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成功企業のブランディング事例 Vol.11「任天堂」

成功企業のブランディング事例シリーズのVol.11へようこそ。
(Vol.10を見逃した方は、こちらからお読みください!)

本シリーズでは、様々な企業をピックアップし、その企業のブランディング手法や、それによって得られた効果についてご紹介します。

ニューヨークでサービスをローンチし、一年で約55,000ユーザーを獲得したZeBrandが、ブランディング初心者にもわかりやすい解説を目指します。グローバルで展開するブランディングサービスで提案している3つのステージに基づいて、体系的に企業を分析し紹介していきます。このシリーズを読みながら、ブランディング知識を蓄えていきましょう。

ブランディングに興味はあるものの、
・ブランディングが実際どんなメリットを企業にもたらすのか知りたい方
・ブランディング知識を蓄積したい方
に役立ちます。

ブランディングの概要に関しては、こちらの記事をご参照ください。

Define: ブランドの核となる方向性を整理し、定義する
・ブランドDNA
Design: ビジュアルアイデンティティをデザインする
・ブランドストラテジー
・ビジュアルアイデンティティ
Deliver: ブランドを世界中に届ける
・ブランドアセット

Refine: 世界や顧客の変化に合わせてブランドを見直す(Define, Design, Deliverを繰り返す)
・ブランドコーチセッション
・ブランドフィードバック
・ブランドスコア

ZeBrandによって定められたブランディングのステージの概略
Define、Design、Deliverのサイクルでブランディングを進めます

任天堂とは

任天堂とは1889年の創業以来、幅広い種類の玩具からコンピューターゲームの開発、製造、販売を行っているブランドです。大人気キャラクター「マリオ」を産んだ会社として世界的に知られており、知名度は世界的に見てもトップレベルです。最近ではマリオが登場する『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が公開され、アニメーション映画の中で身歴史的な興行成績を出しています。

任天堂のDefine 〜ブランドの核となる方向性を整理し、定義する〜

あえて社訓がない

任天堂の前社長、岩田聡氏は任天堂は「社是、社訓がない。ないことが任天堂イズムなんですよね。社是、社訓の通りに動いていたら人々は飽きてしまう」と語ります。つまり任天堂には、文字に残された企業理念というものが存在しません。企業HPにも、「柔軟な経営判断を行えるように、特定の経営指標を目標として定めていません」と明記しています。逆説的にいうと、企業理念がないことが企業のアイデンティティと言えます。その中でも社名の由来を大事にしているそうです。任天堂の由来は「一寸先は闇、運を天に任せて与えられた仕事に全力で取り組む」といったもので、「運」を重んじているのだそうです。
ただ、「運」に任せているだけでは、国内トップレベルの時価総額を保ち続けることは不可能でしょう。定められた社訓などはありませんが、任天堂グループ内では特徴的な価値観が共有されています。任天堂は「独創」の精神を大切にしています。「娯楽を通じて人々を笑顔にする会社」として、どんな人にでも直感的に楽しんでもらえる「任天堂独自の遊び」を提供することを目指しているそうです。そして、どのような娯楽でも、「いつかは必ず飽きられてしまう」といった考えを持ちながら、世界中のすべての人々に向けて継続的に「独創」的な商品やサービスの提案をしているそうです。


ゲーム人口の増大へ

任天堂の歴史を振り返ると、一貫してゲームユーザーの裾野を広げていくことを基本戦略としてきました。言い換えると、任天堂は、既存マーケットにおいて他メーカーとシェアを奪い合うのではなく、ユーザーが任天堂の商品に触れることでマーケットの拡大を実現していきたいという思いを創業以来持ち続けてきたということです。
例えば、1983年に発売された「ファミリーコンピューター」では、親しみやすいゲームソフトMOTHERを通じて人気を得ました。


任天堂のDesign 〜ビジュアルアイデンティティをデザインする〜

任天堂のロゴ、カラー

任天堂のロゴはシンプルでわかりやすい上に、赤色と白色を用いていて、親しみやすい印象を受けます。これは、幅広い層に向けたコンテンツを制作する任天堂の精神を表現するロゴです。赤は情熱やエネルギーを象徴し、白は誠実さを象徴します。このようなカラーの選び方にも任天堂らしさが表れています。

