私とは何者か?という問いが自分を小さくする 私を超えた「わたしの言葉」が顕れてくるとき
以前のnoteの記事でもお伝えしましたが、来年食堂を開店します。
過去の食堂の記事はこちら
https://note.com/zen_akano/n/n55a65f48a25a?magazine_key=m0e90afa0d44a
食堂の名前が決まりました。「三幸食堂」です。名前には3つの幸せへの願いを込めました。
自分が幸せになりますように。
周りが幸せになりますように。
生きとし生けるものが幸せでありますように。
まず、自分自身が幸せであること。このように考えるようになったのは、大きく変わった点の一つです。以前は、「人を幸せに出来ない人間はダメだ」とジャッジしていました。
自分が幸せであることは、人を幸せにするエネルギーの源です。自分が幸せでないと、どこかで燃え尽きてしまいます。だから、まずは食堂で働くスタッフの皆さんが、笑顔であること。私自身が幸せを感じられていること。
そして、お客様の幸せ。あったかいご飯を食べたときに、人は自然に笑顔になります。女性陣が心を込めて作ってくれるご飯とお味噌汁で、やって来てくださるお客様に笑顔と活力が生まれますように。
最後に、生きとし生けるもの、つまり食材の幸せです。与えていただいた「いのち」を大事に無駄なく使わせていただきます。
最近、自分がなにものか上手く説明出来なくなりました。
コーチ?
食堂の親父?
経営者?
禅を学ぶ人?
ビジネスにおいては所属する団体や組織、役割の肩書があります。初対面のときには、名刺に書かれている会社名や肩書きを見て、ビジネスをスタートします。
一方で、禅では、「なにものでもない」ところからスタートします。なにものでもなく生まれ、なにものでもなく死んでいきます。
職業のカテゴリーではコーチであり、食堂の親父です。まったく別の仕事のように見えますが、しっかりと根っこでは繋がっているように思っています。
与えられたご縁を生きているという「根」です。
人は、その時々のご縁で、社長になったり、社員になったり、親になったり、友達になったり、師匠になったり、弟子になったり…と形を変えていきます。
それは、役割という目に見えるものだけではなく、今この瞬間にも目に見えない形で変化しています。それが感じられるかどうかは別にして、変化しています。
私とはなんだろう?
子供の時、ずっとそんな問いを持っていました。
私は、小学生だ。
私は、10歳だ。
私は、カレーライスが好きで、高野豆腐が嫌いだ。
私は、シャーロック・ホームズが好きだ。
言葉で表現できる「私」は、自分サイズの私といえます。
結構小さいですね。なんとか小さな枠を破りたいともがいていました。早く大人になりたかったのは、少しでも自分のサイズを大きくしたかったのかもしれません。でも、体は大きくなっても、言葉のサイズは大きくはなりませんでした。大げさにはなったかもしれないけど(笑)
言葉には、サイズがあります。
自分サイズの言葉。
自分と相手を包む言葉。
場から現れる言葉。
宇宙とつながった言葉。
自分を解き放つほど言葉は開かれていきます。
私サイズの言葉には限界があるけど、なにかとつながったとき、言葉は広がっていきます。自分で考えた言葉には枠があるけど、引き出された言葉は周りと溶け込んでいきます。
新しい言葉に出会っていくというのは、既存の「私」から新しい「わたし」への旅と言えます。
今、禅の師匠である藤田一照さんの仏教塾に参加しています。今年のテーマは、「初心の技術」ですが、先日は「初心の言葉」という視点を紹介してくださいました。
ちなみに詩というのは、言葉になっていない新しい世界へのいざないです。ある詩人が語っていた「詩とは自分が生み出すのではない。自分を通して顕れてくるものだ」という表現が印象的でした。
確かに人前で緊張しているときに何かを言おうとするほど、言葉は固くなっていきます。本当に言いたいことがなかなか出てきません。一方で、友人と楽しい会話をしているときは、自然に柔らかい言葉が出てきます。また、1人でコーヒー飲みながらぼーっとしているときに、ふとナイスなキーワードがどこからかやってきたりします。
また、詩人の谷川俊太郎さんは、著書の中で「詩には言語以前の状態に戻りたいというやみがたい欲求もひそんでいる」と書かれていました。
言葉には、言葉になる前の状態があります。それは、手にはとれないですが、確かにあるのです。そして言葉とは、そもそも言葉が生まれる源流に戻りたがっているというのは、すごく興味深いです。言葉にも故郷があるのですね。
今回講座で紹介してくださった「初心の言葉」というのは、新鮮な気持ちにさせてくれる表現です。こういう表現をまだまだ探究していきたいです。
