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「コロナ倒産」の共通点から考える…10年先を勝ち抜く在庫ビジネスの形とは

先が見えない新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、企業の関連倒産は4月末までに109件に達した(東京商工リサーチ調べ)。しかし、「関連倒産」とは言いつつも、コロナ危機で急に経営危機に陥ったわけではなく、ここ1~2年の間に倒産に至る伏線があった企業が少なくない。共通するのは、市場がレッドオーシャン(過当競争)化しているのに、やみくもに拡大路線に走ったという点だ。(南昇平)

身の丈を超えた売り場拡大

2020年4月22日、英国発祥のインテリア・雑貨ブランドCath Kidstonを日本で展開するキャスキッドソンジャパン株式会社が東京地方裁判所に破産手続き開始決定を申し立てた。負債総額は約65億円。高い知名度を誇る人気ブランドだっただけに、マーケットには衝撃が走った。

Cath Kidstonはロンドンで1993年に創業。クラシカルなデザインを現代風の感覚にしたコンセプトで、花柄や原色を用いた商品を特徴としていた。
バッグや財布、靴、婦人・子供用衣料品などを取り扱って幅広い年代の女性の支持を受け、日本にも進出。当初は大手アパレルがライセンスを取得して展開していたが、2014年に設立されたキャスキッドソンジャパンが翌年から事業を引き継ぎ、大きなブームを巻き起こしていった。

実店舗は全国の商業施設や百貨店、アウトレットモールなど2020年4月時点で44店。ECも自社サイトや大手通販モールで手がけていた。
ところが、売上高は店舗網の拡大に追いついていなかったようだ。帝国データバンクのリポートによれば、2019年3月期の売上高は25億円で赤字を計上した。

ECを除いて1店舗あたりの年商を単純計算するとおよそ5600万円。帝国データバンクの数字が正しいとすれば、ほとんどの店舗が赤字だったのではないかと筆者は推測する。英ガーディアン紙によれば、英国ではCath Kidston本家が全60店を閉鎖し従業員900人を解雇。ECと卸売り、フランチャイズ事業のみ継続する。

Cath Kidston商品を愛用していたという30代の会社員女性は「当初はそれまでなかった商品が上陸したのでブームになったと思うが、ブームが落ち着いたら、実はターゲット層が結構ピンポイントだった。トレンドの変化に追い着けなかったのでは」と語る。
マーケットが広がる余地に乏しいにもかかわらず店舗数を増やしていけば、キャッシュフローが行き詰まるのは自明の理だった。

好みが多様化するなかでトレンド変化に追い着けなかったのは、本年3月に経営破綻した英国発のライフスタイルブランドLaura Ashleyも同じ。ECに顧客を奪われ経営基盤が揺らいでいたとされる。

また、「マジェスティックレゴン」などのブランドを展開する株式会社シティーヒル(本年3月に民事再生法の適用を申請)も、同じ構図で経営破綻した。
売上の増加を店舗新設に頼り、既存店の1店あたり売上高は伸び悩んでいたため、投資負担と金利負担でキャッシュフローが瞬く間に悪化したのだ。(詳細は下記記事を参照)

「トレンド・需要を見誤った」は言い訳にならない

東京商工リサーチによると、コロナ危機による関連倒産は4月末までで109件。業種別では多い順に宿泊業24件、飲食業15件、アパレル10件となっている。ここで話題を変えて宿泊業の倒産について見てみたい。アパレルと共通する原因が垣間見えるためだ。

カプセルホテル運営の株式会社ファーストキャビンと関係会社4社が4月24日、東京地方裁判所に破産を申請した。2019年末の時点で直営とフランチャイズを合わせ20店超を展開していたが、直営5店舗は閉鎖。公式HPによれば、FC店舗は一時休業中だ。

ファーストキャビンは2006年に創業。高級感のある施設が女性にも人気を集め、国内客だけでなくインバウンド需要も取り込んで急成長した。
日経ビジネス記事(電子版)によると、17年3月期の売上高は15.7億円と5年で約5倍に拡大。18年度も売り上げ倍増を目指していたという。

