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【ss】文化祭 #シロクマ文芸部

※書き直しました。


文化祭当日は晴れて暑い日になった。
僕たち文芸部は別棟にあるこの教室で、文芸誌を販売している。
2日前にようやく刷り上がった文芸誌は、暗い鼠色の表紙に白い楷書体で【文芸誌 夏眠】と書いてある。副部長の清香サヤカ先輩が担当したこの装丁は、水羊羹のような清涼感と共に、清香先輩の作品が持つ”闇“も感じる素敵な仕上がりになった。

ただ、残念なことにメイン会場から離れたこの教室を訪れる人は少ない。暇を持て余した僕は平積みの文芸誌を揃えたり、並べ替えたりを繰り返している。それにしても誰も来ない。
お客さんもそうだけど、同じ時間を担当するはずの清香先輩も来ないのは何故だろう。

締め切りのギリギリになって提出した僕の作品を、清香先輩は黙って何度も読み返した。
異世界転生ものに挑戦します!と宣言していた僕が書いたのが、童話のようなファンタジーだったことに驚いたようだった。

一年 藤谷洋輔|短編小説「盂蘭盆会」
(あらすじ)

高校生のナツミは夏祭りに友達とはぐれ、下手くそな口笛に誘われて祭りの輪から外れると、猫耳の少年と出会う。
猫耳少年は綿あめを買ってこいやら、掬った金魚を寄越せやら、我儘ばかり言った。断ると新聞紙で作った剣でポカポカ叩かれた。
ナツミはウンザリしながらも少年と過ごす。一緒に出鱈目な盆踊りを踊り、ドラえもんの打ち上げ花火に歓声を上げた。
最後の一尺玉が夜空に消え、隣を見ると猫耳少年は消えていた。


読み終えた先輩は、”清香先輩“から幼馴染の”さーちゃん“の顔になっていた。

「よーちゃん、これ、おばさんにみせた?」

「みせてません」

僕の方はすぐに幼馴染に戻ることは出来ず、つい敬語で返してしまった。

文芸誌に載せる作品を書いたことを母は知っていた。でも、姉をモデルにした話を書いたことは言っていなかった。知ったら怒るだろうか、それともあの時のようにまた泣くだろうか。
母だけじゃない、目の前にいる人だって‥

「怒ってますか?」

「そんな訳ない!いい作品だよ」

いつも厳しい鬼副部長の声が優しく、少しだけ震えていた。
9歳で亡くなった姉の夏美ナツミは、さーちゃんの親友だった。

蝉の声が一斉に聞こえたかと思うと直ぐに止む。窓から入ってくる風は爽やかで、もう秋のものだ。雲が流れていくのを見ながらぼうっとしていると、ペタペタと来客用スリッパの音がして母が入ってきた。

「あ」と言ったまま立ち尽くす僕。

「さーちゃんにね、聞いたのよ」

少し赤い目をした母が手渡してきた写真には、澄ました顔でピースする幼い姉とさーちゃん、そして猫耳の付いたニット帽を被ってはしゃぐ僕が写っている。
それは器用な姉がクリスマスに編んでくれたものだった。

母は【夏眠】を4冊買った。
仕事で来られない父と両方の祖父母、それから姉の分らしい。



※こちらの続きのような感じで書きました


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