一人称
世界には、3000~6000もの言語があると言われている
言語数にかなりの幅があるのは、いわゆる「方言」をいかにカウントするかによって変動するからである
日本語であれば関西弁や東北弁を一種の「言語」として数えるかどうか、といったところだろう
ところで「日本語の面白いところはどこですか?」と聞かれたら、どのような返答をするだろうか
私なら「一人称」と答えるだろう
日本語には笑ってしまうほど多くの一人称がある
世界の言語に精通しているわけではないので日本語だけ一人称が豊富とは言い切れないが、知っている限りではかなり特殊だと思っている
まず世界の主要言語における一人称を挙げてみよう
英語 I (アイ)
ドイツ語 Ich(イッヒ)
フランス語 je (ジュ)
中国語 我 (ウォー)
ロシア語 я (ヤー)
ハングル 나 (ナ) または저 (チョ)
やや少ないかもしれないが、これくらいにする
次に日本語の一人称を思いつく限り挙げてみよう
私(わたし、わたくし)、うち、僕、俺、自分
小生、我輩、余、わし、わい、我、わっち、
(※他にも思いついたら後々追記するつもりだ)
日本語の一人称の興味深いところは、それ一つで年齢や身分、場合によっては性格の傾向を知ることができる
一般的に「私」は女性、あるいは公の場での男性がつかうとされる
「うち」は女性の中でもカジュアルな呼び方で、比較的若い中高生ほどの年齢層が使う印象にある
「僕」「俺」は男性が使うイメージが非常に強い
女性でも使うことはあるが、ごく少数だ
「自分」は性別を感じさせないが、私はその分自信なさげにも聞こえるように思う
「小生」はへりくだった言い方で、反対に「我輩」や「余」はやや位の高さを思わせる
ただ、「我輩」は自分が上位であるという自信があり、「余」は自信のあるなしに限らず実際の自分の位が高いことを理解している印象にある
「わし」「わい」は方言か、あるいはお年の方が使う
「我」は「我輩」ほどではないが、確立した自己を思わせる
「わっち」は花魁が使うんだったか
思いついたので入れてみた
他にも多種多様な一人称はあるだろう
選ぶ一人称によって、その人に対するイメージは変わってくる
あなたはいったい、普段どの一人称を使っているのだろうか
そして、なぜその一人称を選んだのか
そう考えると、非常に面白い
私は普段「私」を使っているが、正直なところこの一人称がしっくりきているかと考えるとそうでもない
「私」を使うと、身体が女性である私はほぼ自動的に「女性」として見られる
これで「僕」や「俺」を使えば、周囲からは違和感を持たれるだろう
私としては「私」でも「僕」でも「俺」でも「自分」でもどれでもいいのだが、世間的なものを考えて「私」を選択している
そしてネット上でも、普段の私を反映して「私」を自然と使っている
でも、ネットの上で私は自由だ
どの一人称を選んでも、私は私でありながら、違う人間としてのイメージを与えられる
そしてその一人称が与える印象は、たとえ一人称以外が全く同じ文章でも変わるほど大きなものかもしれない
小説でなくても、エッセイや日記でも、使う一人称を変えるという遊びをしてみたら楽しいんじゃなかろうか
いずれそういった実験もここでしてみたいと思う
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