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【ss】逃げる夢 #シロクマ文芸部

※改稿しました


「逃げる夢を追いかけてるんですが、こっちにきませんでしたか?」

木枯らしが吹くこの寒空の下、半ズボンに虫取り網を持った長身の成人男性は、一般的に怪しい人物と言って差し支えないだろう。

「さあ、わかりません。"逃げる夢"ってなんですか?」

あー、こっちじゃなかったか、などと呟きながら、男は断りもなく私の隣にどっかと座る。絵本に出てくる夏の子どものような牧歌的風貌に反し、言葉使いはぞんざいでどこか崩れた空気を感じた。

「いろいろあるんですが、ま、悪夢ですよね。全く関わりのない人間が同じ夢を見るって話、聞いたことありませんか? ああいうのはだいたい逃げてる夢ですね」

「一体、何から逃げているのでしょう」

「俺達みたいなドリームハンターですよ。しっかし、この肩書きクソダサいですよね、お役所のやる事はこれだから…」

男はまたブツブツと呟きながら虫取り網を足元に放り投げた。

「ま、賞金稼ぎですよ。レベルⅤクラスを捕まえたら、一族郎党生涯金に困らないんです」

そう言うと、人の耳が沢山入ったビニール袋をどこからか取り出し、手を突っ込んでひとつ取ると噛みちぎってたいして美味しくもなさそうに咀嚼する。

「レベルⅤは淫夢です。サキュバスとかインキュバスとかああいうやつね」

断じて淫夢に興味があった訳ではないが、私は少しこの会話が面白くなってきた。

「アナタが追ってるのもそいつら?」

「そんな大物じゃないですがね。知りたいですか? どんな夢か」

「ええ、まあ、そうですね」

その瞬間、12月の冷たく乾いた風が止み、代わりに湿度を含んだぬるい風が髪と首筋を撫でた。男は私の方に体を向け、淫靡な笑みを浮かべながらゆっくり近づいてくる。

「いいでしょう、でもその前に…」

男の顔がどんどん迫ってきて、私の耳に唇が触れる程にまで顔を寄せると、うっとりするほど甘い声でささやくように言った。

「あなたの名前を教えてください」

「私の名前はーー」

目が覚めると、片方の耳が聞こえなくなっていた。

「やられましたね、アレは逃げる夢のひとつです。レベルⅡクラスの雑魚なので、まあ3日程で治りますよ」

医者はそういうと、慣れた手つきで診断書を書いてくれた。私の耳も今頃あの男に食べられているのだろうかと思うと、聴こえない方の耳がじんわりと熱くなった。

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いつもありがとうございます。
少し遅れました。

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