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70年代、Pink Floydという孤高の頂き‼

この70年~75年という短い期間に花開いたプログレッシブ・ロックを語る上で外せないのが、なぜ長大で難解なコンセプトが受け入れられたのか?その時代的な背景を知る事が、理解の助けになると思います。かつて60年代~70年代後半にかけて英国では「英国病」と呼ばれる病が社会全体を覆っていました。それはどんな病なのか?この病の発端は、戦後英国政府が進めた「ゆりかごから墓場まで」という充実した社会保障政策を取り続けた結果、主要産業は国営化され、税金は所得の半分以上になり、英国が社会主義のような国家になり果てた結果、人々の労働意欲が失われ、社会全体の活力がなくなり、夢や希望のない状態が長く続く事で、「英国病」と揶揄される状態になってしまったのです。その英国社会に対するアンチテーゼとしてロックが台頭し、多くの若者に覚醒を促す作用がありました。その1つのジャンルとしてプログレッシブ・ロックがあるのです。今まであった、1曲の持つパワーからアルバム全体を1つのコンセプトとしてトータルで深いメッセージを伝える手法が確立されたのです。その記念碑的なアルバムがKing Crimson『クリムゾン・キングの宮殿』でした。このアルバムのトータル・パッケージとしてのメッセージ性は非常にインパクトがあり、かのビートルズの『アビーロード』を1位から引き摺り下ろしたと言わしめる噂が出る程、強烈な印象を大衆に与えたのです。
余談になりますが、最初のコンセプト・アルバムはビートルズの『サージェント・ペパーズ・…』になりますが、そのコンセプトはビートルズというバンドでは出来ない事を、架空のバンドを立ち上げる事によって、そのバンドにビートルズでは出来ない事をやらせるというコンセプトが斬新であったのです。それが、このアルバムの評価が高い点なのです。
その方法論をロバート・フリップはピート・シンフィールドという詩人に歌詞を書かせる事で、コンセプトを構築することが出来たのです。しかし、彼の書いた詩は他のメンバーに重くのしかかり、アルバムが成功したのにも関わらず、バンド崩壊という憂き目をみます。そしてクリムゾンが迷走している間に、人気と実力を身につけてきたのが、今回紹介するPink Floydだったのです。

Pink Floydのデビュー当時は、他のバンドと同じようにR&Bやブルースのコピーから始まっています。この頃はシド・バレットがフロントマンとして人気を得ています。当時は、まだアート・ロックとか、サイケデリック・ロックと言われていました。そして、紹介する「See Emily Play」が収録されているアルバム『夜明けの口笛吹き』では、シド・バレットの才能がいかんなく発揮されています。
曲は「Pink Floyd - See Emily Play」

そして彼らは、『神秘』『ウマグマ』『原子心母』『おせっかい』と着実にヒットアルバムを出してビッグネームになっていきます。そして、米国ツアーで覚えたドラッグにより中毒になって精神崩壊してしまったシド・バレッドに代わって、バンドの屋台骨を背負ったのがベースのロジャー・ウォーターズでした。彼がアルバムのコンセプトを創り、歌詞を書き上げて創ったアルバムで大成功したのが『狂気』というアルバムでした。まだ「英国病」のさなかにある中、『人間の内面に潜む「狂気」の闇』にスポットを当てたアルバムは、英国以上に米国でも話題となり、アルバムは米ビルボード、アルバム部門200位以内に15年間に渡ってランクインするというギネス記録を打ち立てたうえに、全世界でも5,000万枚以上売り上げるというモンスター・アルバムでもありました。特筆すべきは、彼らがツアーを開始すると、圏外に去ったアルバムが再びチャートインする現象が度々起こった事です。
曲は「Pink Floyd - TIME」

