イギリス心の故郷・コッツウォルズ
イギリス観光のハイライト、と言われると、やはりまず頭に浮かぶのは世界有数の大都会ロンドンを始めとした歴史のある都市だろう。
一方で、それと並んで称されるのは、喧騒とは無縁のように広がる田園風景である。今回は、イギリスを代表するカントリーサイドであるコッツウォルズ地方について取り上げたい。
コッツウォルズはこんなところ
コッツウォルズ(Cotswolds)はロンドンの北西、イングランド中央部に約2000km2にわたって広がる丘陵地帯である。
もとは羊毛の生産で栄えた地域であるが、20世紀以後は観光業でも発展し、イギリスらしい田園風景が広がることからしばしば”Heart of England”とも称され、北部の湖水地方と並んで人気の観光地になっている。
田舎探訪
私がコッツウォルズを旅したのは、英国駐在も終わりに近づいていた頃だった。駐在仲間の友人がイギリスを訪れ、休日の観光目的地に選ばれたため、初めての訪問の運びとなった。
英国を代表する観光地と言っておきながら、それまでコッツウォルズには一度も足を踏み入れたことがなかったのである。
さらに言えば、コッツウォルズと並び景観が称される湖水地方には終ぞ訪れることはなかった。
訪れる気がないわけではなかったのだが、まぁ田園風景なら家の周りで飽きるほど見ているとか、どちらかというと自然より建築のほうが好みであるとか様々な理由で優先順位が高くなかったのだ。
行きたいこと、やりたいことをし尽くすには1年という期間はあまりにも短い。
そんなこんなで車を西へ1時間半。最初に訪れたのはバイブリーの街だ。
バイブリー(Bibury)は人口約600人程度であるが、19世紀の詩人ウィリアム・モリスをして「イギリスで最も美しい村」と言わしめた、コッツウォルズ南部を代表する村である。
車を降り、村を歩く。
村の中心にはコルン川という川が流れ、清流には鳥や魚が多く佇んでいる。
そんな川を越え、小道に入るとバイブリー、ひいてはコッツウォルズを代表する景色が姿を現す。
ここ、アーリントン・ロウ(Arlington Row)には、いかにもコッツウォルズらしい黄色みがかった石灰石「コッツウォルズストーン」で築かれた建物が並ぶ。
14世紀に羊毛の貯蔵所として建てられた建物は、現在も現役の住居として活用されており、中世にタイムスリップしたかのようなその出で立ちで屈指の観光スポットとなっている。
また、イギリスのパスポートにも描かれるなど、英国を代表する景色と認識されていることがうかがえる。
この日は雨が今にも降りそうな降らなさそうな、のどかな田園風景を眺めるにはいささか寂しい天気であった。
そんな中、同行した駐在仲間がジャケットを脱いで手に持ち始めたところ、急に晴れ間が覗き始めたのである。
ここに一つの仮説が生まれた。
すなわち、「友人が寒い思いをするのに比例して天候が回復する」というものである。
5月の下旬のイギリスといえばまだ長袖の上着が欠かせない時節といえる。
しかし、以後ゲン担ぎのためにその友人はジャケットの着用を禁止されることとなった。
再び車で北上し30分、次に訪れたのはボートン・オン・ザ・ウォーターである。
ボートン=オン=ザ=ウォーター(Bourton-on-the-Water)は人口約4,000人とバイブリーよりも栄えた村である。
バイブリーのように、中心部を川が流れているが、
その清流の上に多くの橋がかかる姿から、「コッツウォルズのベニス」とも呼ばれている。
のんびりと川を眺めながら過ごす時間は贅沢だ。
そしてやはり川沿いには多くの蜂蜜色の建物が並ぶ。
ここには多くの店が軒を連ねているため、おみやげ探しや食事にも最適だ。
しかしまたここへ来て天候が崩れ始め、雨がパラつきだしてしまった。
友人に季節外れのアイスクリームを食べさせることで天候の回復を図ったが、残念ながら以後効果を発揮することはなかった。
更に車を西へ進め、丘陵地帯へと向かう。
ここブロードウェイの丘の上には高さ17mの塔がそびえる。
18世紀末に、有事の際の狼煙を上げる目的で建てられたとされるこのブロードウェイ・タワーは、頂上まで登ることも可能だ。
ところでコッツウォルズが羊毛の生産で反映した地域であることは先に述べたとおりだが、そもそもコッツウォルズという地名も「羊の丘」を意味している。
ブロードウェイタワーはまさにコッツウォルズを体現したと言える場所なのである。
遠くに街を見下ろす、なだらかな丘陵では羊たちが思い思いに草を喰むのが見える。
コッツウォルズのマグネット
コッツウォルズのマグネットがこちら。
最初に訪れたバイブリー村アーリントン・ロウの家々である。
蜂蜜色とも形容される石造りの家が描かれている。
コッツウォルズの一帯はイギリスのAONB(Area Of Outstanding Beauty:特別事前美観地域)にも指定され、つまりそれだけ価値のある景観と認識されていることになる。
こうした国の原風景というべき景色を次世代に残していきたいという思いは万国共通なのだろう。
未来に伝えたい美しい景観を示すように、最後に少しだけ青空が姿を見せてくれた。
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