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Zen2.0 2022 セッションレビュー 〜DAY1 セッション#7〜

2022年9月10日 DAY-1 #7

シスター・チャイさま・島田 啓介さま

登壇者のプロフィールは以下でご覧いただけます。

・シスター・チャイ・ニェム (釈尼真齋嚴)さま
・島田 啓介さま

1日目午後3つ目のプログラム(#7)は、「Thick Nhat Hahn禅師の伝えたインタービーイングの世界」。フランス プラムヴィレッジと北鎌倉をオンラインでつないだ対談です。旧知であるお二人の対談は、和やかな雰囲気で始まりました。

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はじめに、シスターチャイが鐘を招きました。(プラムヴィレッジでは、鐘を鳴らすことを「鐘を招く」といいます)
「耳からだけでなく身体全体で、リラックスして皆で鐘の音を聴きましょう」

一人では何もできない。
一番大切なのは、コミュニティ

本題に入る前に、シスターチャイがプラムヴィレッジ(僧院)について話してくださいました。そして、島田さまとティック・ナット・ハン師(以下、”タイ”と記します。ベトナム語で先生の意味)の思い出を語ります。

シスターチャイ:プラムヴィレッジは、ベトナム戦争時の1982年、フランスで亡命生活を始めたタイが平和活動の仲間たちとつくったコミュニティです。
「どんなに才能があっても、一人では何もできない。一番大切なのはコミュニティだよ」というのがタイの教えの一番大切なところでもあります。
昔は、村(コミュニティ)の中で祖父母や近所の人といった多くの人の中で子どもは育っていました。今は核家族、個人主義的になり過ぎて、お隣の人とも挨拶することも少ない。人々は孤立してしまって、精神的にも病んでしまう人も増えてしまいました。だから、こういったヴィレッジで、皆が一緒に生活することが大切だよ、というのがタイの教えであり、プラムヴィレッジで大切にしているプラクティスです。

そして、タイはいつも日本の話しをしてくださいました。
「日本の文化には、禅の教えが染みついています。だから、“マインドフルネス”を海外から輸入するのではなく、もともと自分たちが持っている知恵を大切にして、それを再発見することが大切です」

もっと力を抜いて、もっとリラックスしましょう

島田さま:1994年の夏のリトリートで、初めてフランスのプラムヴィレッジに行きました。世界中から集まった人たちが、皆で歌ったり踊ったりゲームをしたりして、大変仲良く親切にしていただきました。

シスターチャイ:プラムヴィレッジでは、子ども連れでリトリートに参加することができますので、静けさを求めてくる方は、最初びっくりされます。もちろん沈黙の時間もありますが、皆でわいわい話をしたりして、日常で使えるマインドフルネスを身につけて、日常の生活に持ち帰ってもらうことをしています。

島田さま:プラムヴィレッジの先生がたを日本に招いてリトリートする時に、いつも言われるのが、「”遊ぶ”ということを大切にしてください」ということ。瞑想と日常とのギャップをつらない、そして、子どもたちも一緒に瞑想するというのもキーになるのではと思います。
実際にプラムヴィレッジの方たちとお会いすると、途端に安心します。あり方そのものが、「もっと力を抜いて、もっとリラックスしましょう」という教えというか、タイがそういう方だったですね。

シスターチャイ:タイも、出家者だけの法話の時はもう少し厳しく、家族を叱るみたいな時はありましたが、お父さんというよりも温かいお母さんのような存在でした。タイの先生が、食べるものが十分になかった時代にも、若い弟子たちのために、一生懸命、ご飯をセーブしくれたり、暖かくいられるように服を縫ってくれたりしたそうです。本当に温かい先生の元で育ったので、それを受け継いで、タイも私たちのお母さんのような存在でした。

島田さま:プラムヴィレッジでは、誕生日をハッピーバースデーでなくて、ハッピーコンチュネーション(継続の日)と言っていますね。生まれたことも親からの継続であるし、いろいろ教わる人からも継続。タイが亡くなってからは、タイから何を継続したのかと強く思います。

”Interbeeing” 他の存在のお陰で存在している

対談のテーマである、”interbeing”。この”interbeing”という言葉を最初に使われたのがタイでした。タイは、著書なかで”この言葉が生まれた時のことを書いておられます。

シスターチャイ:英語で”being”、”存在する”という言葉がありますが、「他の存在のお陰で存在している」ことが真理であるとして、タイは “inter being”という言葉を普段から使っておられました。このアイデアは、もともと、仏教経典『華厳経』の中に書かれています。
実は、”inter being”という言葉が生まれた瞬間に、環境活動家であるジョアンナ・メーシーさんが立ち会っていたそうです。