【TIME】和訳
退屈な一日が、時間を刻みながら過ぎていく
お前は、その場しのぎで時間を浪費して
故郷の地面を蹴って歩き
誰かが道を指示してくれる事を待っている

お前は、陽だまりの中で寝転がるのにも飽き飽きし
雨の日は家の中から外を眺めている
お前は若く、人生は長い
そして、今日も暇を持て余している

そしてある日
お前は、10年の月日が流れた事に気が付き
誰も、いつ走れとは言わなかった
お前は、スタートの合図を聞き逃したのだ

お前は、太陽に追いつこうと走り続ける
しかし、太陽は沈んでいく
そして、また後ろから追いかけてくるのだ
太陽は相対的には同じだが
お前は、年をとっていく
息が切れ、死は一日一日近づいてくる

そして一年一年が短くなり
時間を見つけることもできない
計画しても無駄に終わるか
あるいは半ページの走り書きで終わる

静かな絶望にしがみつく
それが英国流だ
時は過ぎ、歌は終わった
もっと言いたいことがあったのに

私が、この訳詞を見た時は、中3の高校受験の頃でした。当時もっと固い訳詞でしたが、胸の奥に突き刺さるような感覚を覚えています。
そして、この年で「TIME」の歌詞を読み返すと、心が疼きます。ずいぶん時間を無駄にした感覚が蘇ってきます。

次のアルバム『炎~あなたがここにいてほしい~』は、邦題をPink Floyd側からの指定という話しが伝わっています。このアルバムのコンセプトは、精神崩壊でバンドを去っていったシド・バレットへのリスペクトした。このアルバムはギタリスト、デヴィッド・ギルモアのメロウなサウンドが、とても切なく秀逸です。なおアルバム制作中に変わり果てた姿のシド・バレットがスタジオに現れ、メンバーを驚かせた事が事実として伝えられています。
曲は「Pink Floyd - Shine On You Crazy Diamond(狂ったダイヤモンド)」

続いてのアルバムは『アニマルズ』です。77年に発表された当時の英国はパンクが隆盛を極めている時でした。また多くのプログレ・バンドが活動を休止している中、独りフロイドがパンク勢に押し流される事無く、フロイドからのパンク勢に対する回答みたいなアルバムでした。このアルバムは、『人間を動物に喩えて社会批判する』コンセプトになっており、エリート・ビジネスマンが、資本家が、平凡な労働者がにそれぞれ喩えられています。ベースになっているのは、ジョージ・オーウェルの『動物農場』と言われています。この作家は『1984年』で、ディストピアな未来社会を描いて、風刺文学の名作と評価されています。
曲は「Pink Floyd - Dogs」

やっと、70年代最後のアルバム『The Wall』に辿り着きました。アルバムの発表は79年で2枚組の大作で売りだされ、全世界で3,000万枚以上の大ヒットを記録しました。コンセプトは『社会との疎外感』で、それを「壁」で表現しています。実際コンサートでもステージと観客との間に壁が設けられ、演奏は壁の裏側でするという拘りようでした。このようにロジャー・ウォーターズ主導のやり方に、他のメンバーとの間に壁が出来ていたのも皮肉です。特に、キーボードのリチャード・ライトは、制作をボイコットしたため、バンドを解雇される事件まで起きています。でも彼は、契約上バンドを去る事も出来ず、「ザ・ウォール・ツアー」まで帯同を余儀なくされました。後にこのアルバムは1982年に、映画としても制作されヒットしています。
曲は「Pink Floyd - Goodbye Blue Sky」

このバンドを振り返ってみて、やはりヘヴィなコンセプトはメンバーの精神を蝕んでいくと思わされた事です。アルバム制作は良いとしても、このコンセプトをLIVEでやり続けると、メンバーのメンタルが耐えられなくなってくる事が分かるような気がします。ロジャー以外のメンバーは『アニマルズ』制作以降、息抜きに個人的なアルバムを制作しています。
個人的に思う事は、King Crimsonが『…宮殿』でバンドが崩壊し、Pink Floydは『The Wall』でバンドが崩壊と、くしくもアルバム単位でみると10年のタイムラグがありますが、個人主導の強い思い込みがメンバーとの間に軋轢をうみ、バンド崩壊という強い副作用が働くことが、今回の考察で見えた事でした。

それでは、この辺で…


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