デブは本当にただの自制心の無さの表れなのか?

「デブなんてただの自制心の無さの表れでしょ!」

友だちから昔なにげなく言われたこの一言がすごく印象的で、自分のデブ観がこのようなものとして潜在的に形成されてきた。

当時は特に太っていたわけではないので、他人事として「ふーん、まぁそんなもんかな」くらいに受け取っていたのだが、

ここ数年の仕事の忙殺(≒怠惰)により、指数関数的にとまではいかなくとも対数関数的に体重が増大し

めでたくも日本の肥満定義BMI25以上のクラスターへの所属を成し遂げたので

ついに自分も自制心の無い人間に落ちぶれてしまったものだ…と悲嘆に暮れていた。

そこで、このままではいけないなと猛省し、無闇矢鱈な間食・暴食を避け、ジムに週2回通うようにし(それまでは月1~2回だった)、試験勉強の傍ら、地味なゆるゆる系ダイエットを始めた。

計画通り、最初の3ヵ月で体重が3kg落ち、体脂肪が5%減った。

純粋に、摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やした「ダイエット理論」に則った結果だ。

ところが、4ヵ月目から奇妙な現象が起き始めた。

それから3ヵ月間も引き続き同じような生活を送っていたにもかかわらず、体重および体脂肪が見事にピタッと固定され変動しなくなったのだ。

ひょっとして「ダイエット理論」は間違っているのでは?

そんな猜疑心を抱きつつ、初めてダイエット本なるものを探して買ってみた。

それがジェイソン・ファン著『世界最新の太らないカラダ』である。

様々な知見に富んでいて私たちのダイエットに関する間違った常識を一つ一つ検証していて面白かったので、体重の増減理論やダイエットに興味ある人はぜひ手にとって読んでみてほしい。

内容をネタバレしない程度に少しだけ紹介しておくと…

○従来のダイエット常識(炭水化物を抜くと痩せる、食事量を減らすと痩せる、運動すると痩せる、低脂肪乳は太らない、肥満は遺伝しないなど)はことごとく間違っている

○「摂取カロリー」ー「消費カロリー」=「脂肪の増減」という方程式は成り立たない(食品のカロリーは等価ではないから加減計算できない)

○一人ひとりに生理機能的に定められた「体重設定値」があり、仮にダイエットに成功して痩せた(ように見えた)としてもそれは一時的で、自動調整機能(ホメオスタシス)が働いて元に戻ろうとする(いわゆるリバウンドを繰り返す理由)

○ゆえに、何かしらの複合要因で高めに定められてしまった体重設定値を下方修正していくことが本質的かつ根本的なダイエット

○体重設定値を決める(肥満の真の原因となる)「肥満ホルモン」なるものが実は存在する

○その「肥満ホルモン」をうまくコントロールしていく食事法と生活習慣について

など、非常にボリューミーな方法論かつ医学的検証が示され、きわめて刺激的な内容となっている。

もちろん、このような類の新しい科学理論はさらなる再現と検証が必要だが

私たちがふだん信じている健康の常識は、間違っている可能性が大いにあること

そして人体の専門家である医者ですらも誤った見地に陥りやすく、アップロードできずにいる(かもしれない)ということ

を少なくともこの本は示唆してくれているように思う。

「なぜ、太った医者がいるのか?」

という疑問もアイロニックで面白い。

そして僕の読後感としては、冒頭の"デブの自制心"の話題に戻るわけであるが

この本の内容を借りるならば、太る人はただ単に自制心が無いとは必ずしも言い切れず、

太るための様々な要因をもち、あるいはその要因を日常で知らぬ間に繰り返していった結果、自由意思なき不可逆的な悪循環に陥ってしまっている、のだろう。

(もちろん自分が太っている状態から"脱したい"と思う人は、やはり、最低限の自制心は必要だと思うが…)

そして「憐れな自制心の無さよ」と一言で片付けられないほどの、 想像を越えた神秘的なメカニズムが人体には備わっているのだな、ということを改めて感じたのである。

デブは果てしなく重い。

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