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20030611 己已巳

 「洒落のデザイン$${^{*1}}$$」という本を最近手に入れた。江戸時代の戯作者、山東 京伝$${^{*2}}$$という人が編集した「手拭合(たなぐひあはせ)」という手拭いの図案集を詳しく解説している。それを眺めていたら、面白い図案が沢山あった。山東 京伝$${^{*3}}$$という名前はこの本で初めて知った。

 その中で漢字を図案にしたものがあった。図案化したと言っても四つの漢字を大きく書いて並べただけだ。その四つの漢字は「○己●巳$${^{*4}}$$」で、「○」「●」はコンピュータでは表示できない漢字である。

 京伝の解説は「○にかみ 己は志(し)もにつきにけり ●ハミなはなれ巳ハミなつく」となっている。「○」は「巳」の真ん中の横棒の左側が付かない字、「●」は真ん中の横棒だけではなく上の横棒も付かない字である。

 現在、使われている漢字は「己已巳」の三種類だが、江戸時代にはあと二つあったようだ。京伝の解説には「○にかみ」とあるので、「巳」の真ん中の横棒の左側が付かない字は「すで」と読む。従って「已」と同じだったのだろう。

 「己已巳」の憶え方は「みは上に(巳) おのれつちのと下につき(巳) すでにやむのみ中ほどにつく(已)」や「キコの声 おのれつちのと 下につき(己) イすでに半ば(已) シみは皆つく(巳)」がある。己の読みを表した「キコの声」の「キコ」とは何のことだろう。「旗鼓$${^{*5}}$$」との洒落だろうか。鬨の声$${^{*6}}$$みたいなものだろう。私が知っている憶え方は上に書いた最初の歌と「瓜にツメ有り 爪にツメ無し」ぐらいだが、他にも沢山ある$${^{*7}}$$。

 これらの歌の起源は「小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)$${^{*8}}$$」という寺子屋などで使われた往来物$${^{*9}}$$と呼ばれる教科書らしい。この歌字尽$${^{*10}}$$には無数の覚え歌$${^{*11}}$$が載っている。

 「己已巳$${^{*12}}$$」の部分を見てみる。変体仮名$${^{*13}}$$とくずし字で読みにくいが、「巳」の真ん中の横棒の左側が付かない字は「すで」と読むようだ。そして「巳」の真ん中の横棒だけではなく上の横棒も付かない字は「ミ」と読むようである。更に「巳」は「き つち」と読んでいたようだ。

 「己」の読み方の「おのれ こ$${^{*14}}$$」というのだけが現代と同じである。

*1 解説 谷峯蔵・花咲一男 岩崎美術社
*2 江戸net : 江戸人物事典 > 山東 京伝
*3 江戸戯作黄表紙 江戸戯作黄表紙~黄表紙・洒落本作家、山東京伝~
*4 onore.jpg
*5 きこ 1 2 【騎▼虎】 - goo 辞書
*6 ときのこえ ―こゑ 4 【▼鬨の声】 - goo 辞書
*7 間違いやすい 言葉の正誤判定 似た漢字の区別法
*8 往来物倶楽部タイトルページ 家蔵往来物紹介
*9 往来物倶楽部タイトルページ 往来物
*10 望月文庫往来物目録・画像データベース 望月文庫往来物目録
*11 ●小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)森屋治兵衛/
*12 ●小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)森屋治兵衛/ a0000007.jpg
*13 変体仮名表
*14 ●小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)糸屋市兵衛/ a0000011.jpg

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