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擦り切れた1日の終わりに聴きたくなる10曲

 知らない街での一人分の生活にはいつになっても慣れる気配もなくて、過去のあの場所に置いてきた忘れ物ばかりを思い返しては心を擦り減らす毎日。擦り減った部分はどこに落ちているのかすら目処が立たないまま気づかないうちに遠ざかってしまう。そうやって取りに帰れない忘れ物が増えるばかりの毎日の中で、"失くしたもの"を埋め合わせてくれるような楽曲たちを、誰の為でもなく自分の為に紹介させてください。

①コインランドリー/きゃない

 きゃない自身が毎日同じ時間に訪れているコインランドリーを、変わることなく繰り返される平凡な毎日の象徴として描くこの曲。きゃないにとってコインランドリーが生活の一部として確かに存在しているのと同じように、きゃないリスナーの一人である僕にとって、「コインランドリー」という楽曲は毎日の中で代わりの効かない特別な意味を有しています。
 この曲に出会った日の衝動は今でも鮮明に覚えています。あの日から今日に至るまで、「コインランドリー」を聴かずに過ごした夜は殆どなかった。どんな散々な日でも帰りの電車の中で「コインランドリー」を聴いて涙を流していました。それくらい、救われ続けています。”前向きな後ろ向きはどう進めばいいんだろう” ”回る暮らしの中で失くしたものってなんだっけ”━━━きっといつになっても答えは見つからない問いばかりが生まれてくる。それでも答えを探し続ける中で過ぎ去っていく一日だって”今日はとてもいい日だった”と意味を与えてくれます。散々な一日の終わりに"今日もコインランドリーからはいつもと同じ匂い"の言葉を浴びて心に付着した余計なものを洗い流す僕の毎日も、きっと変わることなく続いていくことでしょう。

②Letter/SHE'S

 「Letter」の歌詞はかなり内省的で、vo.井上が自分自身の心を俯瞰して語りかけているかのような、SHE'Sの楽曲ではあまり類を見ない言葉の向け方が印象的です。自分自身を押し殺して生きることに疲れ切って、変わらなければいけないとは思いながらも変えることはできなくて…。きっと誰もが抱えている葛藤を、あくまで誰かの感情としてではなく自分自身に向けて綴っているからこそ、多くのリスナーの感情に直接刺さるのです。”僕らは大切な人から順番に傷つけてしまっては後悔を重ねていく”というフレーズもまた、誰もが感じている真理に近いのではと思います。どうせ変われないまま明日を迎えるんだろうけど、それでも”あなたを照らせるほどの優しさを探している”と消極的ながら希望を見出そうとするこの曲は、井上竜馬が絶望の中に埋もれた自分自身に、そして自分と同じように絶望の中を生きようとする一人一人のリスナーに宛てた”Letter”です。

③ハッピーエンドへの期待は/マカロニえんぴつ

 メジャー1stアルバム「ハッピーエンドへの期待は」の表題曲であり、”愛してるよ全部足りなかった毎日”と綴るこの曲は、絶望の淵で希望を歌うマカロニえんぴつというバンドをたった3分半で理解させるような、ある種彼らの自己紹介ソングと言える存在です。「マカえんで何かお薦めの曲ある?」とか訊かれることがあれば、迷わずこれ一曲をプッシュしておきます。ハッピーエンドを疑いながらも待ち続ける姿勢は、常にvo.はっとりのソングライティングの根底にあると思っています。絶望で溢れる今を愛してやること。絶望の傍にはいつも希望が潜んでいると信じるはっとりだからこそ、人生は散々なんだと分かっていながら”ハッピーエンドへの期待は捨てるなよ”と歌うのでしょう。マカえんが「サウンドオブサイレン」や「hope」、「はしりがき」といった楽曲を経由した先で辿り着いた一つの答えがこの曲なのだと僕は思っています。

④陽/クリープハイプ

 尾崎祐介はきっと僕の為にこの歌を歌っているんだと、僕は強く信じています。幸せは一瞬なのに不幸せは長居して、明日に少しの期待を寄せてみたってどうせ明日もハズレ。”明日も進んでいかなきゃいけない”ことくらい分かってるけどさ。それでも祐介は、そんな絶望ばかりの現状もそのままで肯定してくれます。”無理に変わらなくていいから 代わりなんかどこにもないから”。僕はこの言葉にどれほど救われてきたのだろう。僕にとって「陽」は、絶望ばかりが目に映る毎日に射す微量だけど確かな希望そのものです。
 東京メトロのCMソングとして書き下ろされたこの曲ですが、個人的に「陽」は地下鉄のCMとしてこの上なく適任だと思っています。遣る瀬無い気持ちで迎える一日の終わりに、後悔と憂鬱を抱えながら疲弊した心身を地下鉄に預けて帰途に就き、明日もまた同じ地下鉄に揺られて一日が始まる。祐介は、地下鉄をそんな憂鬱に満ちた日常の象徴として捉え、この曲を描いたのかもしれないね。

⑤週末グルーミー/Saucy Dog

 以前からずっと大好きな曲だったけど、僕自身が一人暮らしを始めてからは自分事としてより一層刺さるようになりました。ほんと、一字一句が共感できてしまう曲がサウシーには多すぎる。疲れ切って漸く家に帰っても当然のように誰もいなくて、暗い部屋で一人分の食事を用意しては片付けて眠りに就くだけの日々。行き場のない感情の宛先を求めて”誰かと居たい”と願うけど、そんなものは所詮痛み止めくらいにしかならなくて。過ぎ去って行く時間の中でこのままじゃ駄目だと思いながらも、何も変えることもできない無気力な自分を恨んで、”鏡を見るのも嫌になる”朝を何度迎えてきたことでしょうか。何に縋ることもできないそんな今日も”記憶の中の幸せを集めて”どうにかやり過ごしています。今の僕の感覚の機微をそのまま描いたのかと思ってしまうくらい正確に映し出しています。憂鬱や自己嫌悪を映しながらも、最後には”カッコ悪く映ってもいいから 自分が見たい未来だけを信じて”と、現状を肯定して一歩ずつ踏み出すための味方でいてくれるあたりが、石原慎也らしい優しさに溢れています。

