『しあわせのかおり』 ロケ地の金沢大野町の港が良い。日常を丁寧に生きることの大切さ。
評価 ☆☆
あらすじ
金沢のとある港町にある小さな中華料理店がある。強面で無口な王という中年の男性がひとり切り盛りしている。実に繊細で優しい中華料理を出すことで、ファンも多く、店は賑わっていた。そんな海飯店にひとりの女性がやってきた。
映画を観ることだけで自分は幸せな気分を味わうことができても、他人を幸せにできるはずはない。自分が感動した映画を人に伝えることで人を幸せにできるかもしれない。いや、それは思い上がりかもしれない。それはわからない。
3月11日に起こった東日本震災に関して、いろんなひとがいろんなことをいっている。僕は関東のある場所で震度5弱の揺れに会い、近しい何人かの行方がわからなくなるなどを体験した。そのことでさまざまな思いや考えを持つことになった。
家族のこと、他人のこと、政治のこと、社会のこと、そして自分のこと。いつかどこかで話すことになるかもしれないが、いまはその時期ではない。
これらをひっくるめて僕はこの映画をオススメしたい。『しあわせのかおり』。2008年公開の映画で、監督は三原光尋。出演は藤竜也、中谷美紀など。料理に関する物語である。ある町の、小さいけれど美味しいと評判の中華料理店を経営する料理人がいて、彼が病気で倒れる。その後をシングルマザーの女性が継ごうとするというもの。
料理の場面が素敵である。美味しそうに撮影されている以前に料理を作るシーンが丁寧に描かれている。「丁寧な仕事をすること」は僕にとってひとつの戒めだ。自分が仕事をする際に心がけているにも関わらず、なかなかできない。この戒めは料理だけではない。すべての事柄に対する心構えだと思う。
話の起伏は大きくない。ハリウッド映画がどちらかというとレストランで食事するという感じなのに対して、『しあわせのかおり』は自分の家で作って食べている感じだ。素人ながらも、心を込めて作っている毎日の料理である。ハリウッド映画がハレならば、この映画はケといってもいいかもしれない。
東日本大震災で起こったことを考えると僕は日常の大切さを感じざるをえない。ケがあってこそハレが存在する。日常を充実させることが生活の基本である。しかし、ある時、その日常が失われる。誰かが失った日常を憂い、悲しみ、戻すことを願うのはどんな形であれ肯定されるべきだ。同時に日常を戻すことを阻むさまざまな要因はもちろん否定されるべきだとも考えられる。原発を含めて。
この映画はハレとケの物語でもある。日常の中の幸せは、失ってはじめてわかるものなのかもしれない。このような映画を見た後でひとは本当に元気になれるのかもしれない。もちろん『ロッキー』などもいいんだけど。
この映画は、震災前に僕が見た最後の作品だった。被災した皆さんに平和な日常が戻るよう心から祈っています。
初出 「西参道シネマブログ」 2010-04-19
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