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峻嶽の行者

 黒い岩肌と白い冠雪が倉庫の壁のように連なる山道をキンメリア人コナンは一心不乱に歩き続けている。
 「隊長どのは北の雪国のご出身と聞いていますが、やはりこの程度の雪道は物の数にも入りませんか?」
 「いや、ここはおれの育った土地より雪が重い。進むのに難儀なのは、お前たちとさほど変わらん」
 荒涼たるキンメリアの広野に生まれ育ったコナンは、トゥランの騎兵隊員よりも遥かに雪野に慣れ親しんでいる。しかし、東の彼方タラクマ山脈の丘陵は勝手が異なり、重く湿った厚い雪が足に絡み、確実にその歩みは鈍っている。かといって、馬に頼るわけにもいかない。東の大国キタイへの道のりは、今だ半ばというところだ。
 「隊長どの、あれは何でしょうか?」
 騎兵隊員の一人が空の彼方を指さした。鷹の目の如き鋭さを持つコナンの双眸は、天空をよぎる影、それがまるで散歩道を徘徊するような気軽さで歩く男であることを捉えた。男は禿頭をびしゃりと叩いた。

(続く)

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