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東映実録路線をご存知か?

1960年代、任侠映画の人気が翳りを見せ始めた頃。予定調和をぶっ壊し、理不尽な現実に立ち向かうヤクザたちの群像劇が量産された。
それが東映実録路線である。
詳しい解説やなんかは各自で調べていただきたいが、本noteでは実録路線との出会いと見どころ、一目見てほしい名作を紹介したいと思う。

出会い

初めて触れた1本目は「仁義なき戦い」だった。
午後のロードショーをきっかけに映画少年になっていた私はある映画と出会う。
高倉健さんが紫綬褒章を受賞したことを記念して放送された、「網走番外地 北海編」である。

そりゃ、健さんって呼びたくなるよ


初めてヤクザ映画を見た。
正直なところ現実のヤクザに対して良い印象はなかったため、今まで通って来なかったジャンルだった。

見てみると、案外面白く見れてしまった。
時代が時代だけに驚くべき展開や素晴らしい映像表現に衝撃を受けることはなかったが、その頃マカロニウエスタンにハマっていた身としてはアクション映画として面白く見れてしまった。

雪原を行く1代のトラック、道すがらの出会いと別れの珍道中。
主題歌に乗せた殴り込み。どれも新鮮でいて安心感があった。

続く何日か網走番外地は放送された。
イメージと違ってべらんめえで陽気な健さんは何故か南国へも行くし何人殺しても死刑にならないし鬼虎親分はどこにでも居て助けてくれる。
このメチャクチャな世界に浸り、硬派な日本侠客伝や昭和残侠伝も見た。見まくって飽きてきた。

どこでも行くぜ!



そんな折、ついに仁義なき戦いに触れる。
名前こそ知っていたが実際は見たことがなく、興味半分怖かったら嫌だなの不安半分でスタート。

めっっっちゃくちゃ面白いじゃん…
見終えた後、脳が焼けた。
耳の奥で広島弁がリフレインするし腹巻きしたくなったし雨の中縮こまってタバコ吸いたくなった。
大実録路線時代の始まりである。

見どころ

ここからは実録路線の見どころを紹介していく。
邦画とかダサいだのヤクザとか暗いだのほざく奴らはケツの穴に焼け火箸突っ込んで町中チンチン廻しさせちゃる!


1、迫る大組織

実録と名乗るからには実際の事件、抗争を物語のベースにしている。
作品の舞台となる時期は山口組が全国制覇を開始した時期となるため、山口組とどう付き合うか?が物語の推進力となる。
傘下につくか?徹底抗戦するか?意地か打算かが試される展開は血を激らせる。

現実世界でも勝てない敵に遭遇する時があるだろう。
後ろに族がいるとか吹聴してる先輩に絡まれたり、大企業に買収をかけられたり、嫌なことがたくさんある。
そんな時、カッとなって敵の幹部に発砲しちゃう渡瀬恒彦や、
死ぬと分かって暴れる松方弘樹を見て俺も戦おうと心を震わせるのである。

2、強烈なキャラクター

事実は小説より奇なりとはよく言ったもの。
実録路線に登場するキャラクターたちの多くは取材によって生まれた者たちだ。
柄シャツに木刀で暴れ回る千葉真一、ミリタリーパンツに上裸で沖縄空手の猛威を振るう千葉真一、血みどろのコートで結婚式に現れる渡瀬恒彦、敵幹部の車のドアにしがみついて引きまわされる渡瀬恒彦、厄ネタの権化渡哲也。
笑っちゃうやられっぷりを見せてくれる川谷拓三。
いつもデカい声の室田日出男…
彼らは善悪で言ったら悪かもしれない。だが好悪で言ったら好なのだ。
なんて人間らしい。なんて愛おしい!

