見出し画像

“君たちはどう生きるか“は最低でクソな結末を迎えるけど面白いから見ろよという話

君たちはどう生きるか。 

そう問われても、「知るかよ」としか返せない。ワイは今を乗り越えるので精一杯な典型的な弱者男性で、将来に思いを馳せてる心のゆとりなんてまったくない。

宮崎駿のさ遺新作(まったく流行りそうにない表現)は、こんなワイにどんな心境の変化をもたらしてくれるのだろうか。

ふだん映画館に足を運ぶ習慣がないワイは、かつてないほどの期待を込めて『君たちはどう生きるか』の鑑賞に臨んだ。客入りはワイ含めて15人ほど。
15人……!?

初日の朝イチで鑑賞し、その日のうちに記事を投稿するつもりだったのだが、感想文としては二万字にも及ぶ大作となったため書き上げるのに時間がかかってしまった。

しかしこんな画像もない長文わざわざ読んでくれる人はいないと思い、色々と削ぎ落とし、頑張って短くまとめた。


●未鑑賞の人向けQ&A

まずはこれから映画を見ようという人のためにQ&Aを。事前情報ほとんどないしネタバレを控えてるマナーの良い客が多く、いろいろ心配に思ってる人がいると思われるので
見に行こうか悩んでるん人は参考にしてほしい。

■どんなストーリーなの?難解?

難解という感想を散見するがそんなことはない。

“陰キャのヒッキーが辛い現実を受け入れて自立する“というのがメインテーマで
“嫌いな奴を受け入れる“サブテーマ(自信ない)が物語を彩る。要するによくある少年の成長物語です。
ただし主人公は男。パヤオ作品のくせに男。
これには理由があるけど終盤のシーン見たらわかると思うのであえてこの記事では書かない。

■子どもと一緒に見ても大丈夫?

ガキに見せられるかどうか不安な親御さんは安心して劇場に連れて行くといい。

これセックスのメタファーやろ…っていう表現があったりするけどどうせガキには理解できないし、エンタメ性が強い内容だからガキも素直に楽しんでくれるはずだ。

絵的にキモグロい場面がいっぱいあるけど、ワイらだってガキの頃にもののけ姫のキモい生き物や、カオナシみたいなキモグロ化け物とか見ても健康的に育ったんだから大丈夫だって。

■原作『君たちはどう生きるか』読んどいた方がいい?

読まなくても大丈夫。その本を読んだことないけどたぶん全然関係ない。
同名の本が作中に出てくるけど、主人公の母親の形見がその本だったってだけでほぼ物語に絡むことはない。
登場する本が『君たちはどう生きるか』ではなく『がいがぁかうんたぁ』でも十分に物語は成立するレベル。

■ナウシカ2なの?

そんな寝言真に受けるな。

■ポスターの鳥は何?

あんなイケメン擬人化鳥いなかったよ。

■説教臭い内容なの?

尺の問題かむしろ説教が足りないくらいだった。

■映像どうだった?

遺作になるだろう作品ということで人によって期待してるものは違うだろう。
ナウシカみたいなやつ、トトロみたいなやつ、もののけ姫みたいなやつ…などなど。

この作品にはすべてがある。

映像的にはまさしく集大成。「はいはいお前らこういうのが見たかったんだろ?チョロい奴らめ」というパヤオがほくそ笑む姿が浮かぶようだ。狙ってそう作ったのかは知らないけど。

レトロな昭和の風景、外国の絵本のような世界、昔のパヤオ作品にあった緑溢れるファンタジー、その他色々詰め込まれている。この一作だけで多様なビジュアルを珠玉のクオリティで楽しめるんだからお得。恒例のジブリ飯もある。けどそんなにうまそうには見えなかった。

昭和の風景は、今どきおばあちゃんの家ですらお目にかかれないようなものがいっぱい。これだけ昭和を描ける人はもう少ないだろうし今後出てくることはないだろう。
将来、昭和を知る上で重要な史料のひとつになるのではと思ったほどだ。言いすぎ?

