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『八甲田山』 映画興行は『ロッキー』以上の大ヒット。上層部の判断ミスはホラーより怖い。

評価 ☆☆☆



あらすじ
1902年、いずれはロシアと戦争になると考えた明治政府は極寒の地で戦うため、雪中行軍の訓練を考えた。弘前第八師団の友田は、青森第五連隊の神田と弘前三十一連隊の徳島に「雪の八甲田山を歩いてみたいと思わないか? 」と提案。違うルートで行軍して雪山ですれ違うよう計画した。



怖い映画だ。ホラーである。この映画を観て怖いと思わないひとがいたら不思議なくらいだ。それが、1977年公開の『八甲田山』。監督は森谷司郎。出演は高倉健、丹波哲郎など。



何が怖いか? いろいろあるが実話だというのが最も怖い。1901年つまり明治34年、日露戦争を想定して八甲田山で陸軍が雪中演習をした際、青森の連隊210名のうち199名が死亡した事件がこの話である。その後、この話を新田次郎が「八甲田山 死の彷徨」として小説にしている。



上映時間は169分。この長さの映画であれば、仲間との友情とか、秘めた男女の愛情とかのサブストーリーが多く必要だと考えるのが普通だろう。一応、そのような要素があるにはあるけれど、かなり少ない。描かれるのは、大行進の軍隊が遭難する有様である。それが克明に描かれる。



脚本は橋本忍。非常に挑戦的な構成だ。この題材で約2時間50分もの間、緊張感を持たせようとは本当に無謀のように思える。しかし、できあがった作品は驚くべき仕上がり。よくこんな映画ができあがったものだ。



特に組織の描き方がリアルだ。上司のちょっとした判断ミスは多大な犠牲をもたらす。怖いね。組織論としての『八甲田山』は脚本の意図したところではなかったようでもあるが、この映画の語る組織の怖さは半端ない。実際、この映画を新人研修に使う企業も多くあったという。



主演は高倉健、北大路欣也。中でも秋吉久美子が若く美しい。他にも多数の俳優たちが出ているが、残念ながらあまり印象に残らない。過酷な自然の恐怖が主役である。



公開は1977年。この年の邦画で最高の収益を上げている。これほどヒットするとは誰も思っていなかったという。特に、若い女性がこの映画を支持していた。この年には『ロッキー』が公開されているが、収益では『八甲田山』の方が上だというから驚きだ。



よく考えると、不思議といえば不思議な作品だ。ドラマツルギーも、俳優の魅力も前面に出ない。ドキュメンタリーのような映像(実際、撮影現場は極寒のもとで行われ、過酷極まりなかったようだ)だけで成立している。ただし、この映画は本当に怖い。



それにしても怖い。そのひとことに尽きる映画だ。



もうひとつ、この映画を観てつくづく思ったのだが、我々の生活は英霊を含め、祖先たちの死の上に成立している。そのことを忘れてはならないだろうね。



初出 「西参道シネマブログ」 2016-01-11



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