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「サイレント・トーキョー」と「ザ・ハント」に共通するもの

 
左派と右派、あるいはリベラルと保守というべきか。イデオロギーに根ざしたテーマを内包しながら、物語は進んでゆく。

クリスマスでにぎわう渋谷の街で爆弾テロが発生。捜査中の刑事や警官たちを巻き込み、死傷者多数の大惨事となる。この爆破シーン、ストップモーション撮影により爆風の凄まじさが如実に伝わってくる演出に感動。風圧による皮膚の揺れ、なぎ倒される群衆、粉々に砕け散った建造物や肉片が飛翔するさまなど。近年観た邦画アクションの中では、秀逸の部類に入る「サイレント・トーキョー」。

※以下、ネタばれに近い内容が含まれるので、自己責任で読み進めてください。

肝心の内容はというと…
国連の平和維持活動の一環で、地雷処理作業に従事していた自衛官が、現地の少女の逆恨み的な行動で、心と体に深い傷をかかえて帰国。自分たちが命を懸けて紛争地域で活動し、目にしてきた現実と、平和ボケしている日本社会の“今”とのギャップに絶望したことが、危険な思想を加速させる。

テロリストが計画を実行する際、背中を押す役割として登場する日本国総理があまりにも安直で、少し興醒め。「テロリストとはいかなる交渉もしない」とメディアの前できっぱりと宣言することは、一国のリーダーとして至極当然で、国際社会の共通認識のはず。脅される度にホイホイと要求を聞いていたのでは、リーダーとして国の舵取りを託すことはできない。現実世界では、裏交渉という手も使われるのだろうが、わが国のインテリジェンス部門に過度な期待をかけても、梯子を外されるだけ。何せ、スパイ防止法も満足に成立させることができないのだから。

99分という上映時間なので、テンポよく観られて迫力の映像を堪能できる分にはおススメ。しかし、主人公の勘に頼りきった捜査や、テロリストの動機の希薄さなど、もう少し丁寧に描けなかったかなとも思う。

その点、「ザ・ハント」は掛け値なしに面白い。今年いちばんの拾い物だったかもしれない。
こちらもリベラルと保守との対立構造が主題で、現時点で正式には次期アメリカ大統領が決まっていない状況と、微妙にリンクしている。鑑賞するタイミングとしてはピッタリ。

セレブリティーな生活を謳歌するエスタブリッシュメントが、田舎者の反エスタブリッシュメントをハント(人間狩り)していくお話。きっかけは、セレブたちが仲間うちのSNSで発信した内容が、暴露・拡散されて大炎上。地位と信用を失ったセレブたちは復讐を決意し、自分たちを貶めた連中を次々に誘拐して“狩場”に解き放つ。

この狩る側のリーダーが、オスカー女優のヒラリー・スワンク。「ミリオンダラー・ベイビー」から15年、キレッキレの格闘術を再び披露してくれただけでもありがたい。今回の対戦相手は、新進気鋭のベティ・ギルビン。この女優さん、めちゃめちゃカッコイイ。狩られる側にまちがって入れられてしまった元海兵隊員で、狩る側を反対にどんどんハントしていく。適度なグロさを伴いながら(R15指定)、ベティのクールな仕事ぶりにこちらの留飲は下がりっぱなし。

映画として見事なのは、左派、右派問わずにそれぞれの問題点、違う立場の意見に耳を貸さない愚かさ、レッテル張りの無意味さを面白おかしくギャグとして扱っているところ。政治的にデリケートな問題をサラッと笑いに昇華できる懐の深さが、「ザ・ハント」最大の魅力ではないだろうか。

「サイレント・トーキョー」も佳作にはちがいないけれど、シニカルな笑いが加味された分、「ザ・ハント」の圧勝と言わざるを得ない。

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