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イギリスのアレな食べ物3選

「イギリスの料理はまずい。」
決して少なくない人々がそのような印象を持っている。

Google検索で「イギリス料理」と入れてみると、
まずい、やばい、まずい、なぜ、なぜまずい
そのサジェストは語彙力を失ったかのようなひどい有様である。

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だが一方で、どれだけの人が実際に食べて判断しているのだろうか?
それは疑わしい。
私個人が実際に在住してみての感想としては「悪くない」である。
素晴らしく美味しいものだらけ、とは言わないまでも、基本的になかなかどうして悪くない印象を受ける。

なので、皆様におかれても、印象に惑わされず、とはいえ過度に期待せず、実際に食べてみて判断いただければ、期待以上の味に出会えるのではないかと考えている。



とはいえ、である。

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How To Be British Collectionより

火のない所に煙は立たぬものである。
ときに名指しで批判される、悪名高い食べ物も存在する。
そういった食べ物はどうなんだ、と思われる方もいるだろう。

そこで今回は、イギリスの食べ物の中でも特に槍玉に上がることの多い3つのアレな食べ物について、実際に食べてみた感想を取り上げて行きたい。

その1・マーマイト

まずは手始めにマーマイトからいこう。
マーマイト(Marmite)とは、ビールの醸造時にできた酵母を原料にした黒いペーストのような食品である。
見た目にはヌテラなどのチョコレートのスプレッドにも似ているが、非常に塩気が強く、かつ独特の匂いを持つため、イギリス人でも好き嫌いがはっきりと分かれる食品である。

とはいえイギリスでは愛好家の多い食品であり、2016年にEU離脱騒動の余波で英大手スーパー・Tescoのネット通販サイトからマーマイトが消えた際には、the Great Marmite War(マーマイト大戦争)などと呼ばれる大騒動になっている。

他に類を見ない味と香りのため外国人には理解できない味とされることが多く、日本や米国などでは悪評が高く普及してはいない。
Wikipedia「マーマイト」より

一方、イギリス及び英連邦以外の国々では親しまれていないことも現実であり、珍獣ハンター・イモトアヤコがマーマイトを食した際には

「イギリス人の舌どうなってんだ」
「これ毎日食ってる人たち信用できねぇわ」

などと相当に辛辣なコメントを残して話題になった。

さて、そんなマーマイトであるが、これを食べる上ではポイントがある。
主にトーストに塗って食べるわけだが、
 ・しっかりトーストする
 ・バターをたっぷり塗る
 ・その上にマーマイトを薄く塗る

この3つを守ることである。

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マーマイト単体では塩気や匂いが強すぎ、かつトースト上にうまく塗り拡げる事ができないので、自然と量をつけることになり、より塩気も匂いも増すという悪循環になってしまう。

それをバターの上から塗ることで、格段に塗り拡げやすくなるとともに、バターの持つまろやかさと調和して、どことなく焦がし醤油のような香ばしさを感じる味へと変貌を遂げるのである。

用法用量を守って食べると、その愛される所以もわかる気がする、妙に癖になりそうな味わいだった。

結論:バターと一緒に食べると意外と美味しい

その2・ハギス

続いては、スコットランドからのエントリーだ。

ハギス(Haggis)は、イギリスを構成する国の一つ、スコットランドの伝統料理であり、羊の内臓のミンチを麦やハーブなどとともに羊の胃袋に詰めて茹でたり蒸したりしたものである。

聞くからにあまり美味しそうな印象を受けないこのハギスという食べ物については、
フランス元大統領のジャック・シラクが首脳達との会談の中で
こんなひどい料理を作るような連中は信用ができない
と言い放ち、
さらには言われた側のジャック・ストロー英外相(当時)が、
ハギスに関してはシラクの言うことはもっともだ
と、あろうことか同意してしまった、というエピソードがある。

そんな敵味方からフルボッコにされた可哀想なハギスは、スコットランドならば一般的にどこでも食べることが出来る。
私もエディンバラを訪れた際にトライしてみることにした。

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恐る恐る注文すると、鮮やかな3色の物体が私の前に運ばれてくる。

ハギスは一番下の層であり、上の2つはニープス・アンド・タティーズ(Neeps and tatties)という、ハギスに添えられるルタバガ(カブに似た野菜)とポテトのマッシュだ。
上から順に倒さないと本体にたどり着けないあたり、ゲームのラスボスのような立ち居振舞いである。

早速一口。
確かにクセはあるが、中々悪くない。
考えてみれば、羊肉というのはもともと癖があるもので、そのホルモンともなればなおさらだろう。
それと香草が合わさることで、なんとも他に形容し難い味わいを生み出している。