Nintendo HPより

サウンド

ブランドを表現する場は、ビジュアル的なものだけではなく、聴覚に訴える場合もあります。サウンドがロゴのような役割を果たすので「サウンドロゴ」という言い方もします。例えば、ファミリーマートに入ったら店内に流れる音は誰もが意識せずとも認識しているのではないでしょうか。実は、任天堂の人気商品である、WiiやNintendo Switchでは、サウンドロゴが効果的に使用されています。
Nintendo Switchの「カチッ!」という印象的なサウンドロゴを想像できる人も多いのではないでしょうか。発売当初からCMで一貫して使い続けられていることもあり、音を聞くだけで、Switchのワクワク感やゲームの面白さなどを想像することができます。


スプラトゥーン

また、任天堂はゲーム内の世界観が統一されており、ユーザーの心を引き込みます。今回は、任天堂の新人気ソフト「スプラトゥーン」について取り上げます。

スプラトゥーンとは、任天堂が、2015年に発売した世界売り上げ1000万本を誇る、Switchのソフトです。水鉄砲で地面に色を塗る「縄張りバトル」として、多くのファンを獲得してきました。スプラトゥーンはゲームの面白さだけでなく、独自の世界観が幅広いファンを取り込む要因となっています。ここでスプラトゥーンのデザインに着目しましょう。UIデザインの担当者は、「わかりやすさ」と「新鮮さ」の両立を意識してスプラトゥーンを担当したそうです。新鮮さの実現のためには「新フォントの作成」や「イメージを言語化してスプラトゥーンらしい形を模索」、「ポップな配色(色相のあえてずれている色を使用)」などの工夫を行ったそうです。新鮮さが光る中でもさらに調整を行い、わかりやすい表示になるように手を加えました。1つのゲームの中でも、しっかりとブランディングの手順を踏んでデザインが行われています。新フォントが「イカフォント」と認知されたり、UIのキャラクターではなくアイコンが単体のグッズとして販売されたりするなど、「デザイン」がゲームのブランド力を高め、コアなファン獲得につながっている良い事例と言えるでしょう。

Nintendo  HP 「仕事を読み解くキーワード」

任天堂のDeliver 〜ブランドを世界中に届ける〜

Wii(ウィー)

次は、任天堂の大ヒット商品Wiiに着目して「Deliver」を考えます。Wiiは今までの1人きりで遊ぶゲームとは異なり、家のリビングなどで複数人で遊べるゲームとして打ち出しました。実際の操作も片手でリモコンを握って、直感的に使えるものとなっているため、手軽さがあります。誰もが使えるゲームだからこそ、今までは子どものゲーム利用を止める立場であった母親を味方につける商品となりました。このイメージを多くの人に持ってもらうために当時放送されていた、Wiiの発売を予告するCMは、ゲームのコマーシャルと言うよりはNHKの番組を切り取ったようなテイストになっており、ジャンルを問わず幅広い人の目に留まるCMとなっていました。

そして、ゲームソフトの紹介をするCMでは、家にいるみんなで遊ぶゲームとしてのイメージを持たれるよう工夫していきました。

このような工夫をしたことで、今までゲームをしてこなかった世代を取り込み、普遍的で親しみやすいゲームとしてWiiの価値を確立することに成功しました。

キャラクターをゲーム以外の場所に露出させる

任天堂は親しみやすさを追求しながら、何本ものゲームソフトをリリースしてきました。その歴史の中で、マリオやカービィといった人気キャラクターもたくさん誕生しました。今後、任天堂は「ゲーム人口の拡大」から一歩前進し、「任天堂IP(知的財産)に触れる人口の拡大」にも注力していくそうです。その例として、キャラクターのフィギュアやカードの作成・販売を行ったり、大人気遊園地USJにおいて、任天堂初のマリオの世界観を形にした「スーパー・ニンテンドー・ワールド」が開業されたりと、様々な試みが行われています。
さらに、マリオの登場する映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は2023年の4月から日本でも公開されましたが、止まることのない勢いで売り上げを上げています。公開3週間で世界興行収入は1000億円を超え、アニメ映画としての最高記録も狙えるのではないかと言われています。ゲームだけではなく様々なフィールドで任天堂のキャラクターを露出させることでゲームの人気不人気に左右されない、安定した事業基盤を手に入れました。

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー|任天堂

まとめ

今回は、長い歴史をもつ任天堂のブランド戦略を見ていきました。特徴的な点としては、「社是を持っていない」という点がありますが、その中でも、常に多くの人に親しまれるゲームを作ってきたという点で一貫しています。ゲームだけではない事業展開を加速させるであろう、今後の任天堂の動きにも注目していきたいです。

成功企業のブランディング事例シリーズで多くの事例を知ることで、ブランディングに関する知識やアイディアを蓄えることにつながります。本シリーズの他記事に興味がある方は、こちらからご覧ください。