会社のなかでデザインすること

「シゼロにとっての“デザイン”って、なぁ〜に??」
数年ぶりに再会した恩師は、鶏肉を頬張るわたしに聞いた。

社会人になって、今年で10年目になるが、わたしは、去年6月まで「営業」という仕事を知らなかった。
正確に言えば、今の会社に派遣雇用として入った、2021年の1月まで、だ。
社会に存在していることは知っていたが、実際に何をしているのかはよく知らなかった。

グラフィックデザインの専門学校を出て、デザイン事務所に入社、写真スタジオの内部デザイナーとDTPオペレーターの派遣を経て、現在は大阪のイベント会社にて、内部デザイナーとして働いている。
1社目のデザイン事務所は社員約30名だったが、全員が手を動かすグラフィックデザイナーや、その上位職にあたるアートディレクター。クライアントとの打ち合わせや対応も自分でするスタイルで、「営業」を専門にしているポジションはいなかった。
社員が3、4人ぐらいの会社であればよくある形態なのだが、その規模ではわりと珍しいことらしい。

来社するクライアントは、紛れもなく「営業職」なのだが、当時はあんまりよくわかっていなかった。
専門学校で、社会におけるグラフィックデザイナー・アートディレクター・クリエイティブディレクターとしての在り方を学んだわたしは、その他の世界のことには気がまわっていなかったのだ。

わたしは、高校・専門学生だった時代は特に、コミュニケーション能力に乏しかった。
人と関わることで嫌な思いをすることが多かったので、基本的には避けたかった。
そのため、人と関わらなくても大丈夫な道を選ぶ必要があった。

そうして選んだのが、「グラフィックデザインの知識と技術を身につけて、仕事をする」という選択肢だった。

そういった理由でデザイン職を選んだので、「営業」という、コミュニケーション能力が前提になる職種のことには興味がなかったのだ。
もともと私が、人にあまり興味がわかない性質だということも関係していると思う。(好奇心は高いので、興味は常にあるのだが、人に興味を抱いてもキリがないので、しつこがられることも懸念して、基本的にはそこの感度を下げるようにしている)

そういう経緯を踏まえて、冒頭の質問に戻る。
「わたしにとってのデザインってなあに」である。

恩師であるU様は、デザイン専門学校での講師。現役のデザイナー・アートディレクターだ。
卒業後も同窓会やバーベキューで、年1ぐらいのペースで交流している。
ここ数年はコロナの影響で会えていなかったが、ひょんな事から再会が叶った。

デザインとは何か。
かなり最近まで、わたしはそれもよくわからなかった。

2社目に入った写真スタジオでは、撮影プランを書いたメニュー表や、レンタル衣装のカタログなんかをデザインした。

わたしのセンスは高くないので、ずば抜けて良い(ここでの良い、は、オシャレ・感度が高い・プラン利用やレンタルという実際の行動変容を起こさせる、というのが尺度である)デザインはあまりできなかったが、そこそこ、最低限は評価してもらえた。

それでも、デザインとは何か、の答えには至らなかった。

かわいらしく飾り立てることがデザインか?はたまた、要素を削ぎ落とし、シンプル、スタイリッシュに仕上げるのがデザインか?
どちらも、「デザインの好み」や「トーン&マナー」ではあるけれども、「デザイン」そのものではないような気がした。

万物、日常で目にするものはすべて、誰かによってデザインされている。
広告、webサイト、メニュー表、チラシ、建物、道路、標識、看板、洋服、日用品や雑貨に至るまで全て、企画とデザインでできている。
花、昆虫、動物、魚、鳥…など、自然に発生した生き物でさえ、それぞれの環境に応じた機能を備えるように「デザイン」されている、と思う。

それを踏まえた上で、話はいまの業務の件になる。

数ヶ月前、私は仕事で「営業資料」というものを作成した。
自社の営業メンバーが、外部向けに営業する際、手助けになるような資料だ。

自社のサービスや手がけた事例をよく理解していないとこの作成はできない。
知識が足りない中で、体裁だけ整えて完成させたとしても、中身が伴わずスカスカの資料になり、目的を果たせない。

営業メンバーから、叶えたい目的と、主張したいことをしっかりヒアリングし、優先度を考えて設計する。設計した情報を、伝わりやすいように、説明しやすいように配置し、デザインする。

作成して初めて、私は、この一連の作業がかなり好きだと気づいた。

「作り出す」という行為は、0から生み出すことではない。必ず、1からなる要素が連なって、1を作り出す行為に繋がる。
わたしは、「何かの情報があって、それをもとにして何かを作り出す」ことが、とっても大好きだったのだ。ずっとしていたいと感じるし、作り出すことに全く苦はない。

その事に気づいたとき、デザインとは何か、という疑問はすこし解決に近づいた。

伝えたい情報を整理し、「受け取った人に、こう思ってもらいたい」という想いを反映した形式に落とし込み、設計すること。それにより情報伝達を助けるもの。
それがわたしは、デザインだと思う。

以上がわたしの、現時点での答えです。

聞かれたときにうまく答えられなかったので、文章にしてみました。私の中にあるものが、すこしでも伝わったらうれしいです。

恩師、U様へ。
おいしい鶏肉と、おしゃべりと、カードゲーム、ごちそうさまでした!

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