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031_ひとり温泉旅行 50km歩く編 

ふと思い立ち、私は温泉に行こうと決めた。どうせなら、温泉地に歩いていこうと思った。

なにもすることが無くなったある日、ひとは何かに挑戦したくなるものだと実感した。例えば、うまいこと仕事が進みすぎたとき、無敵になる。なにをしても上手くいく状態のことだ。目まぐるしく依頼が来るのに、すべて滞りなく完璧にこなしていた。何年も仕事をしていると、たまに無敵になる期間がある。

そうなると恐ろしくなる。

いつか大きな失敗をするのではないかと妄想し始める。
または上司から心臓がひっくり返るくらい大きな叱責を食らうのではないか。現に、今まで放蕩者として生きてきたから、定期的にだれかが私に激怒していた。

母親からは
「わがまま」

「自分勝手」
と罵られたり、父親からは
「嘘つき」

「親不孝者」
と怒られたりしていた。それに、私の怒髪は天ではなく相手に突き刺す。いつもどこかで言い争っていたのだ。

しかし、仕事を始めると、否が応でも大人になる。矛盾やルール違反を黙認し、与えられた給料以上の業務を求められても、押し黙ったまま仕事を進める。社会的責任に給料は払われないが、会社は社会的責任を極端に押し付けてくる。ギブアンドテイクのバランスは、元から均衡ではなかった。拮抗すらもしていなかった。

失敗が、まったくない。そうすると私はもう仕事が面白くもなんともなくなる。なにか始めたいが、しかし、金はない。そうなると自分を追い詰めたくなる。
家から温泉地まで、約50kmある。歩くと約13時間かかるらしい。私は毎日7・8時間歩き回っている。片道1時間の出勤経路を往復し、日中は外回りだ。毎年3・4足靴をダメにして、靴下は毎年5足買い替えている。大手量販店のかかとが厚めの靴下でも、年度末が近づくころには穴が開いている。

ところで、新しい顧客の近所に、自衛隊基地があるという。陸上自衛隊の訓練には、100kmを行軍する訓練があると、どこかのテレビ番組でみたことがある。人間は100kmの道のりを歩いたらどうなるのだろうか。特別な訓練を受けている自衛隊員だから、100kmなのだろうか。装備品はどうなっている?
うっかりインターネットで調べてみた。

そしたら出るわ出るわ長距離歩行者の体験ブログ。
ほとんどが男性で、たまに自転車で日本を横断している。ブログだけではなく、長距離歩行のユーチューブチャンネルやSNSまである。長距離歩行はある種のクラスタが出来上がっていた。

おススメの長距離歩行YouTubeチャンネル↓


では、女性の私が歩いたら、足は一体どうなるのだろうか。
私は思い立ったら吉日と立ち上がり、早速長距離歩行に関する情報を収集していった。

  • 私の旅行計画は以下のように出来上がった。

  • 日程…有給休暇をとって、温泉旅館に4泊5日宿泊する。その行きの片道を、車両を使用せずに歩いていく。

  • 実行日…山林を通るため、クマなどの害獣が少ない2月

  • 経路…おもに整備され、歩道がある国道や県道を通る

  • 装備品…4泊5日するための身支度品、旅館に詰めるための暇つぶしの本5冊

  • 長距離歩行時の注意点

  • 安全であること…経路を正しく通り、迷子にならないようにする。

  • 食料を携帯すること…歩行には多量のエネルギーが消費される。食欲が無くても計画的に飲食をしないと、脱水症状やバテてしまう。

  • 体調を整えておくこと…いわずもがな、ベストパフォーマンスを出すには、万全の体調である必要がある。

以上より、装備品のリュックの中には、モバイルバッテリーと行動食である魚肉ソーセージが10本追加された。
これがダメだった。
ここで注意点があるが、行動食をケチってはいけない。少し高額でも、きちんと栄養やエネルギーが取れる行動食を準備したほうがよい。その理由は、私が途中8km地点でバテてしまったからだ。バテは、「少し疲れた」という感覚ではない。四肢に力が入らず、思考もままならない状況になるのである。

しかし、出発前の私は行動食より(それだけではないと思うが)、リュックの重さが10kgになってしまったことに対する心配しかしていなかった。

(続きます)

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