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20011113 クロノ

 時計の用語でよく似た言葉がある。クロノメーターchronometerとクロノグラフchronographである。厳密にいうとクロノメーターには二つの意味がある。一つは腕時計や懐中時計のうち非常に正確に時刻を表示することが出来るもの、あと一つは船舶用の時計$${^{*1}}$$である。どちらもそれぞれにある機関$${^{*2}}$$が一つ一つ精度を測定し$${^{*3}}$$、それを認定して初めてクロノメーターとなる。クロノグラフは普通の時計の機能に加えて経過時間が測定できるものをいう。こちらには特に認定機関はない。

 国産の時計$${^{*4}}$$やドイツの時計$${^{*5}}$$にはクロノメーターはない。クロノメーターの認定はスイスの時計$${^{*6}}$$にしかなされないからである。日本製の時計がいくら正確でも文字盤に「chronometer」という文字を書くことが出来ない。一方、「chronograph」は認定云々は関係ないのでいくらでも書き込める。クロノグラフは大抵は小さな針が沢山付いているので、見ればそれと判る。それをわざわざ「chronograph」と書き込むのはもしかしたら「chronometer」と誤解されるのを期待しているのかもしれない。クロノグラフ機能を持つ時計で「chronometer」$${^{*7}}$$の認定を受けているものは沢山あるが、わざわざ「chronometer」と「chronograph」とを併記することはない。「chronometer」は見た目では判らない$${^{*8}}$$が、「chronograph」は見れば判るからである。

 「chronometer」と「chronograph」とにはどちらも「chrono-」という言葉が入っている。この「chrono-」にはどんな意味があるのだろうか。これはギリシャ語の「時」を表す「chronos」からきている。ギリシャ神話でクロノスCronus$${^{*9}}$$というのが登場するが、chronosとは関係がない$${^{*10}}$$。これらが混同されてCronusが「時の神」$${^{*11}}$$とされることがあるらしい。

 「時の神」とは一体何をする神様なのであろう。時間の進行を司る神なのだろうか。世界中の言語には必ず「朝昼晩」という言葉があるくらいだから「時刻」という概念は太古の昔からあったに違いない。しかし時刻は太陽や月の進行に支配されていて変えようのない事、絶対的な事であると普通は思うだろう。それを操っている者がいるという発想は昔の人に出来たのだろうか。

 恐らく「時間の進行」という概念は機械時計が発明されてからできた概念だろう。時計を止めたり進めたりすることが出来ることから「時間を止める」というような発想が生まれてきたに違いない。そうなるとギリシャ神話$${^{*12}}$$に比べると「時の神」はかなり新しい神様$${^{*13}}$$ということになる。

*1 Poljot Russian Ships Chronometer | Merritt's Clocks & Supplies
*2 Chronometre Certificate
*3 スイス時計協会(FH) 東京
*4 SEIKO MX
*5 Sinn Spezialuhren zu Frankfurt am Main
*6 スイス時計協会(FH)東京 <スイスメイド>
*7 Navitimer B01 Chronograph 43 TWA Stainless Steel - White AB01219A1G1X1 | Breitling
*8 Omega Collection - De Ville ref. 4131.30.00
*9 DE MYTHE VAN KRETA
*10 AQ : The Lemures Files
*11 ギリシア-Greece
*12 ギリシャ神話とは:ギリシャ神話の基本:Greek myths -ギリシャ神話の解説-
*13 ギリシャ神話解説 クロノス

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