見出し画像

はははえすぱー


母というものはエスパーである。
そもそも、女はエスパーなどと良くいうが、それの比にならないくらい母親というものはエスパーだと私は思う。

仕事が終わった帰り道、なんとなく目に入ったトンカツの看板を見て

今日のご飯はトンカツが良いな

と思って帰った日には、母が台所に立ってトンカツのいい匂いをさせているのだ。
母は私が食べたいなと思ったものをよく、その日の食卓に並べていた。
それは私に限った事ではなく、姉や弟妹も良く食べたいものが食卓に並ぶと言っていた。

母はやはりエスパーである。

私はしょうもない嘘をついた。
誰にもバレる事ないであろう嘘を吐いたのだ。
姉や他の弟妹達も気付きはしなかった嘘を母は見抜いていた。
母の私の嘘を見抜く目は、紛れもなくエスパーの目であった。
きっと私が名役者にならない限り母への隠し事は些細なものしか出来ないであろう。
そう、それはきっとクローゼットで眠る漫画のような些細な隠し事くらいしか。


母はエスパーである。

とてもとても悲しい事があった。
誰にも相談出来ず、元気であるふりを続ける毎日であった。
気を緩めてしまうと涙がこぼれてしまうほど、私の心はボロボロであった。
それでも周りにバレぬようにバレぬようにと塗り固めた心で元気であるように振る舞い続けたとある日。
母は私に言ったのだ。

「元気がなさそうに見えるけど、大丈夫?」

周りには気づかれなかった。
"悩みがなさそうでいいね"と言われていた私に母は「大丈夫?」と声をかけてきた。


母はやはりエスパーである。
きっと私の心が読めるのだ。
塗り固めた元気はボロボロと涙と一緒に崩れてしまった。

母はずっと私に寄り添ってくれた。
泣き終わるまでずっと。
私がそうして欲しいと思ったように。


母はエスパーなのだ。
きっと、もしもの話。私が母となった時。
私もエスパーになるのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?