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【彼女がその名を知らない鳥たち】感想文

部屋や食事場面の生活感が、しつこいほどリアル。
画面は終始薄暗く、登場人物達はどこかネジが外れたような様子に見える。
「気味が悪い」というのが、前半の印象だった。
後半でこの映画のイメージはがらりと変わる。

ヒロインの十和子は、自己中で我が儘、口も態度も最悪でイケメン好きで浮気性という屑っぷり。夫の陣治は下品で粗野で単刀直入に言うと気持ち悪い。俳優陣の演技が凄まじい。十和子にも陣治にも他の登場人物にも、心の底から嫌悪感を抱いた。演出の拘りもすごい。
畳み掛けるような終盤の描写には息を呑んだ。

「愛」について描いた物語は腐るほどあるんだろうけど、多分これは誰も見たことがない愛の話。
見返りを求めず尽くすこと、相手のために罪を負うこと、自分の全てをかけて相手を縛ること。たとえエゴでも欺瞞でも、これを愛だと呼べるだろうか?
無数の鳥が飛び立つシーン、十和子は初めて顔を上げる。
名も知らぬ美しいその鳥たちが、これからの十和子を支え、生かし続けてくれることを切に願う。

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