⑥愛にまみれて/KANA-BOON

 冷気を纏う夕空は冷たいのに何故か暖色で、一日の終わりの冷え切った心を優しく出迎えてくれている気がしてしまう。そんな夕暮れ時のセンチメンタルを描く「愛にまみれて」は、1日を終えた夕暮れ時になって聴くと、その日の精神状態によっては泣いてしまうくらい僕の境遇に優しく寄り添ってくれる一曲です。”失くしてきたもの取り戻すような日々の中”で流されるようにして生きているから、自分だけが孤独だと感じてしまうけど、絶望に囚われて見失ってしまうだけで、きっと誰だって、形は違っても自分だけの居場所がある。”居場所があるならそれを大切にしないとな”。やっぱり、忘れたくない。知らない街で一人暮らしを始めてから孤独を感じることが多くなって、よりこの曲が刺さるようになりました。どこまでも優しくて、大好きな曲です。

⑦帰り道、放課後と残業/This is Last

 ミニアルバム「aizou」の最後に収録された楽曲。他の収録曲である「愛憎」「アイムアイ」「見つめて」「バランス」の4曲はどれも回想を軸として綴られていて、過去への後悔や怨憎だったり、現状への物足りなさだったりを描いています。
 そんな本作のラストを飾る「帰り道、放課後と残業」が切り取るのは、”忙しなく流れる時間の中で”マイナスな感情ばかりが溢れ、”病んでることにも気づけなくなってる”くらい疲弊した帰り道。夕暮れを背にして”あの頃”の”あの街”を思い出しては、他愛もない日常を羨んだりして。それでも、”みんなほっといてさ、前向きたい”のフレーズには、取りに帰れない過去を欲しがるだけじゃなく、変わることのない今を生きることへの微かな望みが乗せられている気がします。いつまでも過去を引き摺ってきたLASTが歌う”前向きたい”の言葉は何よりも切実で、リスナーの心をより強く揺さぶってくれます。

⑧センチメンタル/SUPER BEAVER

 恐らくSUPER BEAVERに対するパブリックなイメージからは大きく離れた楽曲なのではないかと思います。BEAVERと言えば、前向きな言葉を投げかけて奮い立たせてくれるイメージが強いですが、強さだけでなく弱さにも視線を向けて言葉を紡いでくれるのがBEAVERの本質です。
 ”前進するための選択が何故こうも私の足を引っ張るんだろう”。過去を引き摺って手放せなくなってしまった今の僕には痛いほど刺さります。自分で選んだ道なのに信じ抜いてやることができず、過去を追想しては後悔が募ったり、あの頃に帰りたいと願ってみたり。時として心のどこかに宿る脆弱な部分を曝け出してくれるBEAVERだからこそ、彼らの前向きで力強い言葉は単なる上っ面の綺麗事なんかではなく、確証を持って放たれる真の力強さを帯びたものになるのでしょう。

⑨平日のブルース/back number

 自分は今どこに向かっているのか、どう在りたいのか。正解の見えない日々の中で擦り減りながらも、分からないなら分からないなりに一歩ずつ確かに歩いて行く為の曲です。”意味を探すんじゃなく僕が意味を与えられたらな”という言葉は、自己肯定感が著しく低い僕が一番必要としている言葉だったのかもしれません。結局、自分が生きる日々に意味があるかどうかなんて、自分自身が意味を持たせているかどうかに過ぎなくて。無意味であるようにしか思えない毎日も”積み重ねて笑っていれば誰かの為になることもあるかもね”と言って肯定してくれます。前向きに生きることが人並みにすらできなくなった僕みたいな人間が求めるのはやっぱり「肯定」されることで、どう考えても間違いだらけの今を間違ってないって思い込みたいから、そんな我儘に応え、どうしようもない今を肯定してくれる存在を探し続けているんです。

⑩オレンジ/sumika

 「一人一人にとっての”home”でありたい」という思いを掲げるsumikaというバンドの向かう理想像を描き出す一曲。それぞれの境遇や精神状態に寄り添って迎え入れてくれる、包み込むような温かさがこの曲の魅力です。
 何もかもが上手く行かない日の帰り道、考えれば考えるほど自分の駄目さに気付いて自己嫌悪に陥りそうになるけど、そんな日だって、そんな自分を受け入れてくれる場所がきっとあって、明日からもまた進んでいけるように背中を押してくれる。僕は自分を嫌いになりそうな時ほど、この曲を聴いて無理やりでも自分を肯定してやるようにしていました。駅までの道や帰りの電車でsumikaという存在の優しさに触れる度に涙が零れていたことを思い出します。単に前向きな言葉を並べるんじゃなくて、弱さも受容した上で寄り添って、少しずつでも一緒に歩いてくれるのがsumikaの良い所です。置かれている状況や抱えている感情は人によって違うけど、「オレンジ」が一人一人の心の中で描く”「ただいま」「おかえり」が響き合う”空間は誰にとっても変わることのない居場所でいてくれます。sumikaは今を生きる全ての人に寄り添い、歌っているのです。

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