見出し画像

南アルプス 白峰三山縦走(回想)

奈良田~北岳~間ノ岳~農鳥岳~広河内岳~大籠岳~白河内岳~笹山北峰~
笹山(黒河内岳)~西山ダム~奈良田

画像2

1日目

北アと言えば垢抜けた印象だけど、南アの力強さと不器用な美しさもまた捨てがたいものです。天気予報のよくない北アを避けて今回は南ア北部を縦走しました。

奈良田の第2駐車場は思ったよりも暑かった。
バス待ちは長蛇の列で奈良田から来たバスも座席はほぼ満席で、臨時バスは来ないのだという。
どう見ても乗りきれそうにないけれど、我家はなんとか乗車することができた。乗れなかった人は、結局このバスがまたピストンで戻ってくるそうで、時間通りに乗れてよかったな。
とはいうものの、運転席後ろの立ちっぱなしで、渓谷ギリギリのコーナリングは恐ろしく冷や汗ものだった。

広河原で朝食を取り出発

歩き始めると長男はあっという間に姿が見えず。。。相方ともどんどん離れていく。
まあ、マイペースで行きましょう。
白根御池小屋との分岐を右に見やって左の大樺沢コースを進む。
大樺沢の流れに沿って登っていくと、所々で枝沢からすだれ状の滝が掛かっていてとても涼やか。

大樺沢は二俣の少し手前から雪渓になっていて、雪渓が現れるとムシムシした暑さも幾分和らぐ。

画像1

朝から稜線には雲が掛かっていたので覚悟はしていたものの、
二俣を過ぎてから、ぽつぽつと雨が落ちてきた。
相方もペースが遅れてきて、やがて一緒に歩くようになった。
私は調子が出てくるが、相方は少し歩いては休むという縦走初日のパターンになりつつで、やっぱり学習できていないw
ダケカンバの樹林帯では、霧の中にマルバダケブキの群落があたり一面に広がって幻想的、心のカメラに収めます。
この稜線に出るまでの道すがらがムシムシとして一番辛かった。

稜線に出ても、今日は弱雨と霧で全く展望はありません。
それでも岩稜帯歩きは、いかにも高山に来たという趣きでうれしい。

小太郎尾根の分岐を右に分けて、あとはひと登りで北岳肩ノ小屋に到着。
やがて雨も上がり相変わらず霧の中なので、昼寝したり、ビールやワインを飲んだりとのんびりと過ごす。

夕食はスパゲティポロネーゼと鶏肉の照り焼きのレトルトときゅうりを食べた。贅沢なメニューだった。

画像3

2日目

東に展望を広げる北岳肩ノ小屋の天場は、テントの中からも朝の気配を感じ、真っ暗な空はほのかに紅を差しながら、やがて昨日雨を降らせた名残の雲を毒の赤へと染め上げます。

画像23

鳳凰のそのまた奥の秩父から、太陽はゆっくりと、そしてやがては勢いを増してあたりを暖かな黄金色に染め上げていく。

画像4

下界の諸々を覆い隠した雲海の上の富士は、青くシルエットに浮かぶ。
あ~これが見たくてはるばる登って来たんだ。。。

夜が明けてみれば、雲はどこかに追いやられて、清々しい青空が広がる。
今日の行程は農鳥小屋までなので、ゆっくりと朝食を摂ってのんびり出発。
仙塩尾根への道を右に分けると、偽ピークを回りこんでほどなく山頂。

画像22

神様が与えてくださった晴天の山頂に居合わせた人々もみな笑顔だ。
さえぎるもののない、甲斐駒や仙丈岳。
長大な仙塩尾根や池山吊尾根が緑豊かに伸びていく。
相方が「土の稜線を行くのかと思ったけど結構岩場もあるんだな」なんて言っていますが、当たり前やんけ。。。
それでも、森林限界の高い南アの雰囲気をある意味伝えているなあと感心もする。

画像5

中白根山、間ノ岳とゆるやかな稜線漫歩を楽しむ。振り返って北岳。

画像6

間ノ岳でのんびりして、眼下には農鳥小屋が指呼の間だ。
二重山稜っぽい登山道はマークに従いながら、ザレを一気に下って行く。
長男が先発で受付を済ませているはずなので、農鳥親父の対応は長男がしてくれた。
噂の厳しい山男だから、どう対応したのか気になっていたけれど、行く先を聞かれただけだったようで、難関クリアw

