北ア、残雪期表銀座縦走(回想)
燕岳~大天井岳~常念岳~蝶ヶ岳
私はどちらかと言えば体力もないし精神力もそんなに強い方ではない。
なので雪山縦走と聞いただけで、初めに思い浮かぶのは私には無理、
ということなのだが、幸いにも相方と長男というパーティに恵まれ、
今回に関しては予報上では4日間の晴天というこれ以上望めない程の好機で
残雪期北アの縦走チャレンジとなった。
1日目
前回もGWに燕~常念までを計画したが、悪天予報に阻まれ燕岳のみで断念。中房温泉テン場で雷雨の中やけ酒という顛末だった。
好天の予報なので中房温泉の町営駐車場は満杯だろうと、今回も旧しゃくなげ荘裏の登山者駐車場に車を置く。(現在温泉公園北口)
ここは中房温泉までのバスの停車場でもあるので縦走にはいたって便利。
と、たまたま前回利用したタクシーの運転手さんに声を掛けられ、
相乗りでバス料金で中房温泉まで行くという。
時間もバスよりも早く着くし渡りに船とOKする。
中房温泉の町営駐車場は予想に反して余裕があった。
今年の残雪の多さと、GW前半の遭難事故が大きく影響しているらしく、
タクシーの運転手さんもこぼしていた。
中房温泉で登山届を出して出発。
長男、相方のスピードにはついていけないので、
慣れた燕山荘までの道のりは一人でのんびりと向かう。
第一ベンチの上の急登にべったり雪が見えたので、安全策でここからアイゼンを着ける。
前回は第三ベンチからだったから、やはり今回は雪が多い。
抜かされることはあっても抜かすことはないので、適当に休みながら後続者に道を譲りつつ歩く。
前回も思ったけど、若い男子女子がほんとに増えた気がする。
彼らはおしゃれだし、まるで平地を歩くように颯爽と登っていくし、礼儀正しく見ていて気持ちがいい。
長い縦走中には単独女子もいて、たくましくもありちょっと心配でもあるけれど、自分の力を信じてとエールを送りたい気持ちになる。
相変わらず私はポコポコと登りながら、合戦小屋で昼食休憩。
こんなのろっこな単独おばさん(いや単独じゃないんだけど、実質単独だよね)は、まずいないと思うのでベンチに相席で座っていてもなんだか居心地が悪い。早々に目の前の急登に取り付く。
今までが樹林帯の中だったので、ここから開けてくる展望は心躍る。
急登の途中から槍が見え、稜線に出るとぐるりの展望が広がる。
今回の燕山荘直下は階段が雪で覆われていたためとても歩きやすかった。
燕山荘のテン場では、先行した長男がテントを張ってくれているし、相方は燕山荘で出迎えてくれるし
まあ、VIP対応。。。みたいな。。。
相方と長男は燕岳山頂に向かう。私は前回も行ったし、まあいいや。
燕岳からは、立山、劔岳方面の展望が素晴らしく、裏銀座の山々が迫る。
そして、北鎌尾根からの槍ヶ岳は息を呑む雄大さで迫ってくる。
大分雲の多くなった北アの山々に夕日が沈み、燕岳もちょっぴり焼けた。
日が落ちてから風が強くなってくる。
明日の大天井岳越えを考えると心配で中々寝付けないけれど、
いつしか寝落ちた。
2日目
昨晩からの風は朝も収まらず、しばらく様子を見ることに。
予報は晴れマークだけれど、どうも裏銀座の方の雲が多い。
何となく嫌な予感で、「一旦下ってヒエ平から常念に登っても」と提案するも、相方「もう少し様子見て」と、中々譲らない。
何となく悶々と待つうちに風も少し和らいできて裏銀座の雲も取れてきた。
私はどうしても大天井岳の冬季ルートは怖いと強固にインプットされているので、相方に「行くぞ」と言われても渋々という面持ちで、それでも足取りも重く(笑)出発。
