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【創作BL小説】箱庭の僕ら 9話


光は残酷な箱庭から出る】

俺が信じられた人間は、あとにも先にも善だけだ。俺を実際に助けてくれたのも善だけ、俺が「秘密」を話したのも善だけだ。

親、いわゆる「保護者」とは、子どもを保護するもので、子どもに関するあらゆる決定権を握っているし、保護者がいなければ、子どもは物理的にも生きていけない。その保護者が子どもを普段から襲っているなんて誰が思い至るだろうか?

初めてあいつにヤラれた時は、小学生だった。ケガもしたし血も出た。
すごい力で押さえつけられ、いつもと違う興奮した顔で、息を荒くして腰を振っているあいつを振り返って見ても、恐怖で動けなかったし、俺はただ泣きじゃくるしかなかった。

そのズルくてクズな「保護者」は機会があると襲ってきて、その恐怖は今でも消えることは無い。急に肩を叩かれたり、腕を掴まれたりすると、飛び上がるほどビックリしてしまう。

そして、俺は人の体温に嫌悪感を感じるようになった。体育の組体操やフォークダンス、握手やバトンの受け渡しでも、「大丈夫だ」と自分に強く言い聞かせなくては、あの忌まわしい記憶が甦って体調が悪くなる。

俺は学校では、なるべく人と親しくならないように、スキンシップを取らないでいいようにひとりで過ごすことを選んだ。

だけど、善だけは例外だった。俺が、あのクズ保護者に襲われて逃げ出したクリスマスの夜、裸足の俺の手を引いてくれた。

そしてかじかんで、感覚の無くなった俺の足を持って靴を履かせてくれた。あの善の手のぬくもりに安心したんだ。

それから、一緒に帰るようになって、高台の公園で柵に座って、肩が触れても手が触れても、嫌悪感は感じなかった。

親に俺の描いた絵を捨てられたと、泣いて電話を寄越した祭りの日、善は俺に縋って泣いてたけど、全然大丈夫だったんだ。

それどころか、俺は善の頭を撫でて抱き寄せた。善が俺の頬にキスをした時、俺は自分のこの気持ちの意味をなんとなく理解できたんだ。

善だけは生涯ずっと繋がっていたいと強く思った。だから卒業して離れる前に、「月がキレイですね」と善に言ったんだ。善はいつかこの言葉の意味を悟るだろうか。

俺は、クズな大人から、散々ひどい目に合わせられたけど、人を好きになれる気持ちが、まだ俺の中に残っていたということにビックリしていた。

善が・・・もし善がいなかったら、俺はどうなっていたんだろう。あのクリスマスの夜、きっとこの世から去っていたに違いない。善のおかげで俺は今も生きている。俺は善のものだ。善は俺のすべてなんだ。

でも、俺は男だし、善が俺をどう思っているかはわからない。それに、善の家族が信仰している宗教は、そんな俺の気持ちを良しとしないらしい。

この関係を進めることは到底無理なんだ。仮に俺の気持ちを伝えたら、善は苦しみ、悩むだろう。

だから俺は、善とどうこうなろうとなんて思っていないし、もちろん直接的に善に気持ちを伝えることはしない。今も、狂おしいほど善には会いたいと思っている。でも、善のためなら俺はいくらでも耐えてみせる。

ただ、善がピンチの時は、必ず駆け付ける。そして必ず助ける。善の幸せを遠くから願う。一生願い続けるだけだ。そんな生き方も悪くない。

卒業式の時に撮った写真をプリントアウトして部屋に飾っている。同室の人には、「親友との写真」と言ってある。その写真を毎朝見て登校する。それだけで、俺は幸せな気持ちになるんだ。

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