苦手なことと、愛しい思い出のこと
苦手なことはなんですか?
わたしにはたっくさん苦手なことがあるのですが、そのひとつに「大勢の人の前で話す」があります。それが苦手でよく先生をやっていたなあと思うのですが、でも昔から苦手だし、そんな機会がない今でも、ときどき、大勢の前で話す自分を想像してはゾッとして、「ぜったいむり…」と怯えています。
先生だった時は、可能な限り、全校生徒の前で何かを話す、というものを避けておりました。そんなことができるのか?できません。無理です。任命されたら「嫌です。無理です。」とは言えないのです。それが大人の世界です。でも「誰かやってくれる?」という場面では絶対に立候補はしませんでした。
全校生徒の前で、体育館のステージに上がってマイクを持って話したのは、先生だった4年間の中でおそらく2回だけだと思います。
それ以外は学年集会だったり、保護者説明会だったり、部活動の地区大会だったり…。(これもちろん大緊張です)
でもさっきふと思い出した優しくて、かわいい思い出があります。
ちょうど10年前くらい、わたしが中学校1年生の担任をしていたとき、はじめての学年集会がありました。まだ授業が始まって本当にすぐ、季節は春でした。はじめての学年集会に緊張感漂う子どもたちに対して、先生2年目のわたしもかなり緊張しながら、一生懸命何かを話しました。内容は全く覚えていませんが、おそらく中学校生活についての注意点とか、そんなようなことだったと思います。
できるだけ、おもしろい話をしたいと思っているわたしだったのですが、とにかく緊張してしまって…話し終えたあとからその日1日ずーっと「ぜんぜんうまく話せなかったなあ〜」と落ち込んでいました。
でも次の日。クラスの子たちが毎日書いてくる簡単な日記の中に、とってもかわいい文章を見つけたんです。
「今日は初めての学年集会でとても緊張しました。でも先生(わたしのこと
です)が話すときは、いつも聞いている声だったので、とても安心しました。」
この文章を書いてくれたのは、教室ではとってもとってもおとなしい女の子でした。まだ彼女がどういう子か、わかっていなかったのですが、その日記だけで人柄がわかるようでした。
「なるほど、そんな風に思う人がいるのか」という驚きと、「聞いている方もそんなに緊張するんだな〜かわいいな〜」という気持ちと、すごくほっとする気持ちと…。彼女のたった2行の日記に心が温かくなって、当時、本当に本当に、救われました。だからこの2行がずっと忘れられません。
今思えば、彼女はまだ中学1年生だったのに、日常の小さな出来事の中の自分の気持ちに気づいて、それを家に帰って日記に書くなんて、本当にすてきですよね。伝えてもらえてよかった。この文章を書きながら10年経った今でも、また改めて心が洗われたような気持ちです。
今も大勢の人の前で話すのは苦手なんですが、この思い出は優しくてかわいくて、愛しくて、だいすきです。
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