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クラブハウスに魅せられて 3.帝国ホテル

クラブハウスサンドが好きだ。
トーストされたクリスピーなパンに挟まれた塩気のあるベーコンとチキン、そしてフレッシュなレタスにトマト。
三位一体とはクラブハウスサンドを表現するために産まれた言葉ではないかと思う時すらある。
これは、そんなクラブハウスサンドを食べ歩く記録である。

クラブハウスサンドのことを記事にし始めてから、複数の方から「クラブハウスサンドなら是非ここを」と推薦をいただいていたところがある。
それが帝国ホテルである。

以前ニューオータニでホテルワークをした際にも取り上げたが、そもそも私の中でクラブハウスサンドといえば良いホテルで提供されるもの、という勝手なイメージがあった。
ニューオータニとともに御三家と称される帝国ホテルではいったいどんなハイソサイエティなクラブハウスサンドが供されるのだろうか。
食べてみることにした。

東京日比谷の一等地に構える帝国ホテルの歴史は1890年にまでさかのぼる。
歴史の授業でおなじみの鹿鳴館に隣接する形で国を代表する宿泊施設として建設されたそのホテルは、建設を説得したのが井上馨、それに応えたのが渋沢栄一というから、その重要性が見て取れる。

そんな帝国ホテルにおいて、クラブハウスサンドはいくつかの施設にて提供されている。
せっかくなので今回はラウンジでいただくことにした。

ロビーに位置するランデブーラウンジでは、喫茶・軽食を楽しむことができる。開放感のある吹き抜けのフロアでゆっくりと腰掛ける。

早速メニューを拝見。

アメリカンクラブハウスサンドイッチ ¥3,350-
さすがは超一流ホテルのラウンジ。ファミリーレストランとは一線を画す価格である。期待は膨らむ。

併せて、冗談のような価格のコーヒーも注文。
5000円超えの超高級ランチとなった。

このご時世、周りは外国人観光客ばかりかと思いきや、思いのほか日本人率が高かったのが意外だった。
隣の席では若者2人がずっと仮想通貨に関する込み入った話をしていた。
そういう時代なのか、と思った。

クラブハウスサンドがやってくるのを待ちながら、ちょうど読みかけだった「他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え」を読む。

場末の酒場で呑むオヤジ達が語る人生の格言や教訓を集めた本だ。
周囲の環境とのギャップに痺れる。
帝国ホテルのラウンジでこの本を読んだ最初の人類は私である可能性がある。

そうこうしている間に冗談ブレンド(冗談のような価格のブレンドコーヒー)が供される。

コーヒーは客席にて、提供される直前にカップへと注がれる。
流石の味だ。しかしそれよりも流石だと思うのは、取っ手が温かいことだ。
つまり、カップ自体が予め温められており、コーヒーを注いでもぬるくならないように配慮されているのである。

さらに待つことしばし、ついに主役がやってくる。

近代建築三大巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライトがデザインした皿にのせられたアメリカンクラブハウスサンドのご登場である。

まず視覚的に特筆すべきは、ピンの不在である。
デニーズやロイホではクラブハウスサンドに剣形のピンが刺さっており、抜いたピンをポテトに突き刺すのがひそかな楽しみであっただけに、少しだけ残念な気持ちになった。
きっとこの場所にはそういうのを卒業した大人たちが集うのだろう。

パンはデニーズなどと同じ、間に1枚挟んだ3枚構成のビッグマックスタイルだ。

早速一口いただく。
トースト感はそこまで強くない。クリスピーすぎずふんわり過ぎず、といったところだ。

まず何といっても印象に残るのはベーコンの美味しさである。
塩気と旨味が抜群だ。チキンやトマトと比べると厚みは薄いが、このクラブハウスサンドにおいては薄さと存在感は完全に反比例の関係にある。

では、厚みのあるチキンが美味しくないのかというと、決してそんなことはない。ほぐしたローストチキンをマヨネーズでマリネしたと思われるが、べちゃついておらず、かといってパサついておらず、単体で食べるとしっかりした旨味を感じる。

このクラブハウスサンドを食べると、まず最初にベーコンの旨味が訪れ、そして後からローストチキンの旨味がじんわりやってくる。見事な味の波状攻撃だ。

ポテトに関しては、正直特筆すべきことはなかった。
だが、さすがは帝国ホテル。客にケチャップをチューブからひねり出させるようなことはしない。
小型のグレービーボートのようなものに入って提供されてくるので、十分な量がある。

ピクルスとオリーブもついている

きっと「おかわり」といえば新たなボートを持ってきてくれるだろうが、それには及ばない量が入っていた。

なお、コーヒーはお替り自由なので、積極的にお替りをした。


帝国ホテルのクラブハウスサンドは、足繁く通うにはいささはばかられる価格であるものの、名門ホテルの矜持を感じさせてくれる味わいであった。

最近仕事の多忙でストレスや不安を感じる日々が続いていた。
それでも優雅な環境で食べる美味しい食事はストレスを緩和させてくれる。
コストパフォーマンスなどという言葉では測れない価値がここにはあるような気がする。


ここに一つの格言が生まれた。

自分が不幸に思えたら「他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え」を読みながら日中の帝国ホテルでクラブハウスサンドを食え。

これで色々と釣り合いが取れる。


充実した気持ちで席を立った。

隣ではまだ仮想通貨の話が続いていた。



最後までご覧いただきありがとうございました。

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