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邪教的特異点(カルティスト・シンギュラリティ)

 人ならざるものの奥津城に、二足歩行を始めて間もない類人猿が足を踏み入れた。かつて繁栄を極めた文明の主は既にこの世界から姿を消している。疫病か、戦いか、それとも……だが、それは猿にとってはどうでもいいことである。猿は頭蓋骨だったものを踏み割り、首を傾げた。

 何かに導かれたかのように、猿は部屋へと迷いなく入った。部屋は病的な黄色を基調に、乾ききった血液と臓物で彩られ、星図、偶像、魔法陣、自然を冒涜するあらゆる物品で満たされていた。猿は書見台に開かれた一冊の書物に目をやった。部屋の主だったものがそれを見れば、腹を抱えて笑ったに違いない。猿が本を読む?数すらまともに数えられぬ動物が?だが、猿は書物をじっと見据え、動かない。そして、唇が震えながら音を紡ぎ出す。

「H……A……S……T……U……R……」


百万年後。

 軽薄な姿をした女性アバターが電子画面から語りかける。

「博士、ご要望の古書の解析が終わりました」

(続く)

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