●あらすじと感想

重要なネタバレと、前情報なしに見てほしい部分をボカし、あらすじを紹介するとともに感想を述べていく。少しでもネタバレ見るの嫌だ!って人はさっさと映画館行け。

・主人公のキャラ造形が素晴らしい

戦時下の日本。空襲で街が焼けるシーンから始まる。この時、主人公マヒトのマッマが死ぬ。
その後、マヒトのパッパはマッマそっくりなマッマの妹ナツコと再婚する。
マヒトはナツコに他人行儀で、ずっと口をへの字に結んでおり、容易に継母の存在…というか実母の死受け入れられない気持ちが伝わってくる。まあそりゃそうだ。

このマヒトの造形が素晴らしく、前半部分は基本的に厳しい面持ちで兵隊さんのように真面目な振る舞いをしているが、細部から年相応の子どもっぽさや感情の流動が伝わってくる。継母のお腹に触れて胎動を感じたときや、パッパとナツコのチュッチュを目撃したときとか。

さらにいうと舞台は昭和だが、マヒトは今の時代の若者っぽさを感じさせる要素がある。髪型は現代的で、他者や親とのかかわりが少なく、どっちかっていうと自分の世界に籠りがちなタイプ。ワイやお前らと同じ現代の陰キャヒッキーそのものである。

マヒトは温室育ちだからこうなった、ということかもしれないが、この造形のお陰で誰にでも作品世界に入り込みやすくなっている。

・継母との確執が物足りない

ナツコはクソ陰キャのマヒトと打ち解けようと歩み寄るが、マヒトが陰の者過ぎてどうにも距離を縮まらない。
マヒトはというとそのうちナツコでシコり出すんじゃないかという危うさすら感じるほどに、間に他人という分厚い壁を隔てている。

だが、自分が負った怪我を心配してくれたのを機にマヒトのナツコへの気持ちが良い方向へ変化していく。だがナツコ側は……。

作品後半では予想通りにナツコとの対立が描かれる場面があるのだが、ナツコ側の描写がイマイチ足りてないと感じた。

もう一声なにかあればなぁ。

・異世界との接触の様子が秀逸

今の時代では博物館でしか見られないレベルの昭和の世界が描かれており、空気の香りが伝わってくるほど説得力があるので、平成生まれながら昭和のノスタルジーにのめり込んでしまった。トトロを見ている時と同じような感覚だった(ただしトトロのように楽しげではない)。

だが公開前に明かされていたとおりこれはファンタジー活劇である。

アオサギが人語を喋り、人間のような振る舞いをした瞬間、これまで丁寧に描かれてきた世界がぶち壊され強い違和感を覚えてしまった。
このぶち壊し具合が、理解が及ばない異世界との邂逅に強いインパクトを与えていて素晴らしい。

だみ声で迫るアオサギと、マヒトに群がるキモい生き物たち。
アオサギは「実の母と会わせてやるぞ」と実の母を餌にマヒトを誘うが、それってつまりあの世だしこんなキモい奴らについていくなんて冗談じゃない。我々陰キャの鏡像であるマヒトは当然拒絶反応を起こす。

歴代のジブリ作品で描かれた異世界というのはどれも奇妙であれどどこか魅力があったが、アオサギが垣間見せてきた異世界はトップクラスにキモい。絶対に足を踏み入れたくない。

その後に幾度とアオサギが迫ってくるのだが、マヒトは弓矢を自作してまでアオサギを殺害しようとする。

マヒトの殺意に違和感を覚えてしまった。現実でこんなのと遭遇したらそりゃ殺すかもしれないが、パヤオ作品の主人公がこんなに明確な殺意を抱くのは珍しい(作品を全部見たわけじゃないので実際のところわからんが)。

近年、若者が理解できない凶行に走る事件が目立つようになった気がするが…やはりマヒトは最近の若者の象徴として描かれているのだろうか。
陰キャで凶悪。ワイらってほんとろくでもねえな。

