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詩・ショートショート

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想像の世界を主にまとめています
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#スキしてみて

見えない夕日【詩】

夕暮れの時 水平線の上は薄黒い雲 厚い層を付け足して 主役を覆い隠していた けれど彼は沈んでいない オレンジの光を放ち 雲の際を赤く染め 水の空に黄色を足していく 上空にぼんやりと浮かぶ 儚げな細長い灰色雲 いつしかフェニックスに姿を変え 煤を残して飛び立つとは 風にけしかけられた 若き荒波たち 不死鳥の下で艶々と輝き ゴツゴツとした影を育てていく まだ、彼は沈んでいない

なぜに塩パン【超ショートショート】

「このパン屋さん、初めてなんだよね」 「本当? めっちゃ種類あるんだけど、どれも美味しいよ」 「えー、迷いそう……待たせたらゴメンね?」 「全然いいよー。ゆっくり選んで!」 カランコロンカラン♪ ・・・・・・。 カランコロンカラン♪ 「遅くなってゴメンねえ」 「大丈夫大丈夫。全部美味しそうだから選べないよね」 「初めて見るパンとかもあったのに、結局メロンパンと塩パンにしちゃった笑」 「いっつも食べてるよね笑 でも食べ比べというか、お手並み拝見! って感じで

ピンクのケータイ【詩】

ピンクのケータイ パコンと開いてみる 信じられないくらい小さい 長方形の黒い液晶画面 ぼんやりと浮かび上がるのは ハリネズミのチョコレート 大輪のユリが揺れる花瓶 制服姿の私とあなたの指 見切れた四角い青空—— ぼやけたピントがチカチカ光り 暗闇にとけていく 静かな、静かな、液晶画面 ピンクのケータイ パコンと折りたたみ 引き出しのくぼみに滑り込ませた

予定不調和な無【詩】

スライサーの上のチョコレート 冷たく何かを反射する刃 何も動かない無の空間 ただ一押しで完了する 予定調和の時間 突然空調が故障し 溶岩流に変化するチョコレート ドロドロと不気味な無音を垂れ流し 鋭い鋼を汚して進む 「だって私たちには関係ない」 無機質な床に作った水たまりが 目一杯になった頃 全ての形跡を消し去って そこにあるのは 新品のスライサーと 修復不可能な空調だけ

古びた日記のようなもの【詩】

空と宙の境界線は プラスチックの溝からできていて ぐにゃりと曲がりながら動く世界を 寸分たがわぬ動きで覆っているらしい 形が歪むたびに キラリキラリと反射する透明な可塑物 空から宙も 宙から空も ギリギリのところで見えないんだとか そんな話が今朝の郵便受けに入っていて 色褪せた極薄の紙々が続きを待ち受けている 私に差し出すつもりも無かっただろう書き手は この未踏地の秒読みすらしてしまいそうだ

森のお菓子屋さん(下)【絵のない絵本】

※題名に書いた「絵のない絵本」は、アンデルセンの短編集とは関係ありません。絵本のイメージで書いたお話、という意味合いです。本当は絵も書けたらよかったのですが……(察し)※ ↓ 本編スタート *** 次の日。お店はいつも以上に大繁盛。朝にやって来たネズミのサンが会う人会う人にお菓子の話をしたようです。 「こんなに美味しくなるなんて!」 「私も色々試してみようかな」 新しい木の実も途端に大人気に。そして、最後の一袋を買ったねこのグレースおばあちゃんは、 「チェルシーちゃんの

森のお菓子屋さん(上)【絵のない絵本】

※題名に書いた「絵のない絵本」は、アンデルセンの短編集とは関係ありません。絵本のイメージで書いたお話、という意味合いです。本当は絵も書けたらよかったのですが……(察し)※ ↓ 本編スタート *** とある森の中にある集落。ここでは、色んな動物たちが分け隔てなく仲良く暮らしています。リスのチェルシーのお父さんが営む木の実屋さんは、この集落で人気なお店の一つ。毎日ひっきりなしにお客さんがやってきます。 ある日の夜、お父さんが溜息をついていました。チェルシーが「どうしたの?

