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『人情紙風船』 山下達郎もオススメの山中貞雄監督作品。映画好きなら是非観たほうがいい。

評価 ☆☆☆☆



あらすじ
江戸の下町、裏長屋で今朝、武士の自殺遺体が見つかる。生活に行き詰まった浪人が首をくくったのだ。長屋の住人たちは浪人ばかりではないが、誰もが貧しかった。髪結いの新三もそのひとり。ただ、彼は若くて毎晩のように遊び歩いていた。




山下達郎は山中貞雄監督作品が大好きだそうである。『人情紙風船』は1937年公開。もちろんモノクロ映画である。これはまいった。いまの映画にもまったくひけをとらない面白さだ。出演は河原崎長十郎、中村翫右衛門など。



山中監督の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』は観ていたが(こっちの映画も凄い)、『人情紙風船』は今回が初めて。どんな話だろうと思っていると、なかなか筋が複雑に入り込んでいる。ミュージカル要素が入っていたりもして意欲的な作品でもある。



驚いたのが、山中貞雄の演出方法だ。行灯の火をフッと吹く時の仕草、ケンカの仲裁に入る時の身のこなし、雨の中をたち続ける時のカメラとその向き、などなど。細部にわたる丁寧な演出が施され、しかも、それが映画的である。素晴らしい。まさに神は細部に宿るを存分に見せてくれる作品だった。



確かに話自体の根底には暗いものがある。だけど、全体として見ると妙な明るさが見られるし、楽観的というよりもたくましさを感じさせられる。



もし彼が生きていたらどんな作品を作っていただろうか。彼が今の日本映画を観たらいったい何と言うだろうか。



我々は胸を張って示すような映画や物語を、いまの日本映画界は何本作っているだろうか。彼ならば、小津安二郎や黒澤明を超える作品を何本も作っていただろうな、とも思う。そのくらい才能を感じさせる映画群を世に出している。



これは絶対に観た方がいい。最新作ばかりが映画じゃない。確実に面白い古典はあるし、時の洗礼を受けた分だけのものはある。いま人気の映画のいったい何本が、90年近く生き残れるのだろうか?



初出 「西参道シネマブログ」 2010-02-22



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