いわゆる珍味というやつだ。
ウイスキーとの相性もいいらしい。
比較的脂っこく濃厚な味わいなので、これだけをひたすら食べるときっと飽きるだろう。そこで付け合せのマッシュの出番だ。安定のポテト、そしてポテトよりはやや水気のあるルタバガのマッシュで口内を整えつつ、お酒をいただく。

やはり好みは分かれるだろうが、酒飲みや珍味好きならお気に召す味かもしれない。

結論:お酒と合う、珍味系の味わい


その3・ウナギのゼリー寄せ(序章)

ここまでははっきり言って前座である。
満を持して大本命の登場だ。

ウナギのゼリー寄せ(Jellied eels)は18世紀に生まれ、特にロンドンで親しまれたイギリス料理である。その名の通り、ぶつ切りのうなぎを煮込み、ゼリー状に固めている。
うなぎは安価で栄養価も高く、ロンドンを流れるテムズ川でもよく取れたことから、庶民によく食べられていたそうだ。

その悪評については、とにかくこちらを一読いただきたい。

(当時)イギリス在住のデザイナーうめだまりこさんによる食レポだ。

イギリスに行くことになった/住んでいる/住んでいた、という話をすると、高い確率でこう尋ねられる。
「ご飯マズいんでしょ?大丈夫(だった)?」

そう聞かれると、序盤に書いたとおり、
「いやいや、実際のところ意外と悪くないですよ」
といつも返していた。

とはいえ、住んでいるうちに一度くらいは本気でヤバいイギリス料理を体験したいと思ってしまうのが、人間の愚かなところである。

駐在当時はうめだまさんの発信される情報をとても参考にしていたのだが、この食レポを見た私は思った。

「これだ!」

このウナギのゼリー寄せならば、私の欲求を満たし、いい話のネタになってくれるだろう。
当時の私はそう思ったわけだ。

しかし、流石に一人で行く勇気がない。骨を拾ってくれる人が必要だ。
ところが、友人たちを誘っても帰ってくるのはつれない返事だし、現地の同僚はあんなものは食べなくて良いと言う。
みんなむき出しの地雷にボディプレスをかますような真似をしたくないらしい。

帰任が迫ってきた頃、そんな私にチャンスが訪れる。
会社を辞め、放浪の旅に出ていた友人がイギリスに到着するというのだ。
これは千載一遇の好機。
空港まで彼を迎えに行った私は、ひとしきり観光地を案内すると、こう切り出した。

私「実は日本に帰る前にどうしても食べておきたいものがあるんだ。金は奢るからついてきてくれないか?」
友「おっ、いいよ~」

計画通り

こうして半年に渡る長旅の末にようやくイギリスにたどり着いた友人は、哀れにも好奇心の道連れとなったのであった。

その3・ウナギのゼリー寄せ(実食)

かつてはロンドナーのソウルフードであったウナギのゼリー寄せも、近年ではすっかり影を潜めてしまっており、提供する店はごく一部の伝統的な店に限られている。
そんな中、唯一日曜日にも営業しているPoppies Fish & Chipsへと足を運ぶ。

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メニューの2番めには、しっかりと「Jellied Eels」の文字が。お前スターターだったのか。

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待つことしばし、ようやくご対面だ。

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いいぞいいぞ。このドギツいビジュアル。絶対にヤバい味がするに決まっている。

いよいよ実食。緊張の瞬間だ。
はやる気持ちを押さえ一口。




会話が止まる私達。

なんだろう。なんというか、ものすごく地味な味だ。

誤解がないように言っておくが、はっきり言ってマズい。
脂ぎっている。味がしない。しつこい。生臭い。
二度とは食べたくない味である。
しかし、その不味さがあまりにも地味なのだ。

満を持して突き落とされた熱湯風呂が44度だったような気分だ。
確かに熱い。しかし中途半端過ぎて、陸揚げされた魚のようにその場を跳ね回って氷の中にダイブし「殺す気か🤬!」などと言うことが出来ないのだ。
「押すなよ?押すなよ?」とワクワクしていた頃の私はもうどこにも居ない。

私だって「イギリスってご飯マズいんでしょ?大丈夫だった?」
と聞かれたときに、一度くらい
ウナギのゼリー寄せっていうのを食べたんですけど、やばかったですよぉ~。人間の食べるもんじゃないですよぉ🤮」
とか言ってみたかった。
これでは地味すぎて話のネタにもならないではないか。

