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『ゴジラ』(1954年版) 反戦、反核と科学者の苦悩の作品。現代的なモチーフが興味深い。超オススメ。

評価 ☆☆☆☆



あらすじ
ある夏の日、小笠原諸島近くの海で貨物船が消息を絶った。近くにいた漁船も消息不明となる。その後、漁船乗組員は保護されたが、彼は「大きな生き物に襲われた」と証言。さらに、事故現場の近くにあった大戸島では巨大な生物により村が壊滅してしまう。



今年は『ゴジラ』(1954年版)が完成して60年目に当たる。ハリウッドでも新作が製作されるらしい。僕は熱心なゴジラマニアではないし、ゴジラに対する深い思い入れもない。しかし、30作前後の続編が作られているシリーズの第1作ならば観ておいて損はないだろう。そんな軽い気持ちで『ゴジラ』の1954年版つまり第1作を観た。



もちろん、特撮技術は現在とは比較にならないほど稚拙、全編アフレコで声がうまく合ってないところもある。しかし、脚本の面白さ、当時の日本人の考え方を垣間見られるという点で素晴らしい映画だと思った。監督は本多猪四郎。出演は宝田明、平田昭彦など。



本作品ではゴジラの設定を「ジュラ紀の巨大生物たちは海底深くで生息していたが、度重なる水爆(核兵器)によって生息環境を汚染されて、日本にやってきた」としている。ゴジラは核そのものと考えてもいいし、台風や地震といった自然の猛威としての象徴とも捉えられる。科学の弊害によって自然災害がデフォルメされた形がゴジラだったと考えると、原子力と地震の合わさった福島の悲劇を予見しているようでもある。



映画にはふたりの科学者が登場する。ひとりは生物学者の山根博士(志村喬)、もうひとりは芹沢博士(平田昭彦)。山根博士はゴジラを殺すのではなく生物学的に貴重な存在だと主張する。まさに環境主体的、エコロジカルな考え方だが、その裏には人体実験も容認してしまうような科学者のエゴが隠されている。



芹沢博士は自らの発明した技術が強力兵器に転用できることに苦悩する。現代の科学技術に関するリテラシーからすれば、芹沢博士の苦悩と行動は注目に値する。このふたりのキャラクターが非常に面白かった。特に人類を脅かす存在に対してどう対応すべきか。これは永遠のテーマである。本当に科学は有用なのか。自らの首を絞める結果にならないのか。全然関係ないけど、志村喬が走るシーンはどう見ても『七人の侍』の勘兵衛だった。見事な走りである。



ちょっとした登場人物たちのキャラクターもよくできている。死ぬまでゴジラを放送し続ける愚かなマスコミたち、自分たちの都合の悪いことは隠蔽しようとする政治家、正論を大上段からヒステリックにかざす女性活動家など、現在と何も変わっていない。長崎の原爆から逃れた女性が「やっと生き延びたのに」とつぶやくと、男性が「また疎開か」と言い返す。いつも被害を受けるのは一般庶民たちだ。そこも丁寧に描かれている。



映画の前半で伝説の巨獣「呉爾羅(ゴジラ)」に関しての老人の台詞があった。かつては生贄として若い娘を差し出した。その名残が奉納祭にも残っているという。実は明治時代の初期まで人身御供という習慣があった。橋や堤防を作る際に人柱を立て神の怒りを静めることは比較的普通のことだったらしい。



また「あまちゃん」などで脚光を浴びている海女だが、かつて海女たちは全裸に近い姿で潜っていた。この映画にも海女の老婆が上半身全裸で普通に写っていたりする。1950年代前半にはまだ古き日本文化が残っていたのだろう。



いずれにしても、ネットがいくら発達しようが社会構造そのものはそんなに大きく変わっていないと感じる。津波が来るのなら津波以上の堤防を作ればいい、原発の事故があるのならできるだけさまざまな想定を行い、来るべき災害に準備すればいい、という発想だ。その結果訪れるのはいつも「想定外」の破壊の神に違いない。



伊福部昭の有名な音楽であるゴジラのテーマだが、本作ではどちらかというと自衛隊のテーマの延長線上として使われている。ゴジラが進撃するシーンではもう少し忌まわしい感じの音楽が使用されていた。三連符が大活躍するのは戦闘シーンだ。怪獣ゴジラのために作曲したという感じではないというのも発見だった。



『ゴジラ』(1954年版)は怪獣映画というよりも極めて反戦、反核を前面に出している作品。そのメッセージが強烈なのは、アメリカでオリジナル版が長年公開されなかった事実を考えればわかる。この映画のオリジナル版が全米で公開されたのは2005年だという。



現代だからこそ、みんなで観るべき映画だ。中、高校などでぜひ上映してほしい。



初出 「西参道シネマブログ」 2014-04-08



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