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『世界の涯てに』 死者の魂が帰っていく場所とは? ケリー・チャンと金城武がいい。

評価 ☆



あらすじ
中国返還前の香港。不治の病と診断された裕福な家庭の若い女性、ケリーは、ある日、何でも探すという便利屋の若い男性チュンに出会った。ケリーはもう一度会いたい男性を探すことを依頼。手掛かりはわずかだった。いつも親切に仕事を続けるチュンとケリーは少しずつ心がつながっていくのがわかる。




スコットランドの沖に「死者の魂が帰ってゆく世界の涯て」と呼ばれる場所があるという。そんなワンテーマから作られたような作品が『世界の涯てに』(せかいのはてに、と読む)。僕はこういうワンフレーズが好きだ。映画『欲望の翼』には「脚のない鳥がいるらしい。 脚のない鳥は飛び続け、疲れたら風の中で眠る。 そして生涯で唯一度地上に降りるのだ……それが最後の時」というフレーズがある。テネシー・ウイリアムズの引用である。かっこいい。



『世界の涯てに』は、死者の魂が帰っていく場所をテーマに不治の病に冒された娘とふたりの男性の関係を描いた物語。こうやって書くと韓国ドラマみたいな話ですが、この作品は1996年に香港で製作された映画。監督はリー・チーガイ。出演はケリー・チャン、金城武など。



監督のリー・チーガイという名前をこの映画で知り、その後、彼の監督作品である映画『不夜城』を観た。『不夜城』はちょっとだけ失望したが、この作品は良かった。ケリー・チャン、金城武、ミッシェル・ウォンの三人が主役で、ケリー・チャンは表情があんまり変わらない女優だけど、この映画に関しては許せる。死に対してストイックに接している感じでいい。



登場人物たちが号泣したり、叫んだりする映画は苦手。多分、自分がすぐキレたり、大声を出したりするせいかもしれない。ポツポツとセリフを言う感じの話に惹かれてしまう。この映画の持つトーンはそんな感じだ。だからそういうタイプの映画が苦手なひとは感情移入が難しいかもしれない。



しかもストーリーがだんだん変な方向に行くけど、エピソードひとつひとつの積み重ねは丁寧である。ラスト近くのエピソードも秀逸だ。タイトルバックにも流れているレナード・コーエンの『Dance Me to the End of Love』がいい。中年おじさんのしぶい曲が耳に残る。



たまにはこういう映画も良いよね。最近の映画を観たいと思わなくなったのはどうしてかな。きっと年を取るとはそういうものなのだ。最近公開の映画には、ゆとりというか繊細さがなくなってきたように感じる。まるでファストフードだ。味が大雑把である、お腹は満足するかもしれないが舌がしびれるみたいな感じ。



そんな時に丁寧に作られた、本格的な料理に出会うとうれしい。機会があったらぜひ観て欲しい。そのうち、TSUTAYAの掘り出し物シリーズにラインナップされるかもしれない。そうなればいいですね。



ちなみに、同タイトルのダグラス・サーク監督作品の方は未見。もともと、この映画の原題は「天涯海角/Lost and Found」という。映画の内容を表す意味としてはこっちのほうが正確だが、『世界の涯てに』というタイトルも悪くない。いったい世界の涯てとはどんなところなんだろう? 



初出 「西参道シネマブログ」 2011-12-13



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