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20030629 纐纈

 「纐纈(こうけつ)」という名字がある。岐阜県や長野県の名字らしい。近所にこの名字の家が一軒あった。しかし「纐纈」とは書かずに「交告」と書いた。

 この家には私より一つ年下の子供がいた。小学生の頃、交告の名前について教えて貰ったことがあった。彼によると「交告」は便宜的にこの字を使っているが、本当はもっと難しい字を使うというのだ。その難しい字というのが「纐纈」だったのだが、当時は難しすぎて教えて貰えなかった。

 私の場合、幼少の頃に「こうけつ」という音を先に知って、後ほど「交告」という漢字を知ったので、そういうものだと思い、特に疑問は持たなかった。漢字から入るとそうはいかない。「交」はいいが「告」は「けつ」とは小学生には読めない。知らなければ大人でも読めない。そもそも「告」の読みで「ケツ」というのがない。

 「交告」は「纐纈」の真ん中の部分だけを取りだして出来た名字なのである。なるほど、こういった日本の漢字の簡略化は行われてきた。「藝」から「芸」、「醫」から「医」などと同じである。「芸」や「医」と言う漢字は一般的であるが、「纐纈」はあまり一般的ではないので、名字の世界だけの簡略化となっているのだろう。

 しかしよく見てみると「纐纈」の「纐」の真ん中は確かに「交」だが、「纈」の真ん中は「告」ではなく「吉」である。「告」の音は「コク」だが、「吉」は「キチ」だからこちらの方が「ケツ」に近い。なぜ「交吉」とならなかったのだろう。こちらの方が字としてはいいし、更に左右対称$${^{*1}}$$となるので非常に縁起がよい。

 糸偏の一画が吸収されてしまって「吉」が「告」になってしまったのだろうか。一体どういう経緯があったのだろう。

 纐纈の元々の意味は絞り染め$${^{*2}}$$という意味である。「纐」も「纈」もどちらも絞り染め$${^{*3}}$$という意味らしいから、葛藤$${^{*4}}$$と同じ熟語の成り立ちである。

 ついでに「纐纈」は結ぶという意味があるため、「こうけつ」の他に「きくとじ$${^{*5}}$$」「くくり」「はなぶさ」「こうげつ」といった読み方がある。

*1 19991223 対称形の名前
*2 こうけち かう― 0 【▼纐▼纈】 - goo 辞書
*3 愛知日本語研究センター 有松絞り
*4 20030627 葛藤
*5 きくとじ ―とぢ 0 【菊▼綴じ】 - goo 辞書 参考ページ:装束の知識と着方 装束の種類(直垂)

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