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Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【7月26日㈬~8月1日㈫】

2月のベルリン映画祭出張時の当通信で、ベルリン市内の公園の一角にある“同性愛者慰霊碑“を訪れた時のことを書いた流れで触れたのが最初だったでしょうか?それ以降、5月のイタリア映画祭で主演俳優のルイジ・ロ・カーショさんが来日してプレミア上映を行った際の通信でも触れてきましたが、弊社配給のイタリア映画『蟻の王』が、11月10日からヒューマントラストシネマ有楽町YEBISU GADEN CINEMAアップリンク吉祥寺他で順次公開になることが、ようやく正式に情報解禁されました。長かった。映画祭上映時の(仮題)も取れました。

イタリア映画祭上映時のアンケート結果により、邦題『蟻の王』のまま行くこと決定しました。

特に「ジャンニ・アメリオ監督の映画はうちで配給する!」と心に決めているワケではないのですが、結果的に4本目。それぞれどんな風に買付けに至ったのかを振り返ってみると、それはそれは「ジャンニとは縁がある」(馴れ馴れしい。笑)としか言いようがない事実が浮かび上がるのでした。

先ずは初めて配給した『家の鍵』は、当時AFM(アメリカン・フィルム・マーケット)という、サンタモニカで行われる映画見本市に参加した際に試写してほれ込んだ作品。“アメリカン~”というぐらいですからアメリカ映画中心の見本市で、ヨーロッパ映画の試写はベルリンやカンヌの映画祭ほど多くはないのですが、たまたま時間が合う、という理由だけで飛び込んだ試写室で上映されていたのが『家の鍵』でした。試写室には私を含め3人ぐらい。感銘を受けすぐにセールス会社にアプローチを開始しましたが、交渉が長引いているうちに、イタリア映画祭で日本語字幕付きで上映され、映画評論家 秦早穂子さんの素晴らしい評が朝日新聞に載ったりして、競合他社さんが現れるのでは、とハラハラしたのを覚えています。

続いて配給した『最初の人間』は、初めて参加したトロント映画祭のマーケット試写で観て決めました。この作品の場合は、“アメリオ監督の新作”で、“アルベール・カミュ未完の小説の映画化”という、「観なくちゃ」という理由が最初からあっての試写。同じくトロント初参加だった岩波ホールの方々お二人にも同じタイミングでご覧になっていて頂き、トントン拍子で『家の鍵』と同様メイン館に決まり、公開まで至りました。

3本目の『ナポリの隣人』との出会いについては、一昨年夏の当通信で詳細を書いたのを覚えて下さってる方はいらっしゃるでしょうか?2019年6月、ナポリで行われたイタリア映画の新作ショウケース“イタリアン・スクリーニング”で、「アメリオ監督の新作」という以外、何の予備知識もないまま試写してとても感動した私は、余韻に浸るべくカフェに入ったのですが、そのカフェが今観てきたばかりの映画の重要なシーンに登場するカフェだった、という偶然!もうこれは「この映画を買いなさい」という映画の神様からの啓示に違いない(美しき誤解。笑)、と確信した、というお話です。

そして4本目の『蟻の王』。実はこちらも昨年6月に開催された“イタリアン・スクリーニング”(開催地はレッチェ)で観て、買付けを決めたのですが、大袈裟でも何でもなくそのスクリーニングの5分前までは、存在すら知らなかった映画なのでした。というのも、『蟻の王』は“シークレット上映”で、前もって参加者に配布されるスケジュールにも明記されていなかったのです。試写室の前を通る時、顔見知りのセールス会社の担当者が立っていたので、念のため「何を上映するの?」と聞くと、「アメリオの新作よ。ヴェネチアに出すから、その前の非公式の特別上映」とのこと。「そんな大事なこと、なんで早く言ってくれないのー!」と、私は大いに慌てました。が、迷わず予定を変更して、観ることが出来たのでした。

冒頭、「1960年代のイタリアの現実に基づく」というクレジットが出て、先ずは「あ、また政治色の強い映画かな…」と警戒したのを正直に告白しましょう。なぜなら前作『HAMMAMET』は、80年代に首相だったベッティーノ・クラクシの汚職事件がモチーフで、当時その事件に予備知識もなく、かつ英語字幕での試写で観た私は、恥ずかしながらストーリーさえ理解出来ず、買付け検討に至れなかった前科があったのです。しかし『蟻の王』は、物語の輪郭が見えてくるにつれグイグイと引き込まれ、ラストは落涙を禁じえませんでした。前3作で組んで頂いた岩波ホールはもう無いし、興行的には容易な作品ではないのは想像出来ましたが、「これをやらないでどうする!」と謎の使命感。しかしながら、ヴェネチアのコンペに出品前の作品で、セールス会社も各映画祭で多くの受賞実績を持つ老舗。「安くは買えないよなぁ…」と躊躇する私…。

意外にも背中を押してくれたのは、その“イタリアン・スクリーニング”に日本から一緒に参加していた某同業者の方でした。その方も2度目の試写でご覧になって作品を気に入ったのですが、アメリオ監督の作品を配給してきたザジを差し置いてオファーするのは憚られるようで、「オファーしないの?」と何度か聞かれました。が、「だって(簡単な作品ではないし…)」「でも(高いだろうし…)」「どうせ(買えないし…)」とグジグジ悩む私…。その方は「ザジさん買わないなら、買っちゃうよ~」とじりじりプレッシャーをかけてきます。分かりました!買います!(笑)

…ということで、某同業の方のプレッシャーは、私にオファーする勇気を与えるための“助言”だったのかもしれませんが、あれが無ければ買えなかったかもしれません。この場を借りてお礼を言わして頂きたいと思います。そんなこんなで公開に至る『蟻の王』、一人でも多くの皆様にご覧頂けるよう、11月の公開に向けて頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

texte de daisuke SHIMURA






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