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北ア、後立山縦走(回想)

爺ヶ岳~鹿島槍ヶ岳~五竜岳~唐松岳

6800字近くあります、長いです

当初の計画では5日間で扇沢を起点として爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳、唐松岳、鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳、栂池自然園に下山するという壮大な計画を相方が立てた。(計画倒れとも言う)
鹿島槍ヶ岳と五竜岳の間に八峰キレット、唐松岳と天狗ノ頭の間に不帰ノ嶮を抱える難路だ。
大きなザックを背負ってこういう所を歩くのか、という時点で私はめげめげだが、相方は岩っぽい所が大好きなのでけっして譲らない。

こんなスタートだったが、まさかの相方が種池山荘まで青息吐息のダウン。相方よりも相当早く着いてしまうなんてめったにないことなので、うれしいやらうれしいやらだ。この時点で当初の計画で不帰ノ嶮を越えるのは日程的にきびしくなってきた。再度計画を練り直し、5日間でのんびり唐松岳までたどるゆるゆるコースに変更となった。

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1日目

早朝、扇沢Pの手前では渋滞となってぴくりとも動かない。爺ヶ岳の駐車場のトンネル下に少しスペースがあったので、ユーターンしてそちらまで下る。なんとか車を止めて準備をして出発だ。

前日は北アは少しまとまった雨が降ったようで、朝方はまだなごりの雨が残っていた。爺ヶ岳登山口の駐車場はすでに満車で、山頂を目指す人々がひっきりなしに出発して行く。
私達も登山口ポストに登山届を出して皆に続いて柏原新道を行く。
これから始まる縦走への不安と期待とが入り混じった瞬間だ。体を慣らすようにゆっくりと一歩一歩踏みしめていく。

扇沢堰堤の水音が序々に小さくなっていくと、沢沿いに生い茂るやわらかな緑の植生からオオシラビソへと変わっていった。朝日を浴びる根太な森はここは「俺たちが守っているぞ」と言わんばかりの神秘な聖地のようだ。

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樹林帯は風が通らず、前日の雨も相まってしばらくむしむしと暑い登りが続く。軽荷の人々に次々に抜かされてちょっとペースが狂いそうだ。
やはり重荷のお兄さんに「今日はどちらまで」と聞かれる。当初予定であった冷池山荘テント場と答えるが、たどり着けなかった・・・

ダケカンバの木々が目立つ石畳という場所からは種池山荘がすぐそこに見える。が、ここからが遠い。
お日様にじりじりと照らされるが、ときどき通る風が心地よい。
雲海が高山の下をすっぽりと覆い、まるで別世界に紛れ込んだようだ。
目の前には針ノ木大雪渓を挟みこむように蓮華岳、針ノ木岳、スバリ岳が姿を現す。奥にちらっと見えるのは船窪岳だろうか。

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まるでぬけるような青空を目指していくようにして相方よりかなり早く種池山荘に到着する。生ビールの看板がまだ初日最終地にたどり着いていない(とこの時は思っていた)身には大変罪な山荘だ。
相方をしばし待つとどうも調子が悪そうだ。しばらく日陰で休み、お昼を取り・・・生ビール・・・もう私の中ではここで完結。

が、ご飯を食べたら案外元気になっちゃって冷池山荘へ行こうかどうしようかだが、ビールを飲んだ時点でだめですってば。
種池の由来である小さな水溜りの先がテント場だ。平で日陰もあって、おまけに生ビール・・・これ以上ない快適なテント場だ。

テントを設営して小屋の上の高台まで行ってみる。小屋の後ろに雄山、大汝山、真砂岳、別山と、

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その右手には堂々の釼岳がそびえる。長次郎谷、八ッ峰、三ノ窓雪渓、小窓ノ王、小窓雪渓、小窓はくっきりと指呼の間だ。

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更に登山道を進むとすぐ目の前には爺ヶ岳南峰、中峰、北峰とがゆるやかな峰を連ねて、いかにも爺の名にふさわしい。

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一旦夕食の為テントまで戻る。食材は生のものがたくさんあるのでビールも進む。初日は恒例の冷凍野菜とちくわのみそ煮込みうどん。
ハムやチーズなどのつまみなど。みそがあると塩分補給にはもってこいだ。

隣の山岳会の方のテントはステーキみたい。いい匂いがこちらにも漂ってくる。おまけにガーリックパンを焼く為だけの道具まで。
定点テント泊は贅沢でいいなあ。ちらちらと盗みみる道具の数々に古き良き時代を感じてなんともうらやましい。