・ババアとのセックスで描かれる成長

ナツコがいわくつきの廃墟に行ったきり帰ってこなくなり、マヒトは世話係のババアとともにいよいよ異世界へカチコミに行く。

異世界では理解不能な不思議な物が大量に描かれ、考察したい勢を絶望にたたき落としてくる。この映画が難解と言われる所以がここにある。

歳の割に世の中のことを何も知らず、ネットで得た真偽不明の情報に踊らされまくりのワイら陰キャが物事を深く理解しようなんて片腹痛いので、ここでは素直に雰囲気を楽しむのが正解だ。

マヒトは異世界に突入後にババアとはぐれてしまうが、すぐに若返ったババアと再会する。美女ではなくボーイッシュなので最初男かと思って困惑した。
まさかこのババアがヒロイン?攻めたことするなよ、素直に美ロリ出しとけカスと激しくイラついたものだ。

マヒトはババアから謎の生物の捌き方の手ほどきを受けるのだが、これが富野由悠季かよってくらいにセックスを彷彿とさせる表現でドキっとした。ババアが相手とかやめてくれよ…。ガキにはわからない塩梅なのがなんとも。

「お前ら陰キャは三人前以上にポルノ動画でセンズリこいてるくせに丁寧なレクチャー受けないとまともに女を抱けないんだろ?」というパヤオの強い主張を感じる。
これは『君たちはどうイカせるか?』という映画だったのか?余計なお世話だカス。

このエピソードの後、マヒトは『絶対に動かすな』と念を押されていたお守り人形を自分の意思でちょっとだけ動かしてしまう。

童貞を捨てて自信を得たマヒトに自立心が芽生えたっていう成長を表す今作屈指のシーンだ。

…………。

湯屋での社会経験を通して人間的に成長した千尋と比べてなんだこれは!!!???

でも確かに童貞捨てた直後って無敵感あったよなぁと思ったり。うまくできなかったけど大きな壁を乗り越えた感。自信はついたけどちょっとしかお守り人形を動かせなかったってのが陰キャらしくて絶妙。

・ようやく登場したロリ美少女が最高級にシコい


ババアセックス編の途中でついに待ちかねたロリ美少女ヒミたんが登場する。

巨乳の黒髪美ロリ。「あれは巨乳じゃなくて単に服のアレじゃない?」とツッコまれそうだがあれはまさしく乳がもたらした形である。ワイにはわかる。
はっきり言ってそうすけの母ちゃん以来のシコさですわ。イイ。

ぶっちゃけ最初はデザイン受け付けなかったんだけど、ハツラツとしてるしやたら距離感が近かったりして、陰キャ弱者男性を落とすツボをよく抑えている。ワイらが現実で女性にこれをやられたら一発で御陀仏になってしまうだろう。

尺の都合なのか、このあたりからマヒトの内面描写が明らかに減っていく。その点不満だったのだが、
「んほぉ〜この娘たまんねぇ〜」なんて描かれたらあまりにもキモすぎるので内面描写を省いたのは正解といえる。

・インコの王様が結構良いキャラしてる

なんだかんだあってヒミたんが敵勢力(なぜかインコ)に捕まり、マヒトはアオサギとともにヒミたんを追う。
インコたちのデザインはほんとキモくてやばい。マヂ無理…。インコをこんなにキモく描けるのはパヤオの他にいない。
ただインコの王様は表情豊かでデブ専ケモホモナーに需要ありそうな見た目で、性格もなかなか愛らしい。最後に余計なことして一波乱起こすとことか好き。

階段だったか橋だった忘れたけど、それをぶっ壊してマヒトたちを妨害する場面、最後に足で踏んでダメ押しするのが芸細でなんか気に入った。

・最低最悪な結末

ヒミたんやナツコと再会し、異世界での神様的存在と色々あった末(ネタバレ控えようとするとどうしてもこういう説明になるw)ついにマヒトたちが現実へ帰る時が来た。

『君たちはどう生きるか』という問いに対する答えだが、ヒミたんは「現実なんてクソゲーやぞ」とマヒトに引き止められるも、陽キャ過ぎる返しをして現実へと飛び込んでいった。主人公が引き止める側ってこの手のストーリーじゃ珍しい。