画像7

ここの水場は小屋から往復20分。農鳥親父が毎年整備してくれる。
白根南嶺は稜線に水場がないので、明日と明後日の分を相方と長男でザックを背負ってたっぷり汲んでおく。

画像8

天場にはお昼には着いてしまったので、テントの中は暑くていることができない。木陰を探してビールを飲みながら涼みます。

さあ、そろそろ夕食。
今日は、缶詰のスパム、オクラ、玉ねぎを炒め、レトルトのミートソースで味付けした。つまみとして食べたら、最後にご飯を投入して主食とした。
まあまあだったんだけど、スパムもしょっぱくてミートソースも濃いので、う~んしょっぱいです。
調味料と油がいらなくて便利だが、ミートソースじゃなくトマトピューレだったらよかったかな。
持って来ることができれば、生トマトがいいかも。
あと、スパムの缶詰が大きいので、3人でやっとこ食べた。
オクラと玉ねぎは縦走には便利だ。

画像9

画像10

3日目

夜明け前、北岳方面には雲間から稲光がきらめいている。
雲海は入道雲に発達するのかと思われる怪しい力がみなぎって、今日の天気に不安を与える。

画像11

そんな不安を振り払うように、夜明けの富士は穏やかな姿だった。
なんとか天気を持たせてくださいと願って、今日の行程が始まる。
今日は笹山付近までは進んでおきたい。

画像12

西農鳥岳に向けて歩き始める。
つづら折りにジグを切りながら高度を上げていく。
背後に間ノ岳の高さを感じながら、やがて登りついた眼前にはさらに奥深くへと続く南アの峰々。。。

農鳥岳からは仙塩尾根の連なりがいよいよ近くなって、左の尾根は蝙蝠尾根か、その先に塩見岳が翼を広げる。
雄々しいなあ。

画像13

農鳥岳を後に大門沢下降点まで下って行く。
大門沢下降点より大門沢までは分岐を左に、
目指す広河内岳までは、目の前の這松斜面をトラバース気味に登っていく。
登り上がると開けた大地に飛び出し、山頂は目の前。

あたりはいよいよ雲が上がってくるが、まだ大丈夫。
山頂には池ノ沢を下って大井川源流をたどり、間ノ岳を目指すというペアがいた。
話を聞きながら、はるか眼下に広がる大井川の切れ込みを見やる。
うらやましい、はっきり言ってうらやましい。
いつか、大井川源流をたどってみたいな。

山頂からは道が二手に分かれているので間違えないように左の道に入る。
しばらく下るとトラバース道になるので、まず長男が下っていく。
私も後に続くが、長男がおかしいと言って戻って来る。
その後長男は別の踏み跡へ。
私はしっかりとした踏み跡で、赤いペンキマークも付いていたので、疑うことなくその踏み跡を行く。
私の後ろの相方は「尾根から行ってみる」と尾根に登っていく。
私は赤ペンキ通りに行くが、なんだかおかしい程下って行き、ザレを横断したところで赤ペンキを見逃す。
ふと左手を見やれば、50m程上にP2772への稜線が見える。
その鞍部にはもう長男が、相方も尾根から下って来ていた。
なに?私だけ道ロストですか。。。
目の前にはうんざりするような這い松の海が広がっている。
あ~ここを横断するのかあ。。。
なるべく薄いところを探して横断するが、這い松を踏み抜くと胸まで入ってしまって身動きできなくなる。
永遠に続きそうな這い松の海にもううんざり。
それでもうまく這い松の枝の上に乗りながら、なんとか鞍部の下までたどりついた。
まさか、南アで藪こぎするとは思ってもみなかった。。。

長男に聞くと、黄色のペンキマークがあったとのこと。
相方の尾根コースも這い松の横断箇所があったそうだ。
私の赤ペンキマークはどうやら池ノ沢へ下っていくものだったようで、
池ノ沢へは、山頂から右に向かう道だと思っていたので、ここから池ノ沢とは思ってもいなかった。
広河内岳への登りでは間違うことはないと思うが下りでは要注意箇所だ。

画像15

気を取り直して稜線の道を辿る。大分ガスが上がってきて、おまけに踏み跡が薄いので正直ケルンだけが頼りの霧の中。

尾根をたどれば問題なさそうなのだけれど、這い松帯や岩稜帯を微妙に迂回しながらのルート取りなので丹沢のように、やみくもに尾根通しという訳にもいかず、時々目を凝らしながらの行軍となる。