3、明日への活力となる結末

50年近く前の作品群に今更ネタバレもクソもないだろう。
実録路線はほとんどバッドエンドで終わる。
ただ、胸糞悪くはない。彼らは全力で戦っているからだ。
未練も後悔もなく、大組織に飲み込まれるか死ぬか引退するかの結末を迎える。

もしくは宣戦布告というパターンもある。
俺たちの戦いはこれからだ!エンドである。
もちろん男の子は(女の子もおかまも)ジャイアントキリングは大好きなものだ。

ハリウッド的ハッピー!な結末に飽きていた俺は終わり方に痺れた。
ダルい学校も理不尽な先生も自分を文太に重ねればなんてことはなかった。

4、後世のリスペクト

長らく実録路線は俺だけがハマってるオタクコンテンツだと思っていたが、
近年では再注目されているように思える。
孤狼の血は紛れもないリスペクトだし、無頼はタイトルこそ日活系だが中身は東映大作っぽかった。韓国映画の犯罪都市も実録路線の匂いがする。
何より驚いたのは、アニメチェンソーマンの主題歌、KICK BACKについて米津玄師が語るラジオを聞いていた時である。
なんと県警対組織暴力のこんにちは赤ちゃんに言及していたのだ!
チェンソーマン作者の藤本タツキが映画好きというのは知っていたが、
米津!!おい!!マジか!!嬉しいよ!!!
実録路線はまだしゃぶり尽くされていない!!!
まだ間に合うからみんな追いかけろ!!!

お気に入り作品紹介

ここからは数多くある実録路線の中でも、ことあるごとに見返す名作を紹介したい。
おまけに男汁沸るポスターアートもご堪能あれ!

仁義なき戦い / 1973

言わずと知れたヤクザ映画の金字塔。
冒頭闇市の混沌。
ニュース風ストップモーション字幕のカッコ良さ。
組長襲撃の迫力。
葬儀での乱射、そしてあの名台詞!!!!
そりゃハマりますわよ。
明日使える名言「山守さん……弾はまだ残っとるがよう……」

真ん中のオッさんは関係ない別映画からだとさ

仁義なき戦い 広島死闘編 / 1973

一番好きなのは、初めてのお使い場面。
腰を深く下げ……1発!!!
静寂、予科練の口笛、叫声をあげて逃走!!!ストップモーション!!!!
本当に泣ける映画なんですわ。
明日使える名言「どこ行くんじゃい!」「小便じゃい!」

ワシのゼロ戦がドサリとセンター

仁義なき戦い 代理戦争 / 1973

おいおい仁義ばかりでないか。
面白いんだからしょうがない。
広能組の雰囲気がね……良いんですよ。ささやかな一家がいいんですよ……
いよいよ始まる混沌の抗争。唸るエネルギー、若者の死。
泣けるのよ。
明日使える名言「知らん仏より知っとる鬼のがマシじゃけのう」

クレーン拷問!ソナチネで完成される

仁義なき戦い 頂上作戦 / 1974

たまに頂上戦争と間違えてるブログとかある。
消化不良のまま終わる抗争。綺麗には終われない。
だが映画の終わり方は完璧すぎる。
見て!!!!!
明日使える名言「もう舞台は廻ってこんどぉ」

俺の顔なんて映んなくていいと文太さんは言ったらしい

仁義なき戦い 完結編 / 1974

オープニングのダークスーツ軍団大行進は否応なく盛り上がる!!
大友再登場。二丁拳銃腰に刺して堂々とタクシー捕まえてパクられるの好きすぎる。
もはや死んだ部下の顔すら覚えていない広能。
明日使える名言「そっちとは飲まん」

キノコ雲に始まり、キノコ雲に終わる

県警対組織暴力 / 1975

全宇宙で一番好きな映画。
ファッション、屈折したキャラクター、救いようのない結末、菅原文太演じる久能徳松刑事が癖に刺さりすぎた。
脚本の教科書とも評される名脚本も見事。
完成されているようで、戦後社会の欺瞞をぶちまける演説シーンのアンバランス?異物感?も実に良い。
まぁまずは見てつかいや。
明日使える名言「ダンヒルか、ええもん持っちょるのう」

正直ヤクザ姿より好き、大好き

山口組外伝 九州進行作戦 / 1974

実録路線にハマった頃はdmmの配信サイトでしか見れなかった記憶がある。
今はUNEXTで見れるんだから凄いわね。
なんといって文太演じる夜桜銀次の魅力である。
クスリを嫌い、情婦を愛し、舎弟を愛すが気に入らなければ暴れるし撃ち殺す危険な男。だがそれがいい。
舎弟渡瀬恒彦を取り戻す場面、落とし前をつけさせる場面、ブロマンスか?愛だな!
明日使える名言「これでよかな」

