【ss】文化祭 #シロクマ文芸部
※書き直しました。
文化祭当日は晴れて暑い日になった。
僕たち文芸部は別棟にあるこの教室で、文芸誌を販売している。
2日前にようやく刷り上がった文芸誌は、暗い鼠色の表紙に白い楷書体で【文芸誌 夏眠】と書いてある。副部長の清香先輩が担当したこの装丁は、水羊羹のような清涼感と共に、清香先輩の作品が持つ”闇“も感じる素敵な仕上がりになった。
ただ、残念なことにメイン会場から離れたこの教室を訪れる人は少ない。暇を持て余した僕は平積みの文芸誌を揃えたり、並べ替えたりを繰り返している。それにしても誰も来ない。
お客さんもそうだけど、同じ時間を担当するはずの清香先輩も来ないのは何故だろう。
◇
締め切りのギリギリになって提出した僕の作品を、清香先輩は黙って何度も読み返した。
異世界転生ものに挑戦します!と宣言していた僕が書いたのが、童話のようなファンタジーだったことに驚いたようだった。
読み終えた先輩は、”清香先輩“から幼馴染の”さーちゃん“の顔になっていた。
「よーちゃん、これ、おばさんにみせた?」
「みせてません」
僕の方はすぐに幼馴染に戻ることは出来ず、つい敬語で返してしまった。
文芸誌に載せる作品を書いたことを母は知っていた。でも、姉をモデルにした話を書いたことは言っていなかった。知ったら怒るだろうか、それともあの時のようにまた泣くだろうか。
母だけじゃない、目の前にいる人だって‥
「怒ってますか?」
「そんな訳ない!いい作品だよ」
いつも厳しい鬼副部長の声が優しく、少しだけ震えていた。
9歳で亡くなった姉の夏美は、さーちゃんの親友だった。
◇
蝉の声が一斉に聞こえたかと思うと直ぐに止む。窓から入ってくる風は爽やかで、もう秋のものだ。雲が流れていくのを見ながらぼうっとしていると、ペタペタと来客用スリッパの音がして母が入ってきた。
「あ」と言ったまま立ち尽くす僕。
「さーちゃんにね、聞いたのよ」
少し赤い目をした母が手渡してきた写真には、澄ました顔でピースする幼い姉とさーちゃん、そして猫耳の付いたニット帽を被ってはしゃぐ僕が写っている。
それは器用な姉がクリスマスに編んでくれたものだった。
母は【夏眠】を4冊買った。
仕事で来られない父と両方の祖父母、それから姉の分らしい。
終
※こちらの続きのような感じで書きました
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