そしてマヒトもクソゲーな現実を受け入れて、ナツコとともに現実へと帰っていくのだった。

そのとき、あのキモすぎるインコたちが一斉に飛び立ち、現実世界を鮮やかに彩った。
こんなに美しいのだから現実ってのは実は悪いもんじゃないかもしれない。
マヒトの新たな人生が始まり、物語は終幕を迎える。

…………これのどこが最低最悪の結末なのか?ヒミたんの選択は十分予想できたものの泣ける場面だ。ジブリ作品で一番好きなシーンを聞かれたらワイは間違いなくここを挙げる。

マヒトの選択も、絵的には地味だがこれ以外にはありえない。マヒトとヒミたんの選択は非対照的だが『現実を受けいれろ』という本質は同じもの。

パヤオが我々に提示した答えはこれなのだ。

だが、この記事の始めに書いた通りワイは弱者男性…。
そんなワイに『現実を受けいれろ』なんて答えは酷過ぎる。ワイには無理だ…。この世界はあまりにもクソゲー過ぎる。そんな答えをつきつけられるために映画を見に来たんじゃねえんだよ…。

助けてくれパヤオ…!最後に激きゃわ美少女が大量に出てくる映画作ってからくたばってくれ……!!もうメッセージ性とかいいから…!
エンドロールを眺めながらワイはため息ついたのだった。

●総評…というか考察

後半が駆け足気味で、たぶん展開についてけない人が続出するだろうなと思った。せっかく前半で丁寧に主人公を描いたのに、後半で見ている側とと主人公の心に乖離が生じてしまったのが勿体ない。

ヒミのキャラも記号的で、陽キャがそのテンションのまま最後まで駆け抜けただけ感があるのでカタルシスが薄い。
ヒミも現実に嫌気をさしていて、楽しい異世界に引きこもっていたが、マヒトと出会ったことで成長し最後にあの選択をすることになった…みたいな展開なら自分はもっと泣けたかもしれない。
ラストシーンも余韻を残さず唐突に終わる。
せめてもうちょっと時間をかけて終盤を描いてくれたらな……。と、実に惜しい作品になってしまった。

明らかに前半部分…マヒトとアオサギが対立し異世界に突入するまでの部分に時間を割き過ぎだが、個人的にめっっちゃ面白かったので削って欲しくない部分だ。
ひょっとして最初はサブテーマにあたるものがメインテーマのつもりで作り始めたのではないか?
君たちはどう生きるか ってのは実は後から湧いてきたタイトルで、最初は他者(アオサギや継母)を理解し受け入れて成長する愛と友情の話だった。
だからこそ前半でのアオサギとの対立があそこまで長く描かれたのだ。最初はヒミやナツコよりアオサギの存在こそ重要だった。
おそらく制作最初期に描かれたであろうポスターのイラストがアオサギであることからもそれが伺える。
明確に殺意を抱くほど対立した相手と一緒に冒険し、打ち解け合い、最後はお互いに友と認め合って別れを迎える。非常に美しい流れだ。

そんで話を考えてくうちに、テーマの『受けいれる』って部分が拡大して“君たちはどう生きるか“になったと。

“現実に帰ったら異世界での出来事を忘れてしまう“という明らかに要らん設定があるが、これは最後に野生動物に還るアオサギとの別れにほろ苦い感動を与えるエッセンスにしたかった名残と思われる。
だが、終盤でアオサギが空気になってしまった上に、今後待ち受ける現実を受け入れて現実へと飛び込むヒミの設定と競合が発生して不発弾と化してしまった。

あんな熱い想いを抱いてヒミが現実に飛び込んだのにヒミは忘れてしまうの…?と萎えたのは自分だけじゃないはず。

ともかく、本作は超絶くそ面白い作品だった。
ビジュアルもストーリーも最高。音楽も。安心して観に行ってほしい。

宮崎駿監督は有終の美を飾ったと思う。

満足感は本当に計り知れないものだった。
最後に素晴らしい作品をありがとう宮崎監督!次の作品楽しみに待ってます!








この記事が参加している募集

#映画感想文

66,651件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?