画像15

精神的にもしんどくて、いくつも現れる名もないピークごとにどっかりと休んでしまう。食欲もなくひたすら水分ばかりを摂る。

広河内岳から笹山まで4時間とふんでいたが、このペースでたどりつけるのかと少々心配になってきた。
大籠岳、そして白河内岳に着いた頃に、あたりは真っ白。。。

この広い山頂からケルンを頼りに迷路のような道を辿る。
二重山稜をやや南東の方角に向かいながら、鞍部でついに雷と雨に捕まってしまった。

鞍部には格好の泊り場があり、雨足も強くなってきたので、ここに張ろうかと準備を始めるが、やがてまた雨脚も弱まり、時間もまだ早いのでもう少し距離を稼ごうとシラビソの樹林帯に入る。
少し下ったところで、やはり雨と雷が復活したので平らなところを見つけてここで幕。

雷と雨は夜半まで続いた。
鞍部とはいえ、白河内岳直下は雷にはやはり不安があり、樹林帯の中まで来れてよかった。もっとも樹林帯の中も雷の側撃雷があるので、木から45度離れてと思ってもそれも微妙。
寝てれば平気かなと気休めだが、若干雷が遠ざかったのが救いだった。

今晩の夕食はもう野菜も尽きてカレーときゅうりと最後のワイン。
朝食はハムときゅうりのサンドイッチで済ませた。

画像16

4日目

昨夜来の雨と雷は明け方までには収まって、ほっと一安心。
それでも今日の天気もいつまで持ってくれるのかわからないので、
すばやく支度をして出発。

泊り場を出るとシラビソの樹林帯から這い松の中へと入っていく。
ここからは富士山も望めていい気分。

画像17

ここで初めて下から歩いて来る人に遭遇、転付峠からだそうで、この後もぐるっと大回りでまた転付峠に戻るそうな。
南アは何気に長期縦走の人が多い。
また樹林の中に入って、ややトラバース気味に登っていく。
ピークともつかない開けたところからは笹山北峰が目の前だ。
もっと遠くだと思っていたので、意外に近かったのでうれしかった。

笹山は樹林の中で展望がないので、遮るもののないこの北峰がすこぶるの眺めで、思わず3人で歓声が上がりる。

画像18

お天気がもう少しよかったらとも思うが、贅沢は言えない。
南アの山座同定はあまり自信がないけれど遠く笊ヶ岳の方まで見えていた。

笹山までもすぐだった。
ここはピークだけ確認して奈良田までのダイレクト尾根、1900mの激下りに入る。

画像20

しばらく平和に下るが、すぐに手足を使っての急激な下りになる。
つづら折りにすれば、多くの木を切り倒さなければいけないのだから、この激下りが自然の為には理にかなっているのでしょう。
倒木もまたぐようになっていて決して親切とは言えないが、
あまり手を掛けないこれくらいが自然との折り合いでいいのだと思う。

画像19

2300m界隈はいかにも泊り場適地という所で、焚き火跡もあって利用されているみたいだった。
最も樹林の中の焚き火もどうかなとは思いますが。。。

しばらくは美しい苔の森で幸せな気分になって森フェチにはたまらない。

画像21

この尾根は林層がすばらしく、シラビソ~シラカバ~シラビソ~ブナ~モミ~スギ(天然です)と標高によって林相を変えていくのが素晴らしく、
急下降にはまいるのですが、森の美しさがそれを補う。

とは言うものの足がもう痛みで言うことを聞かなくなる。
紐をゆるめたり中敷きを外したり、標高1800mあたりからはずっと横歩き状態だった。長男はもう道わかるからと先に行きます。

100m下るたびに相方に標高を確認して、長い道のりにめげそう。。。
が、1300mあたりでついに雨に捕まります。また、雷もゴロゴロ鳴り始めます。
あと標高差450m、体にムチ打ってなんとかがんばります。
やっとの思いで発電巡視路まで辿り着いても、この鉄パイプのジグザグ道がもううんざりするくらい長い。。。
西山ダムに着いた時は心底ほっとっした。
奈良田湖を正面に見たら、左に曲がってしばらくで吊橋です。
この間、相方は先に下って車を取りに奈良田駐車場まで先行する。
吊橋を渡っていると長男が迎えに来てくれて、ありがとう、いい子に育ったとつくづく思いましたとも。

足の指さえ痛くなかったら、下りでは長男に負けないのにとちょっぴり悔しかったが、子供の成長もまたうれしくもあるので、まいっか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?