ビールも効いていい気持ちになったところで、また高台を目指して日没を見に行く。綿菓子のような雲海の先はすべてを覆い隠してまるですぐに海のように見えるが、まだまだ先なのだろう。空の色がほのかにオレンジをまとってなんとも美しい。

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17:30太陽が釼岳に沈み始めると、あっという間の出来事で落ちていった。
後は黒く大きな山塊が支配する闇の世界へと向かうだけだ。私達も眠りにつくことにしよう。

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2日目

鹿島槍ヶ岳後方から空がオレンジに焼けだした。朝焼けは雨の兆しとことわざにあるが、そんなこともなくこの日の晴天を約束してくれた。
針ノ木岳たちも染まり、この縦走で最初で最後の富士山も朝日の中で輝いた。その右手は南アの山々だろうか、ぼんやりと八ヶ岳も確認できた。

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当然の主役、立山や釼岳も一際鮮やかにその姿にオレンジの衣装を順に纏ってゆく。短い時間の出来事が、まるで永遠に続くかと錯覚してしまうほど、織りなす色々は微妙に変化してゆく。
その寸分も逃すまいとじっと目を凝らす。この時だけは私だけの一人の時を刻む。心の中で思いが巡っていった。

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さあ、夜も明けた。テント場で知り合った方々と挨拶を交わし、ザックを背負って出発しよう。爺ヶ岳へ少しづつ高度を上げてふと振り返ると、槍ヶ岳、穂高の山々が序々にその姿を現した。

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冷池山荘やテント場の先には、鹿島槍ヶ岳がその姿を誇らしげに見せつけてくれる。どこがいいアングルかな、なんて必死に探している自分がとてもちっぽけに感じられる山容だ。

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ほどなく爺ヶ岳南峰に到着、白馬から高妻山方面までなにも遮るものもなく、また煙を吐く浅間山まで目に入るすべてのものは雲海の上の山々だ。
爺ヶ岳中峰(2669.9m)が三角点のある最高点だった。

顔なじみになったテント場の人達も軽荷でぞくぞくと布引山に登ってきた。
釼岳はその姿をだんだんに変えていくが、ランドマークに変わりなく終始その姿を私たちに見せてくれて遠くから見守っていてくれる頼もしいお山だ。

鹿島槍ヶ岳南峰(2889.2m)は北峰よりも47m高く三角点のある実質的なピークだ。テント場からここまでのの道のりをしみじみ思い返しながら、なかなか去りがたい。
が、この先の難路を思えばそうのんびりとしてもいられない。ぐっと人の減った吊尾根の岩場を慎重に下って行く。

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すずしい雪渓からの風を受けながら、眼前の北峰はガスも出てきたため巻いてしまった。黒部側に鎖やハシゴの連続の登山道が続き、一歩間違えれば谷底までいってしまいそうな断崖絶壁である。
これがハシゴ?な木材でもないよりはまし。途中追い抜いたおじさんとは、その後翌日の五竜山荘まで前後して歩いた。

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緊張の八峰キレットは鎖やハシゴがしっかりしていてさほどの恐怖はなかったが、人の身幅ほどの狭い切れ込みが本当に谷底までスパッと切れ落ちていた暗い空間だった。
ハシゴを登りきると小屋側に出てあとは小屋上の急傾斜を一気に下った。

外のテーブルでは、唐松山荘からの縦走者と「こっちのコースのが恐いよ」と恐さ自慢。
あんまり脅かしたら唐松山荘からの縦走者は下見に行った(すみませんw)
おじさんも程なく追いついて、また単独の健脚お兄さんも交えて話が弾む。

ここはテント場がないけれど、訪れる人も少なくてなぜか人恋しくなる場所だ。キレット小屋のスタッフたちはなぜかコワモテの方が多いけど温かい感じがにじみ出ていた。
小屋では夕食だけ頼んだが久しぶりの生野菜と魚がうれしかった。

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3日目

今日も明日も日程が余ってしまったために時間調整のためコースを細切れにしてのんびり歩く日だ。鹿島槍に向かう人、五竜に向かう人、朝のあわただしい時間はあっという間に過ぎてゆく。

歩くのが遅い私は後続の人々にプレシャーを掛けられるのが苦手、
それならば誰もいなくなった時間にのんびり歩くのが気持ちがいいので、
あえて遅めの出発だ。小屋番さんも最後のお客である私達を見送ってほっと一息な時間だろう。

キレット小屋からはいきなり両手を使っての登りから始まる。朝まだ体が岩に馴染まない時間なのでちょっと慎重に登る。
昨日八峰キレットから下ってきたコースにも登って行く人影が見える。
あんなきびしい所を下ってきたのかと感慨もひとしおだ。