クレープのために【ショートストーリー】

「ジャムは絶対いちごなのに、クレープはいつもバナナだよね」 サヤは移動販売のクレープ屋さんからクレープを受け取り、すぐ隣にいたミユに話しかけた。一口目を頬張ろうと大きな口を開けた瞬間だったミユは、その勢いのままサヤの方を向いた。 「甘味に酸っぱさはいらないのよ!」 「ごめん、タイミングが悪かった」 そのやりとりを聞いていたレイカは、自分のクレープに視線を向けたままぼそりと呟いた。 「あー、『文字通りタイプ』ね」 「何そのタイプ笑」 サヤはレイカの不意打ちに吹き出

もしもゲーム【ショートストーリー】

平日の昼下がり、ミユとサヤとレイカの三人は、いつものように大学構内の食堂でテーブルを囲んでいた。金曜日は三人とも次の講義まで時間があるため、ここで駄弁るのが習慣のようになっている。 「ねえねえ、“もしもゲーム”しない?」 ひとしきり一週間の近況報告を終えた頃、ミユが思いついたように提案した。 「いつもながら突然だね? 全然いいけど」 栗色の髪の毛を揺らし、まん丸の瞳を更にキラキラさせて返答を持つミユに、サヤは苦笑混じりで答えた。もはやここまでがいつもの流れのようなもの

受信【詩】

ハロー 円に囲われている私です 今日もすこぶる元気 周りの壁いっぱいに 「私」を表現します ハロー 円に囲われている私です 朗報、壁が薄くなってきています Yeah! しかし、どういうわけか 私も透けてきている気がします ハロー 円に囲われていた私です 最近、壁の一部が欠けました Great!! これでやっと出られます 自由 of 自由!! でも なぜか出られません なおかつ 自分を肉眼で捉えにくいです もしかして 疲れているのでしょうか……?

セピア色に紛れて【詩】

正方形の赤い薔薇 内側から順繰り開いた花びらが ずっと口を開けている 正方形の赤い薔薇 最大限に可憐に見せようとして 最後の真っ白い膜が顔を覗かせる 正方形の赤い薔薇 深い緑の茎に神輿を担がれ 大人と対等な目線で立っている 笑顔の家族よりも、大きな太陽よりも いつまでも色鮮やかな 正方形の薔薇がこっちを見ている

宝石【詩】

転がったデラウェア一粒 房にいる誰よりも 光を跳ね返し 瑞々しさを垂れ流す 宝石然とした姿を 美味しそうだと褒める者たち しかし誰も口元に運ばない 不本意な見本になっただけ 最後の雫を落としたサンプル 突如、幼子の手に包まれ くぐもったはしゃぎ声を聞きながら どこかへ連れ去られていったらしい…… 今は木の実たちと一緒に お菓子の空き缶にて眠っているらしい

stop?【詩】

乾電池の池の中 裸足で立ち泳ぎをする人 親指と人差し指をきちんと開くこと コツをのたまう得意げな顔 ガチャガチャ ギュイギュイ 浮きも沈みもせず 肩を出し入れしている 単一を味方につけるのがミソさ 青白い顔に汗が滴る ガチャガチャ ギュイギュイ また一人、池の前を通り過ぎた ガチャガチャ ギュイギュイ どうだい? この技術は ガチャガチャ ギュイギュイ ガチャガチャ ギュイギュイ

どこまでも【詩】

角が取れたサイコロ やっとのことで立ち止まり 溜息一つ、空を見上げた 早めに来ていた鱗雲 大群をなして空を歩む 薄い水色がさらに白んでいく いっそのこと進んでしまおうか 次止まれる保証はないけど それは一旦置いておこう 壁があれば何とでもなるのだから