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ショートショート部屋

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たらはかにさん主催の #毎週ショートショートnote  に参加した作品をまとめています。
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2022年3月の記事一覧

2人用AI (#毎週ショートショートnote)

「あなた、これ何ですの?」 「金婚式のプレゼントじゃとよ。さっき章から届いたんじゃが」 急須に似て丸く、小さなランプが点灯している。 食卓の真ん中に置くようにという息子からの手紙も同封されていた。 「…飾り物かしら…?」 「そんなとこじゃろう。若い者のセンスにはついていけんがのう」 暫くすると、2人にもその役割が何となくわかってきた。 自分たちの会話を記憶し、相手がいない時には代わりに応えてくれるのだ。 「おーいばあさん。眼鏡を知らんか」 「アナタノ頭ノ上デスヨ」

朝の逆転(#毎週ショートショートnote)

なんであの店に入ったのか、覚えていない。 シラフなら絶対に視界にも入らなかった。 黴臭い赤い絨毯張りの、小柄な女が独りでやってる小さなカウンターバー。 他に客はいなかった。 すぐに出ようとする俺を引きとめ、場違いな、だけどとんでもなくうまいカフェオレを作ってくれたんだ。 パッと見、冷たく見えた女は、口を開けば驚くほど気さくでチャーミングだった。 世間に見下され続ける日々や、苦い思い出だけの故郷の話。 自分でも呆れるほど、俺は洗いざらい彼女にぶちまけていた。 聖人君子の仮面

自己紹介草(#毎週ショートショートnote)

枕元の目覚まし時計がルルルル、と軽やかに鳴った。 と同時に、勝手に体がはね起きる。 昨日までの怠惰な自分がウソみたいだ。 顔を洗い、鏡を見て大きく深呼吸をした。 さあ、旅立ちの時。 ついにこの日がやってきたのだ。 「自信を持て。大丈夫さ」 鏡の向こうの僕に笑いかける。 慣れ親しんだ部屋も今日でお別れ。ドアノブを静かに回した。 その途端、眩い光に包まれた。 同時に僕の体から、すごい力で何かが引きずり出されていく。 「…ッ…くううッ…!!」 激しい衝撃に、気が遠くな

鏡顔 (#毎週ショートショートnote)

若い頃戦争に行った祖父から聞いた話だ。 その戦いはある日突然始まった。 いったい何が原因なのか祖父や他の若い兵士達は何も知らされないまま、軍部から下った相手国への侵攻命令に従わなければならなかった。 ただ手柄の1つも立てれば報奨金が出て、その後の暮らしは一生安泰だと言われていた。 だからとにかく相手は悪いやつだと考えるようにした。 そうして戦意を高めたのだ。 戦車に乗りこみ、ついに敵国の首都へ。 人気の消えた広場に、鏡で造られた巨大な塔が神々しく立っていた。 銃を