しかし、この頃には宿泊業界はもう“峠”を越えていた。確かにインバウンド需要は旺盛で、2020年東京オリンピックの特需も見込むことができ、将来は明るいはずだった。
ただ、宿泊業界は参入障壁が低い。さらに民泊の普及へ規制緩和も実施された。その結果、大手ホテルチェーンに異業種の中小企業や個人の土地オーナーまでもが加わって建設ラッシュがわき起こった。

つまり、少なくとも2020年より2年前の時点で市場は供給過剰が原因で既にレッドオーシャン化していたのだった。実際、19年初頭には客室稼働率や料金が下がり始めている。
この辺りは現代ビジネスに掲載された下記レポートが詳しい。

ファーストキャビン経営陣は、こうしたトレンドをどう見ていたのだろうか。コロナ危機による需要の蒸発がなかったとしても、同社の経営はオリンピック後には早晩悪化していただろう。
つまりコロナ危機は倒産の原因ではなく引き金になったにすぎない。

「手持ちのストック」で売上を増やすという考え方

個人消費が予想し得ない減り方をしており、在庫ビジネスにとっては不確実性が増して厳しい環境ではある。しかし確実なことは、アフターコロナは全く違う世界になるのであって、ビフォーコロナには戻らないということだ。

アパレルを例に取れば、国内人口の3分の1が高齢者になる2030年に向けて、今のサプライチェーンを漫然と続けていては、さらに在庫過多が悪化する。「売上を増やすために、売れ残ると分かっていながら在庫を増やす」という消費が右肩上がりだった時代の手法のままでは、遅かれ早かれ立ち行かなるであろうことは理解してもらえると思う。

そこでZaikology Newsは「今ある在庫」で売上を増やした結果、在庫が減っていく在庫実行管理(IEM = Inventory Execution Management)という新たな手法を提唱している。

これまでの「常識」「定説」は以下のようなことだった。
・欠品を減らさないと売上は増えない
・ヒット商品を増やさないと売上は増えない
・在庫を減らすと売上も減ってしまう

そのために商品の種類とSKUを広げすぎ、多めに在庫を積んで在庫過多が常態化していた。

しかし、これらが実は思い込みだとしたらどうだろう。IEMは在庫問題を引き起こしている上記思い込みに囚われずに売上を増やす手法なのだ。
IEMでは以下のように考え、実行する。
・ 「今ある在庫」の中から、まだまだ売れる商品を見つける
・ 「今ある在庫」を使い、単価を上げる
・ 「今ある在庫」のうち、どの商品を補充すべきか見極める
※詳細は下記資料を参照

既存店売上高の前年割れが続いている株式会社しまむらは、今後4,5年で都市部を中心に「ファッションセンターしまむら」など約100店舗を閉鎖する方針だ。
同社は郊外に出店することで高成長を遂げ、2016年頃からは賃料の高い都市部でも積極的に出店してきた。しかし、ここ1,2年は目立ったヒット商品がなく、2017年2月期をピークに減収減益が続く。

2020年2月に就任した鈴木誠社長は4月24日付繊研新聞に掲載されたインタビュー記事の中で、これまでの拡大戦略からの転換を明言している。

「商業環境の変化に私たちが合わせていけなかったことです。毎年、人口が30万、40万人減っていきます。これは、中規模の都市が一つ消えるようなものです。全国で見れば薄まりますが、そうしたもとでのしまむらの拡大戦略は、今から考えると、間違いだったのははっきりしています」
「かつてしまむら1店の年商は3億~3億1000万円でした。それが2億8000万円に下がっています。オーバーストアとなって自社の店舗間でシェアを奪い合っているのです。本来の立地に店を置き直すことができれば、当然、売り上げも、利益も回復するでしょう。これはある程度見えています」

大手ですら、こうした方針なのだから、中堅・中小アパレルが進むべき道は明確ではないだろうか。