今回の話に戻りますが、私とは何者かという問いは、私をさらに形作っていく方向です。もう一つ、自分をバラバラにして、私になるまえの「わたし」に戻る方向があります。そんなことは可能なのかと思われた方も多いと思います。
それがまさに坐禅だと思います。坐禅とは坐ることだけではありません。食べることも、歩くことも、まさに今この瞬間、現在進行形で起こっていることに身をおくことです。
「わたし」に戻るという状態は、対話でも顕れてきます。セッションという対話を通して、まずは固くなった私という塊を一度ほぐして柔らかくしていきます。これが初心の言葉に出会う最初の一歩です。
こんな人になりたいという思いをコーチングのセッションの中で、お聞きすることがあります。
尊敬される上司になりたい。
誰もやったことがないようなことを成し遂げる人になりたい。
あの人のようになりたい。
こうありたい、こうなりたい、あの人のようになりたいというのはセッションのテーマとしてはよく出てきます。
なりたい姿を具体的に掘り下げる。
何が課題なのか。
どうすればよいのか。
私も、以前はこれらの質問をしていました。ここまでは、考えていけば答えを出すことができます。
ただ、この問いには、終わりがありません。これは、渇望の問いといえます。渇望というのは、泡のようなものです。掴んだと思って手の中を見ると、消えているのです。だから、もっと確かな答えが欲しくなります。これは、「私」の中で閉じた問いといえます。考え方によっては、言葉にするほど逆に自分を枠に閉じ込めてしまいます。
「なりたい」というのは、「知りたい」という言葉が固くなった状態ではないでしょうか。
私を知りたいというのは、自分のサイズをもっと広げたいという願いの現れです。
では、本当に自分を解き放っていく方向とは。それは、どんな問いでしょうか。
あなたは、どういう人ですか?
この問いはなかなか難しいですね。
ちなみに、あなたは自分の匂いを知っていますか?
自分で自分の匂いは分かりません。
自分では決して分からない自分があります。
もしあなたが自分を知りたいとしたら、あなたを知る方法があります。
それは、あなたは相手の何を引き出しているか。
あなたといるとき、相手はどんな人ですか?
もし、目の前の人を優しいなあと感じるなら、それはあなたが優しいのです。
もし、怖いなあと感じるなら、それはあなたが怖いのです。
人は、いろいろな側面を持っています。
いい人、悪い人という片一方の人はいないのです。
人の心は引き出されます。
環境に引き出されます。人に引き出されます。
いい人でも、悪い人になる。
悪い人でもいい人になることがある。
それは瞬間で変わっていきます。
昨日は優しかったはずの妻が、きょうは怒っていたとすれば、あなたの中に、きょうは怒りがあるのかもしれません。
昨日は悲しかったはずなのに、今は笑っていたとすれば、それはあなたの中に、太陽が昇ってきたのです。
あなた自身は、天気のようにすぐに変わります。
私はこんな人という風に、つい自分を理解したくなります。相手はこんな人と固めることで安心したいのです。自分の中で人間を固めてしまうのです。
でも、それは幻にすぎません。
相手の反応は期待外れかもしれません。
ただ、ちょっと待ってください。期待を外してみてください。
つい、人は相手を自分の期待で見ます。
こういう反応をしてほしい。
こんな人であってほしい。
こういう言葉をかけてほしい。
それでは、相手の本当の姿は見えてきません。そういうとき、あなたはあなたのことが見えていません。
期待を外して、相手のことを生で見られたとき、あなたは自分のことを知るでしょう。
相手がコロコロと変わる姿をみて、自分が姿もコロコロと変わっていくことに気づきます。
自分自身の心は、相手に引き出されていることに気づきます。
ちなみに今、あなたはこの言葉を読んでいて、何が引き出されているでしょうか?
人は引き出されることで、自分を知ることが出来ます。当たり前のようですが、案外素の自分に出会うのは難しい。
裸の状態をそのまま体験するというのは、まさに禅の修行です。逆にいえば、修行すれば、少しずつ体験できるようになるということです。
わたしというのは、相手を引き出している。そして相手から引き出されている。
その両方が交わるとき、自分とは何者か?という問いが消えていきます。
これは「私」という形ではなく、「わたしをしている」という現在進行形になった瞬間です。
「わたしをしている」とき、どんな「わたしの言葉」顕れるでしょうか。
そこまで知りたいと思いませんか。
私は知りたいです。
きょうのセッションでもどんな「初心の言葉」が顕れてくるのか楽しみです。
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