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『ア・ホーマンス』 松田優作が生きいれば……彼の初監督作品。随所に意欲的な試みが見られる。

評価 ☆☆



あらすじ
新宿、ヤクザの組織「大島組」の幹部の山崎には悩みがあった。最近は組の縄張りに対抗組織、旭会のヤクザが侵食してきた。そんな時、背の高い無表情な男がバイクに乗ってやってきた。山崎は旭会の組員ではないかと疑った。



名プレイヤー必ずしも名監督にあらず、ではないけれど、良い役者が監督をしたからといって良い映画を作れるとは限らない。もちろん、できないとも限らない。同じ素材でスクランブルエッグを作っても、才能のある料理人とそうでない料理人の作るものは違う。これまで何度もそういう経験をしてきたので断言できる。仕方ないけれど、才能とはそういうものだ。



『ア・ホーマンス』は1986年に公開された作品。日本を代表する松田優作による最初で最後の監督作品だ。脚本は松田優作と丸山昇一、出演は松田優作、石橋凌、手塚理美、ポール牧など。



記憶喪失の男がヤクザの抗争に巻き込まれるというストーリー。作品のテイストとしては森田芳光監督の『ときめきに死す』などのような、80年代的オフビートである。



松田監督は役者たちにエモーショナルな動きを封じ込めた演技を求めたせいで、ある独特な緊張感が映画全体に流れている。ただし、トーンが画一的過ぎるために観客が途中で飽きてしまうかもしれない。ルックは悪くはないが、良いかといわれるとちょっと返事に困る。



カメラは常にパンフォーカス気味で、監督は、前後の構図にこだわりをみせている。カメラアングルは監督の意図を象徴するもので、松田監督がこれまでにない構図、カット割りを探しているのは好感が持てる。



さらに、演出そのものは斬新だが、観客を引っ張っていく力があるかどうか。丁寧に見えると面白いけれど、玄人受けする仕掛けが多く、素人受けする仕掛けが少ない。



素人受けで成功しているのは、ポール牧の怪演ぶりだろう。さらに、棒読みセリフのインテリヤクザは怖かった。逆は松田優作演じる謎の男の正体。別にオチなんていらないのでは? 素人っぽく「説明なんてしなくていいんじゃないの?」で押し通せば、意外と面白かったかもしれない。



松田監督は、名監督だったのか? 僕は名監督になり得たのだと思う。だが、この時点では名監督になるためには課題があるのもよくわかった。



もうひとつ。もし松田優作監督が2作目を作ったら、どんなのを撮っていたただろう? 文芸作品に挑戦しそうである。違うかな。映画監督として活躍していたら、日本映画界はどうなっていたのか?



追記



2009年公開の『ターミネーター4』は明らかに『ア・ホーマンス』の模倣である。だが、この模倣がなぜ行われたのか? 偶然なのか、それとも必然なのかはよくわからない。でも話の骨格ほとんど同じじゃないかな?



初出 「西参道シネマブログ」 2012-10-24



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