1982年に開催された「国連軍縮特別総会」で、タイが登壇で読んだ詩『私を本当の名前で呼んでください』にジョアンナさんは感動して、タイから仏教を学ぶようになりました。
その後、アメリカでのリトリートで、タイが『華厳経』の中にあるアイデアを説明していて、「英語で何かよい言葉はないか、”togetherness”はどうだろう?」といろいろな言葉を提案していたのですが、しっくりこない。ある朝、タイが、”interbeing”という言葉を思いつき、ジョアンナさんに相談したところ、「それよ!それが一番アイデアを表している」と。その時から、”interbeing”という言葉を使うようになりました。

自分の身体に帰って、心の声を聴く

ここで、島田さまから「鐘を聴きませんか」と提案がありました。
シスターチャイが鐘を招かれます。

シスターチャイ:プラムヴィレッジでは、鐘の音を聴くことも瞑想の一つになっています。鐘の音を聴くたびに、今やっていること、話していること、そしてできれば、考えていること、すべてをストップして、自分の身体に帰ってリラックスして自分の心の声を聴くという実践をしています。プラムヴィレッジのアプリでも鐘の音がありますので、よろしかったら実践してみてください。
では、鐘の音を聴きましょう。

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島田さま:『私の本当の名前を呼んでください』は、“interbeing”を象徴するタイの代表的な詩だと思います。詩は、このように締められていますね。

私の本当の名前で呼んでください。私のすべての嘆きと笑いが一度に聞こえるように。私の喜びと苦しみが一つであるとわかるように。私を本当の名前で呼んでください。私が目覚め、このハートの扉が開け放たれるように。慈悲という名の扉が

島田さま:タイがベトナム戦争を経験されて、本当に慈悲と知恵の瞑想を実践された中でこの詩が生まれたように思います。
私たちは、敵味方の対立を超えて、慈悲の気持ちをどのように実践していったらよいのでしょうか。ぜひシスターにお聞きしたいと思っています。

敵味方の対立を超えるには

シスターチャイ:今、私がライブストリーミングしているのは、タイの本や法話に使われていたツールが展示されている部屋です。ちょうど、私の横にコインが飾られていますので、これを紹介したいと思います。

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タイは、仏教の教えてはとてもシンプルで、子どもたちでも理解できるものだよと言っていました。もし、理解ができなければ、それはあまりにも難しく学問的にし過ぎているのだと。コインには裏と表がありますよね。裏と表は相互に共存していて、どちらかを切り取ることはできません。自分の性格についても長所・短所だとか、私はこういう人が好きでこういう人が苦手だとか、区別をしようとします。だけど、何にでも光と闇があって、どちらを取り除くことは絶対にできません。

たとえば、棒には右と左がありますよね。政治でも左とか右とかアイデアを持っていて、どんなに右が良くないと思って右を切り取っても、そこには新しい右ができる。

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その取り除こうと差別する心が苦しみを生み出しているのだと。自分自身の心を苦しめないために、そして、どんな人でも気持ちよく生活できるコミュニティをつくるために、慈悲の瞑想を通して、自分の心をもっともっと広くして、すべてを抱擁して大切にできる心を育むこと。
特に自分自身の嫌だと思う部分を受け入れることができるようになると、だんだん、周りの人たちの嫌な部分も受け入れられるようになって、誰とでもハーモニーを持って、慈しみの心を持って生活できるようになります。それが、私たちが日ごろ修業していることでもあります。

島田さま:シスターが、ちょうどコインの横に座っていたというのも不思議な一致を感じます。コインを見るたびに、今日のシスターのお話を、そしてタイから受け継がれたその教えを思い出したいと思います。

シスターチャイ:プラムヴィレッジでは、この春からリトリートを再開しています。これから始まる「雨安吾」という90日間のトレーニングには日本の方も数名参加しています。1週間単位でも参加できますし、法話は日本語通訳をつけることも可能ですので、いつでもお気軽にプラムヴィレッジを味わいにいらしてください。お待ちしています。

最後に、プラムヴィレッジの皆さんが般若心経を英語で唱えているビデオを皆で拝見しました。厳かな中にも柔らかな空気が流れるプラムヴィレッジを感じるとることができる素敵な時間となりました。

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参考)ティック・ナット・ハンのマインドフルネスの教え
https://www.tnhjapan.org/

2022.09.25(text by Yumi Watanabe)

<Zen2.0 公式Webサイト>