昨日の燕山荘も多くの宿泊者でにぎわったようで、
朝の出発でごった返している燕山荘の脇をすり抜け縦走路へと歩を進める。
さすがにこちらは人影も少なく、静かな縦走路だ。
蛙岩まで平和な登山道を歩いて行くと、先行の若いパーティが冬季ルートを通過できず難儀している。
結局彼らはここで諦めて燕山荘まで戻っていった。
実際ここが越えられないと、大天井岳の冬季ルートは難しい。
蛙岩の冬季ルートは、中央の狭い穴の中をちょっとしたクライミングで登っていくが、ザックがジャマをするので外していく。
相方は私のザックを右手に持ち、自分のザックは背負って先行。
次は私の番、
初めの大きな岩がいやらしく越えられない。。。
相方に「ちょっと無理、引っ張って」と頼むと、「え?」という雰囲気が漂っていて、「なんで?」と思ったら
相方じゃない、全然知らない男性が手を引っ張ってくれた。。。
どうやら、右ルートに入って戻ってきた男性だったようで、
こちらも恥ずかしいやら、申し訳ないやらで。。。
無事に蛙岩を通過しトラバースを徐々下って、いよいよ大下り。
大下りを下り、切通岩まで岩場トラバースを交えながら徐々に登っていく。
この辺りまではまだそんなに怖い所もなく、普通の雪山という感じ。
喜作レリーフを過ぎてからいよいよ大天井岳への冬季直登ルートが始まる。
初めの登りでまだ右手にストックを持っていたことを大いに後悔。。。
不安定な足場のなか、急いで相方にザックに括りつけてもらう。
登り始めてしばらくは壁のような斜面で三点支持必須だ。
先行者のステップがなければとても登れなかった。
おまけに半端なく風が強くて何度も耐風姿勢を取る。
ピッケルに片手だけなんて到底無理でピッケルを深く差し込んで、
両手でしがみつくこと数度。。。
頭はほとんど地面すれすれに低い体制だった。
風もさらに強まってあたりが暗くなってくる。いやだなあ。
なんとか大天井岳(2922m)山頂にたどり着くと、そこに待っていたものは横なぐりの雪だった。
ここまでまだ行程の半分、見通しも悪いしちょっと萎える。
ここから中天井岳(2890m)、2832P、東天井岳(2814m)とトラバースして行く。
雪がバシバシ叩きつけてくるので無言で下を向いて黙々と進んでいく。
廃道に入り込まぬように標識に従って、いよいよ横通岳(2767m)のトラバースに取り付くとやがて前方に常念岳の勇姿が現れる。
常念岳の姿を見てほっと一息だが、見えてからがまた長かった。
テン場では長男がテントを張っていてくれた。
どんよりとしていて夕日を拝むこともなく暮れていった。
3日目
今日は天気予報も連休中では一番いい日で稜線漫歩を楽しみに出発だ。
大天井岳への呪縛からも解き放たれて、今日はのびのびとすべての風景が新鮮に美しい。常念岳から蝶ヶ岳へと、右手に槍や穂高の稜線を眺めるすぱらしいトレイルだ。
常念小屋のテン場はこの時期雪着きの所と土の所があって、長男が土の所に張ってくれたので、暖かくぬくぬくと安眠できた。
小屋の目の前の常念岳へと取り付く。
下の方はまったく雪が着いていないが、途中でアイゼン付ける場所も心配なので、仕方なく下からアイゼンを装着する。
岩の上をアイゼンでガシガシ歩くのはほんとに気持ち悪い。
やがて程よく雪もでてきて、見えているピークの更にその先が常念岳山頂(2857m)だ。
風もなく穏やかな晴天の山頂は本当に心地良く、梓川から立ち上がっていく穂高の山々や槍は、たっぷりな雪と立ち上がる山ひだが見事だ。
こんなにすばらしい槍穂の展望台はこの稜線をおいて中々ないでしょう。
後ろには燕岳からの稜線、そして新たに目の前に現れる乗鞍や御嶽山。
