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エモいパスワード

インターネットで会員登録をするたびに、エモい気持ちになっている。

世はまさに大航海時代。インターネットという大海原に飛び出す勇気がなければ、この時代を生きていくことはもはやできない。物を買う、サブスクで音楽を聴く、映画を観る、メールをする、SNSを使う、なんでもかんでも会員登録が必要である。そこで絶対に必要なのがパスワードだ。

パスワード問題。現代人の心を蝕み、とめどないストレスの原因となっている社会問題である。

何年も前、あるサイトで4文字の数字をパスワードに設定したことがあった。思いつかん。4文字、自分の誕生日か。いや、さすがに安直すぎるだろう。私の誕生日を知る友人や家族に筒抜けだ。これは厄介と考えた私は、当時付き合っていた恋人の誕生日を登録することにした。これだと覚えやすいが見破られにくい。うってつけである。もちろん他のパスワードや暗証番号などもその4文字を併用することにして様々な場面を切り抜けてきた。

数年後、ある時問題が発生した。6文字のパスワードを要求されたのである。しかも英字と数字の組み合わせ。これは参った。どうしよう。6文字のうち4文字は例の彼女の誕生日でいけるが、残りの2文字、さらに英字も必要、となるとあれだ。自分と彼女のイニシャルをつけるしかない。という訳で、自分のイニシャル1文字+彼女のイニシャル1文字+彼女の誕生日という6文字のパスワードが完成した。OK、これで大丈夫。

さらに数年後。皆の予想の範疇であろうが、さらなる問題が起こる。パスワード8文字時代の到来である。当然英字と数字の組み合わせとなる。しかしこれは簡単。すでにある6文字のパスワードをグレードアップさせればよい。私と彼女のイニシャルを2文字ずつにすればよい。これで8文字、OK。とおもったのだが、一つだけ問題があった。

私はもうすでに彼女とは別れていたのである。

だがもう今更新たなパスワードを錬成する力はない。思いつきもしないし、ややこしくなって頭が爆発する。仕方ない。

というわけで、私は未だにその4文字・6文字・8文字を使っている。色々なサイトに会員登録をするたびに、元カノを思い出して胸の奥がキュッとなる。
このエモパスワードは、おそらく私が死ぬまで使い続けることになる。
そういった意味で、私は元カノを忘れることができないんだ。

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