私が唯一苦手な食べ物が納豆だ。
ナイフを突きつけられて「これか納豆かを食べろ」と言われたら、私はウナギのゼリー寄せを食べるだろう。
その程度の味だ。

お前にはガッカリだ。
そう思いながら、残りを胃袋へと流し込んでゆく。
なお、ゼリーの存在意義は最後までわからなかった。

ところで、さすがにウナギのゼリー寄せ1本勝負だと友人にあまりにも申し訳ない、と一緒に頼んだフィッシュアンドチップスはかなり美味であった。
この店自体がかなりレベルの高い店なのだろう。

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ウナギのゼリー寄せも、丁寧な下ごしらえがしてあるのか、食レポにあるような泥臭さは一切感じなかった。
もしかしたらこの店は、ウナギのゼリー寄せ界では超絶品クラスのクオリティなのかもしれない。
それが故にネタにならない味になっているとしたら皮肉なものだ。

なんとなく虚しさを抱えながら皿を空にし、会計を終えた我々に、
口直しだろうか提供されたソフトキャンディーのサービスが切なかった。

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その3・ウナギのゼリー寄せ(終章)

黒いソフトキャンディーとは珍しい。
ため息まじりに口へと運ぶ私。




会話が止まる私。

何だこれは。
マズい、マズすぎる。

え、待って、無理、まずい、やばい、まずい、なぜ、なぜまずい
語彙力を失う私。

薬のような味と香りなのに変に甘く、そして口の中にまとわりついてくる。
これはダメだ。

私が唯一苦手な食べ物が納豆だ。
ナイフを突きつけられて「これか納豆かを食べろ」と言われたら、私は納豆を食べるだろう。
これはそういう味だ。

どうやらこのBlack Jackというソフトキャンディーにはアニスと呼ばれる香草・薬草の一種が使われているそうで、あの悪名高いサルミアッキに使われる甘草に似た味や香りらしい。
どうしてそんなものを口直しに寄越したのだ。

こちらが油断しきったところを確実に仕留めに来る。
なんて恐ろしい店だ。
私の完敗であった。

結論:そんなことよりキャンディーマズい


番外編

ここまで悪評高い食べ物を取り上げてきたが、逆にイギリスで評判の良い食べ物は何か?と言われると朝食が挙がることが多い。

20世紀前半~中盤にかけて活躍したイギリス人作家、サマセット・モームの有名な言葉がある。

 “To eat well in England, you should have a breakfast three times a day.”
 イングランドで美味しい食事がしたいなら、3食朝食をとればいい

他方、日本食はイギリスでもすっかりポピュラーなものとなっている。
街を歩けば、Wagamama、Itsu、Wasabiといったチェーン店が目に留まる。

そんな2つが出逢い、まさかの融合を遂げた食べ物が存在する。
それが、「イングリッシュブレックファストうどん」だ。

それは、ロンドンのウエスト・エンド地区の一角、ソーホーにある日本食店「KOYA bar」で食べられる。

ブレックファストを冠するだけのことはあり、午前中の限定メニューなので注意が必要だ。

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こちらが噂のイングリッシュブレックファストうどんである。

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なるほど、そう来たか。
目玉焼きとベーコン。そしてマッシュルームの代わりにしいたけである。

ベーコン、そしてソテーしたバターの塩気と出汁がよく合うし、月見じゃなくて目玉焼きというのもなかなかどうして好相性だ。
イングリッシュブレックファストのなかでも特にうどんと合う具材だけを選んで組み合わせたのだろう。
日英奇跡のマリアージュである。

このKOYA barは日本人が経営しているそうで、
他の日本食チェーンのように「こいつら日本食を根本的に勘違いしているのでは?」というような料理はなく、安心して祖国の味を楽しむことが出来る。

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イギリス料理の現在

さて、話をイギリス料理に戻そう。
イギリス人に食の話題を振るとよく「昔はまずかったかもしれないが、ここ10年で大きく変わった」と口にする。

以下の記事で、イギリス人が伝統的イギリス料理をどう思っているか?の調査が行われているが、やはりイギリス人自身も伝統的イギリス料理の全てを美味しいと思っているわけではないようだ。

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上記サイトより抜粋

※余談だが、最上位層をGOD(神)、最下層をCRAP(ウ○コ)と称するあたり、どこの国でも発想は似たようなものらしい。

そして伝統的なイギリス料理を元に、各国の良い要素などを取り入れたモダンブリティッシュ料理という概念も生まれ、イギリス料理も進化を遂げている。

なのでやはり「イギリス料理はマズい」という先入観にとらわれることなく、フラットな目でイギリス料理を楽しんでみてほしい。

そして私は、いつかモダンブリティッシュなウナギのゼリー寄せがGod Tierと評され、口直しのキャンディーが必要とされなくなる日が訪れることをいつまでも待とうと思う。


最後までご覧いただきありがとうございました。
次回から、また旅行記に戻ろうと思います。


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