【創作BL小説】箱庭の僕ら 5話
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【善の話】
あっという間に卒業式の日になった。俺はこの日に向けて自分の気持ちを調整し、決意していた。今日で光と会うのは最後だ。
このままずっと光と接していれば、俺は絶対に光のことを好きになる。””同性愛””という最大の罪を背負う事になるんだ。それは出来ない。
今ならまだ引き返せる。光と物理的に離れれば、光と会うこともない、話すこともない、そうすればいつかはこの思いを忘れるだろう。
きちんと組織内でかわいい女の子を見つけて、結婚するんだ。そうすれば、俺はこの罪悪感から解放される。
俺はこのバカバカしい宗教の教えを、本当に信じているわけではないが、すべてを捨てられることも無かった。この組織は生まれた時から俺の居場所だったし、俺はここから離れては生きていけないんだ。
俺は、自分の人生を呪い、絶望感と諦めの気持ちを胸に、学校に向かった。今までも、この宗教のせいで、諦めたことはたくさんあった。
友人との自由な交流、部活に入ること、娯楽を楽しむこと、将来の夢を持つこと、全部捨てることができた。でも光との別れは耐え難いものだった。一番つらい、少しでも気を抜けば、諦めきれないだろう。
””いっそ、この世界が滅びてしまえばいいのに””とか””明日、起きたら違う人間なってたらいいのに””とかそんなことばかり考えてしまう。
卒業式が終わって、クラスでワーワー騒いで、学級委員の俺がまとめて、みんな泣いて、その後、俺は何人か女子に呼び出され、いわゆる告白をされたりしたけれど、とにかく全部謝って断って、やっとの思いで学校を抜け出し、俺は胸に花を付けたまま、急いで高台の公園に向かった。
光はいつものところに背を向けて座っていた。
「光、お待たせ」
「善、意外と早かったな。今日は一緒に帰るとか無理だと思ったから、先に来てたよ。」
「それ正解」
光は俺にジュースをくれた。一緒に飲みながら、街を眺める。
「光とこうやって過ごすのが最後だなんて、信じられないな」
「最後じゃないよ。たまに母さんの様子も見に帰ってくるから、その時またここで会おう」
「・・・」
俺は返事が出来なかった。もう多分二度と光に会うことはない。光と過ごしたこの宝物のような日々を””たった数年の気の迷い””としなければならないことを思うと、俺の身は引き裂かれるようだった。
光はカバンから、ノートを一冊取り出した。
「善、これ良かったら持っていてくれる?」
そう言って俺に差し出した。
そこには光の絵がたくさん描いてあった。昔、描いてくれた五条の絵より、もっともっとすごくて、緻密で、まるでプロみたいなタッチで、色々な物語のキャラクターが描かれていた。俺は目を見張った。光、本当にうまくなったな。
「これ、俺が持っていていいの?」
「うん、善に持っていて欲しいんだ」
と光は目を細めて笑った。
「光は将来、映像関係の仕事に就くのが夢だろ?お前の作った作品を見るのが楽しみだ」
「善は?」
「俺は.…俺はなんだろうな。つまんない人生かもな」
光は深く息を吸って、じっと俺の目を見て言った。
「善、俺たちは..…自由なんだ。善の””どう生きたいか””っていう意思は、誰にも邪魔できないし、善が望むなら、どんな生き方だって出来るんだよ。このことを忘れないで。」
俺はその言葉を聞いて、なんだかよくわからないけど、急に涙がこぼれた。
「善、泣かないで、本当だよ。善はどうしたいの?善の本当の気持ちは?本当は何を望んでる?」
俺は光の上着を掴んで言った。
「俺は、俺は..…お前といたい!」
光は、俺の肩を抱きしめながら、
「大丈夫、大丈夫、一緒にいるよ」
と言って俺の頬にキスをした。
そうして数日後、光は北海道に旅立って行った。
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