20200208 無題

 僕の上気道をちくちくと刺しやがる彼の感冒根腐れ大魔王は、全く以て快癒へ至ってやろうという気配を醸さない。元よりそのような積もりは毛頭ないと、またしても僕の肺腑をきゅうと締め付ける。愛らしい圧搾音を聞いた僕は「ボフォエ!!」とヒト科之仇敵匪徒細菌が満載となった排気ガスを漏らした。咳嗽は胸骨をみしと撓わせる。出処のわからない鈍痛に翻筋斗を打って転げ回ると、いつだかに失くしたと思っていた妖怪ウォッチのスチール缶ケースを寝台下の隙間にて発見した。僕は妖怪ウォッチのコマさんが好きだ。そりゃあもう大層に。あの狛犬饅頭が持つアンニュイなフォルムは慕情を掻き乱す。赦されるのならば頬擦りをしてやりたい。添い寝してもらいたい。怪我の功名、咳嗽の吉報。何があろうと僕の天辺から爪先までに纏わりつく倦怠感は増すばかりなのだけれど。
 僕の上気道がまたしても異物を迫り上げようとする。ふと湧き出した叛骨の精神が口をきつく噤ませる。排気ガスは逃げ場を逸し、眉間の奥に鋭痛を引き起こす。結局、僕の叛骨の精神はぐしゃぐしゃにうらぶれた。
「ブッフォン!」
 僕はイタリア人ア式蹴球選手のファミリー・ネームを叫んだ。

映画観ます。