐるぐる、ミサトの言葉は甘い余韻を残しつつ、脳内を駆け巡る。

でも騙されちゃいけない。思ったとおりだ。アダムとリリス、ヒトとシトとの関係性や謎は、最後まで自分の理解の及ぶ範疇にはなかった。

解釈は人それぞれ、受け身を絶対取らせない“投げっぱなしジャーマン”のような映画。

ラストのアスカのセリフを聴いて帰路に就くオタクの足取りは、絶望的に重い。十字架を背負って、ゴルゴタの丘を上る殉教者のそれだ。

またまた公開延期となった「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」。お決まりの放置プレイには、もう慣れっこになってしまった。

ただ今回だけは、馬鹿正直に並走してきたオタクたちを、しっかりと昇天させてくれ!


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