見出し画像

『東京流れ者』 作曲者不詳の歌がテーマ曲。歌謡映画でありながら映画史上稀にみるオリジナリティを誇る。

評価 ☆☆



あらすじ
暴力団の組長である倉田は組を解散して不動産屋になつていたが、“不死鳥の哲”との異名をもつ元幹部の本堂哲也は倉田への忠義からそばを離れない。しかし心では、ヤクザの世界から足を洗って歌手の千春と結婚することを考えていた。



「鈴木清順監督の映画はよくわからない」という話を本当に良く聞く。僕が「清順ファンです」というと「どこが面白いですか? 教えてください」なんて言われたりもする。彼の映画を説明することなんてできない。



だが、難解といわれる清順映画の中でも入門編がいくつかある。『東京流れ者』は入門編としては悪くない。『東京流れ者』は1966年公開の映画。渡哲也が主演。川地民夫、二谷英明、松原智恵子などが出演している。当時、流行していた「東京流れ者」という歌謡曲をモチーフにしたヤクザな世界に生きる男の物語だ。



何が悪くないか? まず話がわかりやすい。清順映画の場合、この要素は大切。映像表現が斬新なだけに、いつのまにか話はどこかにいってしまう。『殺しの烙印』や『陽炎座』などは何度か観ないとストーリーすらつかめない。



同時にれっきとした「清順映画」であるということも入門編の条件。この映画はカットがつながっていない。いや、つながっているのだが、斬新なのでつながっていないようにしか見えなかったりする。



清順映画に多く見られる傾向として、シリアスなのか、コメディなのかよくわからない、というところもある。両方の要素が散りばめられているからだろうか。うまく融合しているものもあるし、中には失敗しているケースもある。いや、失敗しているのではない。わかりにくすぎるのだ。



『東京流れ者』は、歌謡映画なので主人公の渡哲也は「何処で生きても 流れ者 どうせさすらい ひとり身の明日は何処やら(中略)ああ 東京流れ者♪」と何度も、何度も、何度も歌ってる。



マドンナのはずの松原千明は「哲也さん!」という台詞くらいで、こちらもずっと歌っている。なんじゃこれは? の世界。でも映画として成立している。



ちなみに「東京流れ者」という歌は作曲者不詳。流れ流れて、さまざまな歌手が歌っている。歌詞が違う場合もある。松方弘樹、藤圭子なども歌っていた。



鈴木清順はただものじゃありません。鈴木清順監督は常にオリジナリティを追求している。「誰がなんと言おうと、どんなことがあっても、自分のスタイルを追及する」というこだわりが見える。その頑固さはすごい。



『殺しの烙印』で「わけわからん」といわれて会社をクビになり、久々に撮影したのが『悲愁物語』というのも凄い。僕は『悲愁物語』以上に困った映画をこれまであまり観たことない。



どれだけ頑固に自分の道を究められるかってことは大切なのだ。まずは自分の思い通りにしている。「他人と違うことを考えてやりなさい」と、清順監督はスクリーンの向こうから若者たちを笑い、叱っている気がする。ぜひ一度観てほしい。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-10-19



ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?