キレット小屋はほんとうにきびしいところに建っているけれど、両コースからこの小屋が見えたときの安心感はどれほどのものだろう。
登りきればこれから向かうトレイルやはるかかなたにそびえる五竜岳に身も引きしまる。

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信州側が切れ落ちた岩稜帯を尾根通しに進み、ジャリっぽいジグザグを登ればやがて北尾根の頭(2560m)だ。
相変わらずの立山と釼が少し角度を変えてくる。

後立山とはよくつけた名だなと思う、どちらが後ろか前なのかだが、終始寄り添うように尾根を並べるお互いの山塊だ。
3日目のこの日も雲一つない晴天、申し訳ないくらいだ。

このコースの悪いところはたいてい鎖やハシゴがあってさほど恐くはないけれど、唯一何もない場所がある。ゆるく見えるけど谷側に切り立っていて、
おまけに足元はザレザレで斜めになり、手につかんだ岩はいまにも抜けそう。どうしても腰が引けてしまって相方に注意される。
鎖を張ってもあまりにも岩がもろいので抜けてしまうんだろう。

緊張の場所を過ぎれば、いよいよ前方にはG5(2645m)と更に五竜岳が近づいてきた。

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振り返ればすっくと鹿島槍ヶ岳の双似峰と意外にきびしい岩稜の尾根尾根。
昨日のおじさんにも追いついて、手を振ったりとなんだか親しさがこみ上げる。

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五竜岳に対座してみると思いのほかの急登だ。
どこが登山道なのだと少し心配になるが、実際登ってみると上手にコースはつけられているものだ。
ジグザグの登りと時々岩をよじる緩急をうまく利用したコースだ。
五竜から下ってきた方は少し緊張したと言っていた。

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G5を越え、五竜岳(2814.1m)に取り付いて、山頂はにぎやかだった。おじさんとも写真を撮りあったりして今ここに居る喜びを分かち合う。

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山頂を後に2658mのピークを回りこんで、岩場を下ったりへつったりしながら、いよいよ五竜山荘だ。
白岳を背にしての佇まいは、いままでの難路と打って変わってほっとする絵のような一こまだ。

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段々になっているテント場も小屋に近く使い易い。テントを張ってビールを飲んで、実はこれから日没までが長かった。

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じりじりと照りつける太陽は容赦なくテントの中もベンチにも照りつける。
おまけにさえぎるものがないので、お山では普通17時には日没なのにここでは19時まで日が沈まない。実に7時間も太陽に焼かれる事態になり、ビールがいくらあっても足りませ~ん。

そんなに焼かれてしまった7時間だったけど、毛勝三山に沈む夕日は雄大さと鮮やかさと美しさと、ちょっと言葉では言い表せない位すばらしいものだった。

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序々に沈む太陽に従って、空が山が雲海が次々に色を変えていく。やがて太陽は一瞬オレンジに滲んで雲海の中に消えていった。

20時すぎ、うつらうつらしていると、小屋から出て星空を見上げていた人々がやがて「落ちた、うわあ」と・・・
そうだ、お盆の風物詩ペルセウス座流星群が丁度見えるのだった。
時期的にはピークは過ぎたのだろうけど、それでもまだ観察出来る。
くっきりした星空は人工衛星も良く見える。

打って変わって信州側の下界では花火の音がこだまする。
残念ながら花火を見下ろすことは出来なかった。数年前の蝶ヶ岳からは諏訪湖の花火が手に取るように良く見えたことを思い出す。

まぶたに写る風景が現実のものなのか夢の中なのか・・・やがて深い眠りに落ちていった。

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4日目

今日は五竜山荘から唐松山荘までのコースタイムは2h30’しかないらくちんコースだ。ここをお花の写真を撮ったり、じっくり風景にみとれたりとのんびりゆっくり時間を掛けて歩く。

なんて贅沢な時間の使い方なのだろう。縦走はとかく先へ先へと急ぐものだが、たまにはこんなゆっくりもいい。

いつも通りな日の出で今日も始まった。
こんなに晴天が当たり前になってしまった縦走もめずらしい。

五竜岳も美しく焼け、山肌には唐松岳の影を写していた。
今日は時間もたっぷりなので、のんびりとテント場を後にした。

小屋に泊まったおじさんはとっくに出てしまっただろうな。
さよならも言わなかったけど、これもお山の一期一会。またどこかでお会い出来ることを!

