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映画『ハッピー・オールド・イヤー』公開記念 リアル引っ越しドキュメント②「VHS用だ」「その言葉、久しぶり に聞いた!」

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前回の記事はこちら☞ 連載①「今この部屋には物があふれている」
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『ハッピー・オールド・イヤー』は、断捨離を決意した主人公ジーンが、同居している兄の手を借りて、物で溢れる家の中を整理するところから始まります。部屋の間取りは想像するしかないのですが、一階が家を出て行った父親がかつて経営していた楽器修理店兼、音楽教室。二階が、手作りの服をネットで販売している兄の仕事場兼部屋、ジーン、母親の三人の住居部分、外観は商圏の小さなビルのように見えます。

ガラクタのような品々を捨てて行く場面で、大きめのミニカー(直径20㎝ぐらい?)みたいな物を捨てるのが映るのですが、「これは?」「VHS用の巻き戻し機だね」「VHSなんて言葉、久しぶりに聞いた!」と兄妹がやり取りします。そんな形をした巻き戻し機、私は知りませんでしたが、ネットで調べてみると“ビデオリワインダー”と言って、映画に登場するのと似た、車の形をしたものが、アマゾンに出品されてました。値段は2万~3万ぐらい。

私たちザジフィルムズも、引っ越しに向けて断捨離の真っ最中ですが、先ず恐ろしいほどの数のVHSテープを処分しました。45ℓのゴミ袋、20数袋分。画像はそのほんの一部。大部分は、映画を買い付ける際の試写用のテープ。映画祭や映画見本市で預かってきたものや、海外から送ってもらったものが、積もり積もっておびただしい数になっていました。売れてしまったものは、その都度処分していましが、「そのうち観よう」と思って、そのままになっていたものが30年分(@_@) 結婚して子供が産まれて、その子供が結婚して孫が産まれていてもおかしくない年月です。

ウィキペディアで調べたら、VHSの隆盛は80年代後半から90年代。2000年頃からはDVDレンタルが始まって、VHSのハード機器はおおよそのメーカーが2008年に製造を中止しています。VHSって、もっと大昔のイメージありますが、意外と最近(10年以上前を最近というのかは、判断が分かれるところ)まで流通していたんですね。ただ、ジーンたち兄妹は、まだ20代だと思うので、劇中に登場するビデオリワインダーは、父親が置いて行った物と推測されます。

何百本もあったVHSテープですが、とりあえず闇雲に捨てるのではなく、一本一本タイトルを確認して捨てました。前述の通り、未見のままで捨てるものが大多数ですが、中には当時観て買付けを真剣に検討した作品があったり、別の会社さんに売れてしまった作品があったり(それが大ヒットしてたり)、背のシールを見るだけで、当時の出来事がいろいろ甦ってきて、作業が滞りがち。断捨離って、やっぱ思い出の仕分け作業なのをヒシヒシ感じます。だからでなんでしょうね。肉体的に疲れるだけじゃなくて、心が動くから精神的にも疲れます。そんな心情をきめ細やかに掬い取っている『ハッピー・オールド・イヤー』です。

もひとつ。VHSテープと言えば、本作のナワポン・タムロンラタナリット監督の長編3作目にあたる『あの店長』(2014)に触れておきましょう。タイでは商業上映されにくかった、日本でいう単館系アート作品の海賊版ビデオを多く扱う、伝説のレンタルビデオ店をめぐるドキュメンタリー。常連客の中から、のちに《タイ・ニューウェーヴ》の中心となる映画監督を多く輩出することになった店なんだそうです。大阪アジアン映画祭、アジアフォーカスで上映されていますが、私は未見。ぜひ観てみたい!

◆映画『ハッピー・オールド・イヤー』
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次回の記事はこちらから☞ 連載③「使わない、ってことは、つまり不要ってことでしょ?」

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