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021_ひとり海外旅行 ~衝動編~

「なんでお前みたいなやつが正社員なんだよ、お願いだから派遣にならないか?」

そんなことを入社当時、直属の上司に言われてから早3年。私は正社員として堂々と働いていた。
パワハラもセクハラもなんでもありな弊社では、新人を5人とれば3人退職している。辛抱強い人間か、何を言われても何も気にしない人間しか残らなくなった。

そんなわけで、私のプライベートは充実した。

もちろん、強制的に先輩のキャンプ合宿やセクハラだらけの飲み会に参加させられるときもある。しかし、隙を見て経費で肉や酒を買いこんだり、真面目な先輩の話の最中に、暴言やセクハラ発言を繰り返し行うと、そのうち呼ばれなくなるのである。上司や先輩も、やはり人間だった。(注意、セクハラもパワハラも犯罪です。上司であっても部下であっても、やめましょう)

休日は本や映画を嗜み、連休になるとひとり旅にも出た。無礼千万の会社に、お土産なんてものを買わなくてもよいから気も楽だった。

社会人になってから3年目で、ある噂を拾った。それは、ある国が戦争を始める準備をしているということだ。この当時、SNSでは有象無象の噂やフェイクニュースが跋扈していた。噂の取り締まりも甘い時期であったため、明らかな眉唾物から、なんとなく確からしい話まで様々だった。

しかしこの世界、いつもどこかで戦争している。私が住む日本から遠いところであれば、私の関心度合いは低くなる。

はて、と、この時思いついた。

私が常日頃から関心を寄せている中国、ロシアは、戦争大国だ。国として生を受けてから何度武力衝突、介入をしてきただろう。

もしかすると、将来気軽に観光できなくなるかもしれない。そうなると悔やまれる。金を惜しんだばかりに、機を逃すことは、若者にあってはならない。

そう思いたち、新卒から数えて3年目の私は、モスクワへ渡すことを決めた。

この時点で、もちろん誰にも相談していない。相談しようものなら全力で止められる。サンプルとして、事後報告をした両親と、私のパワハラ上司の反応が面白い。

高校で世界史を専攻しただけの両親は、「どうしてそういうことをするの?なんでまともになれないの?」

工業高校が最終学歴のパワハラ上司は「モスクワってなに?昔の国?」

関心がなければ、その事項についての情報など、何ひとつ得ることができない良い例である。巷には中国、ロシアに関するニュースや本がたくさんある。が、上記のサンプルは中露に関心がないため、普段の生活の中で情報をキャッチできない。

思考を止め、流行と同調に流された、まるでソンビのようだ。

ただ、私の数少ない人間関係に参入しているため、私のQOLに大きな影響を及ぼす。避けられない災害のようなもの、それが人間関係である。
新卒から数年経った社会人としてアドバイスできることは、“予防と回避と、被災時の対応はマニュアル化しておく必要がある“である。

しかしながら関心があるというだけで、映像や書籍だけの知識というのも、少々心許ない。関心の対象物が古代ならともかく、中露という国は海を渡った向こう側にあるのだ。
ならば、行こうではないか。外交関係が悪化する前に、消滅する前に、この目で見てみようではないか。

金も時間もかき集めれば、行けないことはない。勇気を出せ。旅費に30万円を掛ける勇気を出せ。

百聞は一見に如かずだ。


そういうことで、私はモスクワに行った。

私みたいな人間は、弊社にきっといないだろう。パワハラ上司に目の敵にされるのは、いつも奇襲的で、その傷は何日経っても癒えない。でも、立ち上がる。私にはまだ、やることがある。機を逃すことは、私にとって、最も許されないことだ。

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