白スーツにグラサンが俺を狂わせる

安藤組外伝 人斬り舎弟 / 1974

これも伝説の一本だった。配信もなくVHSすら見かけなかった。
中島貞夫特集をやっていた池袋の新文芸坐まで、学校帰りに学ランのまま見に行ったのは良い思い出。
サングラスにスーツで暴れまくる文太兄貴が素敵。
決闘前に酔い潰れて翌日ケラケラ現れるのキュートすぎるにょ。
明日使える名言「痩せ我慢で2時半まで待ってたよ」

スタイリングが素敵な一本

実録 私設銀座警察 / 1973

京都に負けるかと意気込んだ東映東京が選んだのは悪夢でした。
焼死体のタイトルバック、不貞の子殺し、結婚式の襲撃、天ぷら拷問、乱行パーティとおよそ映画でしてはいけないことをやりきっている。
そのくせ、話は分かりやすいから面白い。
三国人への襲撃で意気投合した暴力集団がチームを結成し、成り上がって滅んでいく、ただそれだけ。
戦後の悪夢の象徴、精神の病んだ渡瀬恒彦がこの混沌とした映画に一本杉を通す。
明日使える名言「なんせ天皇陛下が毛唐の大将に尻尾振る世の中よ」

十字架っぽい配置なのに今気づいた

仁義の墓場 /  1975


ヤクザ映画を超えて怪獣映画のそれに近い。
ワールドイズマインで言えばヒグマドンな渡哲也。
平成生まれとして渡哲也を初めて認識したのはこの映画。
何の前触れもなく加勢する田中邦衛が好きすぎる。
明日使える名言「また、来るぜ…」

ドデカタイトルにこの惹句よ

北陸代理戦争 /  1977

太鼓から始まるタイトルロールのカッコよさは随一!
カニをバリバリ食いながら北陸を制圧していく松方弘樹に震えろ!
明らかに北陸へのヘイトスピーチな締め文句よ。
名著、映画の奈落とセットで見ると趣深い。
明日使える名言「勝てないまでも差し違えることはできます」

当時のポスターと字のフォントが違うのが気になるDVDパッケージ

沖縄やくざ戦争 / 1976

ヤクザを超えて荒ぶる神と化した千葉真一に慄くが良い!
神だから、松方弘樹演じる苦労人の弟分にも憑依してしまう。
名著、映画はやくざなりの巻末には、笠原和夫版沖縄やくざ戦争とも言える、沖縄進撃作戦が掲載されている。映画のキャラクターを重ねて読むと面白い。
明日使える名言「戦争だぁーいすき」

ファッションが良すぎる

実録外伝大阪電撃作戦 / 1976

中島貞夫はもっと評価されてもいい。
ナレーションとモノクロ写真、津島サウンドに赤い筆文字で紡がれるオープニングは失禁モノのカッコよさ!
システマチックに殺しの準備を進める大組織と、飲んで騒ぐしかできないチンピラたち。
そして始まる人間狩り!
諦めない男たちが輝くぜ。
明日使える名言「このまま引っ込むなぁ、けったくそ悪ないけ?」

DVDパッケージのよりこっち派

暴動島根刑務所


脱獄広島殺人囚に続く、松方弘樹の脱獄シリーズ第二弾!今回は脱獄というよりも所内での暴動がメイン。
男だけの酒池肉林の無法地帯と化す刑務所と、
全てが終わったあとの祭りの後感がたまらなく気持ちいい!
明日使える名言「めっしよっこせ!めっしよっこせ!」

過剰!燃えよ刑務所!

やくざの墓場 くちなしの花


締めは深作欣二最後の実録路線で。
闇堕ちした大門刑事部長と化した渡哲也、盃まではせず、クスリもしなかった文太刑事とは異なりしっかり一線を超えていく。
ラストには実録を超越し、今まで撃てなかった相手まで撃つ。

割とマイルド(実録比)

こんなところか。他にも安藤組シリーズだの三代目シリーズだの色々とあるが繰り返し見るのは上記のラインナップだ。
なんという硬めの漢字の多さ!これぞ実録路線といった趣。

こんどはペキンパーかレオーネで似たようなの書きたいな!

#ハマった沼を語らせて

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