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水底を掻き回すことなかれ

 濃緑色に輝く鱗をした《浅きもの》たちが、交易用の貨物を満載した荷烏賊を引き、集落へとやってきた。
 まだやわい足びれをバタつかせながら子供たちがあっという間に群がっていく。《浅きもの》は子供たちの肉付きを確かめながら、子供たちの両親に交渉を行い、速やかな手つきで買い上げる子供を決める。彼らが進行する神、《偉大なるもの》は水中人の子供の生贄を好んで受け取るそうで、この《深遠の淵》の原始的な経済活動は、その年産まれた子供の多寡によって左右される。生贄になることを免れ、成年になるまで育てられることを許されるのは、ごく限られた者である。こうして、水中人は資源の食い合いをすることなく、穏やかな生活を何万年か続けてきたのだ。
 
 ジョンは《浅きもの》がもたらした柔らかい黄金を慣れた手つきで加工し、磨ぎ上げ、活発にガス交換される酸素を象った鰓飾りを作り上げた。《深遠の淵》で数年来の婚礼が開かれるのだ。

(続く)

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