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白岳を回り込むと前方には大黒岳(2393m)や牛首(2511m)の先に唐松岳がそびえる。広い尾根をゆるく下り、いったんダケカンバの低い樹林帯になり登り返して振り返ると五竜岳の右手にいつもの立山と釼・・・もう笑っちゃうほど定番になった。このコースもお花が多い。

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広い大黒岳を越え、やがて前方には牛首の岩稜帯が見えてくる。
もう五竜岳から先は危険箇所はないと思っていたぬるい気持ちに渇を入れるようにそびえたつ。

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巻き道があることを知らなくて上へ上へと目指していったが、そんなに長い距離ではなく、まあ楽しかった。
回り込んで唐松山荘が見えてくる先がほんとうのピークなのかな。そのピークでちょっと早いけどこの縦走の無事を感謝した。

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唐松山荘でテント場の申込みをし、いい位置を確保するため早いうちにテントを張る。テント場は祖母谷温泉に下る登山道脇になる。

テント場からの唐松岳はなだらかな裾野を広げて、きびしい北東斜面とは対をなしている。

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テントを張ったら唐松岳(2695.9m)まで空身で登る、あ~らくちんらくちん。山頂からは360度の展望でみな山座同定に忙しい。

南面は立山や釼、五竜、北面には白馬三山、W大の登山サークルの人達や今日五竜まで行って、翌日扇沢まで一気に下るという健脚のお姉さん、単独の男性などとしばし語り合う楽しい時間をすごす。

相方が写真を撮る時に、さりげなくどいてくださる方など、何気ないしぐさにお山の方の温かさと思いを感じる。
展望も雄大だったけれど、いろいろな方々との出合いやふれあいも今回の縦走では大きな収穫となった。

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一旦山荘に下って、生ビールとお昼はラーメンを注文、もうこの山行で小食になってしまったので、(ビール飲みすぎ説もあり)二人で1杯で充分だった。蟹やホタテ野菜たっぷりなとんこつ味がなかなかおいしかった。

テント場にはQ大の山岳部の大きなテントも下の方に4張り増えていた。
針ノ木岳からずうっと縦走してきたようで、やはり今日が最終日なのだとか。明日も似たような時間でこのグループと下っていくことになる。

昨日同様のたっぷりな時間はひたすらビールに明け暮れるものとなった。
ただ今日は日没が17時でほんと助かった・・・暑くてかなわんものね。。

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5日目

長いような短いような縦走もあっと言う間に最終日を迎えてしまった。
毎回のんびりと歩を進めていったおかげで、お山のエッセンスを存分に味わうことが出来たと思う。

見慣れたお山も刻々とその姿を変え、次にはどんなお山が目の前に現れるのだろうと、期待にたっぷりと答えてくれた縦走だった。
さて、テント場を旅立つことにいたしましょう。

東の空の日の出のショーも終わり、Q大の山岳部の子供達の後に少し遅れて唐松山荘を出立した。

稜線をトラバース気味に鎖などの張った場所を下って行く。
今回行くことのかなわなかった不帰嶮になんとも後ろ髪の引かれる思いだ。
丸山ケルンを越え、扇雪渓を過ぎると、すばらしいお花畑になっていた。

第三ケルンが近づくにつれて、また五竜、鹿島槍、続いて爺ヶ岳と順に姿を現しだす。

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左手に目をやれば、唐松~不帰~天狗~鑓~杓子~白馬岳がずらっとそろい踏みだ。

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朝まだ人気の少ない八方池は、雲もなく、風もなく、鏡のように澄んだ湖面を私たちに見せてくれた。鳥肌が立ちそうなほど神々しい一瞬だった。

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トイレのある第2ケルンを過ぎれば、いよいよ町の風景もだんだんに迫ってくる。もうこの縦走も終わりなんだなとちょっぴりせつなくなるような、やっと町が近くなったという安心感とないまぜの複雑な心境だ。

もう花畑も終わって笹っぽい所を下れば、そこは八方池山荘のあるリフト乗り場に到着だ。
アルペンクワッドまでは歩くつもりだったが、もう文明の利器を見てしまえば、ここでいいかなな気持ちになってグラードクワットから乗ってしまう。
秋草の中を快適なリフトのそよ風に吹かれながら、これから登っていく人々を半分うらやましげに見やる自分・・・

バスに乗って駅まで向かい、白馬駅から大糸線にごとごとゆられながら、思いのほか大きな白馬三山に見とれた。またバスを乗り継いで扇沢では、親切な千葉の方が爺ヶ岳の登山口まで車に乗せてくださった。帰りは大町温泉のつるつるの薬師の湯で汗を流し、豊科でそばを食べて帰路についた。

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