そしてこの先に向かう蝶ヶ岳への稜線、なんと雄大で広い世界だろう。
最後に人影もまばらになった山頂を後に蝶ヶ岳に向かう。
山頂直下の雪と岩のミックスな急坂を慎重に下って行くと、雪も消えたのでここでアイゼンを外す。
が、この先に岩峰が待ち構えていて、足幅しかない場所に腐った雪が溜まっている所が現れ、ホールドもなし、ちょっと進退極まってしまう。
岩場に入った時には雪がなかったので、まさかの状況に冷や汗たらり。。
夏に歩いた時の記憶には全くなかった所だった。
相方からは「膝を伸ばせ、前を見ろ、大丈夫だ」と声を掛けられ、
下で待っている男性パーティから心配そうに固唾を飲んで見守られているという、いや~な展開。。。
落ちたらただでは済まなそうで、ほんの短い区間だが緊張だった。
さて、下で待っていた男性パーティもアイゼンしてなかったけど、どうして登っていったかなと
ちょっと離れたところから見たら「怖え~」と叫んでた。
危険箇所もなくなって晴天の中気持よくP2512へと登り返し、更にP2592とアップダウンが続く。
P2592では雪庇が発達していて右の樹林帯に逃げる。
この山頂がおわん型にぽっかりとしていて、のんびりと一息つくには格好の場所だった。
下りはお約束のシリセードです。
あ、長男ですか?とっくに引き離されて、もうテン場だと思います。。。
気温がぐんぐん上がって汗が噴き出てきて、やっぱり春山はこうでなくっちゃ!
いよいよ目の前に蝶ヶ岳がそびえてきます。
P2592の鞍部を通過したところで、さあ~っという静かだけれど不気味な音。
先行していた相方に聞いたら、丁度左斜面が雪崩れたところだった。
踏み跡は樹林の際についているから危険はないですが、あまり気持のいいものではありません。
蝶槍まで標高差200mほどだが登りがいがある。
途中休み休み登っていくが、最後で相方がガッツリ腰をおろしてやがて昼寝です。もうこの山行で最後の登りになるはずなので、相方「このまま行ってしまうのがもったいない」と。。
その気持ちはとてもよく分かった。あまりにも名残惜しく終わらせたくない気持ちが強い。
やがて蝶槍(2664.3m)の山頂と、更に三角点(2625m)だ。
先行者と思い思いの槍穂の展望だった。
山行も終盤に入り、こんな上天気をありがとうと感謝の気持でいっぱいだ
が、テン場まではまだまだもう一歩きだ。
相方は雪の上を私は土の上を選んで歩いて行く。
蝶ヶ岳に到着。長男は暇過ぎて雲の写真ばかり撮っていたそうだ。
それぞれのお山だった。太陽は大キレットへと沈んでいった。
4日目
きょうも気持ちよく明けた。
残りの工程は、三股までの下りを残すのみとなった。
長男はシリセードでスイスイ下って行ってしまう。
中々傾斜もきついので、ロートル組は一歩一歩をしっかり踏みしめて下っていく。雪も大分緩んでスリップ注意だ。
いやらしいトラバースも思ったほどではなく、まめうち平を過ぎると雪もどんどん減ってきてやがて尾根を下ってゴジラの木を過ぎると、あたりにはキクザキイチゲが咲き乱れている。
雪山の最後にこんなプレゼントが待っているなんて感激だ。
力水で水を得て本沢にかかる橋を渡り、やがて林道を20分歩いてゲートに着いた。すでに蝶ヶ岳ヒュッテで予約しておいたタクシーが待機していて、
旧しゃくなげ荘裏の登山者駐車場まで戻った。
前半の厳しい登りと打って変わって、後半はすばらしい稜線漫歩を堪能したいい山旅だった。
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