集団における脳活動の共鳴・同期に関する研究

<結論>
「個人間の脳活動は互いに共鳴し,同期して活動しているのではないか」


U. Hassonら(2004)

Intersubject Synchronization of Cortical Activity During Natural Vision


 この論文では,従来の視覚や脳機能解明に向けた研究における,方法論的な問題点の指摘からスタートします.
この方法論的な問題点の克服の仕方も十分革新的なのですが,問題点の克服を試みたことで思いもよらない新しい知見が明らかになったのです.

従来の実験の問題点とはずばり,「実験環境が制限されすぎている」ということです.(そもそも今までは実験環境を制限しないと結果が出せなかったとも言えます.)

視覚系の研究で言えば,

(従来の研究)
刺激が単純であること
・被験者自身の注意の対象を統一していること
前後の文脈や感情を取り除いた環境であること など…

このような研究は,人間の”自然視覚”というにはほど遠く,”現実に私たちが何かを見ている時に,どのような脳活動が起きているか” を明らかにするためには不十分であると指摘しています.

では,筆者らは何を行なったか?
・5人の被験者に30分の映画を見せ,その時の脳における様々な領域の活動の時系列的変化を記録した.(映画は景色が目まぐるしく動き,前後のストーリーがあるので,自然視覚に近い!)
被験者の脳活動の記録の共通点を抽出し,その時にどんな映像を見ていたか遡って調べる

という方法で実験を行いました.

つまり,
従来:「対象物◯◯を,実験環境△△の中で見せてみると,⬜︎⬜︎の脳活動が得られました」というアプローチでしたが,

本研究:「被験者に自由に映像を見せてみたら,⬜︎⬜︎の脳活動が得られた時に,対象物◯◯を見ていた」という風に,得られた脳活動から映画に立ち返って調べるという方法を使ったのです.


一例を挙げますと,
”後紡錘状回の活動は,人の顔が出てくる場面で活性化していた”ということが明らかになりました.
その他にも,側頭溝,大脳皮質の後中心溝の活動も,場面依存的に活性化していたことが明らかになっています.

このように,実験環境をほとんど制御していない条件にも関わらず,5人の被験者は同じような脳の活性化パターンを示したため,被験者間の脳活動は協調して同期したのではないかと筆者らは述べております.

研究は大抵,仮説を明らかにするために実験環境を制御する必要がありますが,実験環境をフリーにして解析の時に遡っていくという手法はとても面白い方法ですね.
本日は視覚研究に関する論文をご紹介いたしましたが,
数学的な手法に関しては疎いため,本分野に精通される方がいらっしゃいましたら,ご教示くださいますと幸いです.


それでは

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